• 京都アニメーション作品はなぜ高品質なのか? アニメ界の巨匠が語る
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2019.07.25

京都アニメーション作品はなぜ高品質なのか? アニメ界の巨匠が語る

情報元:『アニメージュ』2005年2月号

この度の京都アニメーションにおける放火事件の犠牲となりお亡くなりになった皆様に、心より哀悼の意を表します。 被害に遭われた方々におかれましては、一日も早いご回復をお祈りいたします。

アニメ『タッチ』や『銀河鉄道の夜』で知られる巨匠、杉井ギサブロー監督の連載コーナー「杉井ギサブローのアニメでお茶を」。2005年2月号では、当時放送されていた、京アニこと、京都アニメーション制作のTVシリーズ『AIR』を取りあげている。地方の制作会社が全力でアニメーションに取り組む誠実さに、杉井監督も一目置いていた。その内容を通して、改めて京都アニメーションの重要さを知っていただけるよう、当時の記事を公開する(記事内容は紙面掲載時での状況に基づいています)。

ギサブローのアニメでお茶を「制作スタジオの挑戦と未来」


『AIR』という作品、最初は“美少女もの”だと思って「僕に面白さがわかるかな」と不安でした(笑)。でも、TVアニメとは思えないくらい非常に丁寧に作られていて驚きました。

女の子が何人か登場するのですが、それぞれのキャラクターの性格の違いが「動き」で表現されている。これってかなり凄いことなんです。たとえば走るシーン。普通は動画の中割り2、3枚の、決まったパターンの動きで走らせてしまうところを、ちゃんとシーンの「効果」を計算して中枚数を変えて動かしている。キャラの「演技」を演出しているんです。会話の途中で女の子が後ずさりするなんて演出は、TVでは普通やらないですよ(笑)。今回は第3話まで観させていただきましたが、演出も作画も少しも崩れていない。感心しましたね。

京都アニメーション

この作品の制作が京都アニメーションだと聞いて、とても納得しました。ここは、以前からアニメ関係者の間では非常に有名なプロダクションです。大きな制作会社の下請け受注をしているのですが、大変しっかりとした仕事をしてくれると定評があり、どこの現場も発注したがるんです。スケジュールに無理があると断られるので、京都アニメーションに仕事を出すためにスケジュールを調整するということもあるほど評価が高いんですよ。僕も『キャプテン翼』のときに依頼を受けてもらえなかった経験があります(笑)。

アニメが量産・大量消費の方向に進んでいるなか、業界に打ち込まれた“楔”のようなプロダクションといえるんじゃないかな。今の制作現場は作品のクオリティに関して、どうしてもどこかで諦めざるを得ない状況にあるんです。本当は、もっと高いクオリティに仕上げられる力を持っているけれど、それを諦めることでビジネスを成立させている。たくさん作って、たくさん消費されて……忙しいけど充実できない。悪循環ですよね。それがいいことだなんて、誰も本当は思っていないけど、抵抗できない。でも京都アニメーションは、それに抵抗することがいかに重要か分かっているし、実践している。本当に大変なことだと思います。

コミュニケーションの密度が質へ

京都アニメーションには80名近いスタッフがいて、原画・動画・演出・背景・撮影まで、制作部門をすべて内部に抱えているそうですね。制作スタジオにすべてのスタッフを抱えるという方法は、TV時代に逆行した制作体制と受け取る人もいるかもしれない。でもデジタルというツールが主流になってきた今では、逆に先を行っている制作体制だと思いますよ。新しい技術によって省力化されるということは、実はスタッフ間のコミュニケーションの密度が「質」へと向上できるということを意味しているんです。京都アニメーションの社長さんはかなり先鋭的な考え方でスタジオを運営されていると思います。ぜひ一度お会いして、お話してみたいですね。

それにしても、京都という地方から、東京中心のアニメの現状が揺さぶられるというのは象徴的ですね。あの市川崑監督も戦前に関西でアニメをやられていますし、“日本のアニメの父”といわれる政岡憲三さんのスタジオも、京都じゃなかったかな。

丁寧さを貫いてほしい

第3話は「これから面白く展開していきそうだ」と予感させるところで終わっているので、早く続きが見たいですね。実は今回、小学5年生のうちの娘につき合ってもらって、いっしょに観たんですよ。僕には「丁寧な作品であることの価値」が分かるけれど、子供にとってはどう映るんだろう――丁寧であることがひょっとして、TV番組としてのテンポのゆるさとして受け取られる可能性もあるかも――そう思ったから。子供って、そういう意味では素直で残酷ですからね。

観終わった娘の第一声はこうでした「こういうキャラって、普通はエロがくっついてくるじゃん。それがまったくないって良いよね」――まったく子供の諒解事項っていうのは、凄いところで成立しているものですね(笑)。

『AIR』には、最後までこの丁寧さを失わないでほしいと期待していますし、きっと京都アニメーションならその期待に応えてくれるんだろうな、とも思っています。娘も「続きを早く観たい」って言ってましたから。

『AIR』
STAFF▶原作/Key/ビジュアルアーツ 監督/石原立也 シリーズ構成/志茂文彦 キャラクター原案/樋上いたる(ビジュアルアーツ) キャラクターデザイン・総作画監督/荒谷朋恵 音響監督/鶴岡陽太 アニメーション制作/京都アニメーション

︎CAST▶国崎往人/小野大輔 神尾観鈴/川上とも子 霧島佳乃/岡本麻見 遠野美凪/柚木涼香 神尾晴子/久川綾 霧島聖/冬馬由美 みちる/田村ゆかり ほか

文/アニメージュプラス編集部

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