• 脚本家・辻真先の語る『どろろ』の思い出
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2019.06.25

脚本家・辻真先の語る『どろろ』の思い出

どろろ (C)手塚プロダクション/ツインエンジン

話題のアニメ『どろろ』が昨日、ついに最終回を迎えた。50年前の1969年に小説版『どろろ』を手がけたのは、アニメ脚本家でもある辻真先さんだ。TVアニメの草創期から現在まで、半世紀以上活躍し続ける辻さんが、小説化の経緯や新作『どろろ』への思いを語ります。







どろろが女の子だなんて聞いていなかった!


── 小説『どろろ』の発売は1969年9月、白黒版アニメ版『どろろ』の放送の終わり頃だったそうですが、どのような経緯で手がけられたのですか?

朝日ソノラマの編集者から「書いてよ」と言われて「いいよ」と言った、そんな感じだったかと思います(笑)。当時のソノラマは一種のサブカル交差点みたいな場所で、たとえば赤塚不二夫さんが井上ひさしさんを紹介したりと、いろんな人が出入りしていたんです。今でいうライトノベルの源流もそこで生まれました。僕はそのソノラマのすぐ隣にあった喫茶店ウッドを仕事場にして いたので、どんどん仕事の依頼が舞い込んできました。『どろろ』は僕にとって2作目のノベライズです。

── 当然、『どろろ』の原作マンガはご存知でしたよね?

もちろんです。原作が連載されていた「週刊少年サンデー」は、創刊号から現在に至るまでずっと読んでいますからね。百鬼丸とどろろの相棒ものとしての面白さもあるし、手塚治虫先生が妖怪ものを真っ正面から描いたというのも新鮮でした。ただ、僕はアニメ版のほうには全然関わっていないんです。手塚作品にはたくさん参加してきましたが、その頃の僕は『ひみつのアッコちゃん』や『もーれつア太郎』『巨人の星』の仕事で忙しかったのかもしれません。

── あちこちから引っ張りだこだったのですね。

あの頃は、アニメの脚本を好き好んで書く人なんて、かなり限られていたんです。まだ「アニメ」という言葉もなくて「テレビマンガ」と言われていた時代で、「大学を出てNHKに入ったヤツが、なんでマンガの仕事なんかやってる?」とか言われていました(笑)。

── 小説『どろろ』はあとがきによると、原作やアニメが最後どうなるか分からない状態で書かれたそうですね。

アニメは4月から1年間放映するはずだったんですよね。だから、倒すべき魔神(今回のアニメでいう鬼神)も48体で考えられていて。それが、視聴率が振るわず半年で終わることになり、おかげで小説版も前倒しになったんです。クリスマスくらいに発売する予定だったのに、「アニメが終わってしまうと売れ行きが非常に心細いから、9月いっぱいに何が何でも本屋に並べる!」と編集 者に追い立てられ、ひいひい言いながら書きましたね(笑)。

── 表紙や挿絵も、北野英明さん(白黒アニメ版の作画監督)が手がけ、アニメとの連動感がうかがえます。

お話自体は、原作ベースなんですけどね。原作の冒頭から、当時の連載の最新部分までの要素を入れ込んだ形です。

── 冒頭の48体の魔物との契約のシーンは、小説でかなり盛られています。この寺にはどんな言い伝えがあり、醍醐景光(小説版では醍醐影光)は何を考えていたのか。

そのあたりは、小説らしいゆったりしたテンポ感でじっくり書きました。手塚先生の原作のストックを待ちたかったというのもありますしね。それが、途中からいきなりスケジュールに巻きが入ったので、ストーリーのペースも上がったんです(笑)。万代、妖刀、白面不動、ばんもん、無情岬(今回のアニメでは無常岬)など、とにかく入れるべき要素をコンパクトに詰め込んで、時間が余ったら付け足していこう、という方針に切り替えました。ただ、一気呵成で書いたからこその、いい意味での勢いも出たかもしれません。頭の中のヤカンが沸騰したまま、お湯が冷めないうちにワーッと書いた手ごたえはあります。

── 小説版のラストは、船に乗って旅立つシーンで終わりますが、続編発行の話はなかったのですか?

あるわけないですよ! アニメが半年しかもたなかったのに、小説版だって売れるとは思えないでしょう。ただ、意外と復刊のご希望も多く、『どろろ』の実写映画化(2007年)の際に復刻版が出たのは嬉しかったですね。

── 小説版を書いていて苦労したところは?

今回のアニメは違いますが、原作のどろろって口汚いんですよね(笑)の演技があってこその面白さだと思うんだけど、活字だけで書いても雰囲気が出ないなあと。でも、そこは仕方ないので、割り切ってそのままいきましたけどね。しかし、それよりも何よりも、 どろろが女の子だったなんてびっくりしましたよ。北野さんも僕も全然聞いていなかったので!

── コミックスだと、ストーリーの前半部分で「実は女の子」と分かる描写が入っているんですけどね。

そこはおそらくコミックス化の際に、手塚先生が追加したんだと思います。もし連載段階で見ていたら、北野さんも僕も、女の子だと気がつかないはずがないもの。 僕は原作のラストがどう終わってもごまかしがきくように、あえてどうとでもとれる終わらせ方にしたんです。最後は「どこまでも行け、少年たち!」という結びにしてしまって、「ああ、しまった!」という感じでした。

── 少年たちではなく、少年少女だったと(笑)。

 手塚先生はとにかく、「究極のもの」を作りたい人なんです。もちろん究極なんてありえないんだけど、その時点においてはベストのものにしたいという。確か『展覧会の絵』(1966年公開、手塚さんが原案・構成・総監督)の時だったかな、アニメの試写会の第1回と第2回で内容が違うんです。手塚先生は「やっぱりこのシーンはいりません。このシーンを入れます」とかいうのを平気でやっちゃう人だから(笑)。だから、どろろが女の子だというのも、連載を終わらせるための打ち上げ花火として、何か一ネタ欲しくなったんじゃないかな。で、コミックス版では、さも最初から計画していたかのように辻褄を合わせたのかなって思うんです 。

どろろ (C)手塚プロダクション/ツインエンジン


ミステリ作家・アニメ脚本家
辻 真先(つじ・まさき)
1932年、愛知県生まれ。名古屋大学卒業後、NHKに入局。その後、フリーでアニメや特撮の脚本を手がけながら小説家としてもデビュー。現在は『名探偵コナン』の脚本にも参加。デジタルハリウッド大学名誉教授。

※手塚治虫の「塚」は点が入った旧字が正式表記となります


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文/アニメージュ編集部

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