• 『HUMAN LOST 人間失格』 木﨑文智 監督 スペシャルインタビュー
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2019.10.12

『HUMAN LOST 人間失格』 木﨑文智 監督 スペシャルインタビュー

(C)2019 HUMAN LOST Project

太宰治の「人間失格」を、近未来を舞台にしたSFアクションに再構築。一瞬なんのことだかわからず、フリーズしてしまいそうな作品『HUMAN LOST 人間失格』が2019年秋に全世界で公開される。公開前から世界中の映画祭やイベント上映での評判が高い期待の作品だ。そんな作品を監督した木﨑文智監督にお話をうかがった。

大丈夫かな、っていうのが最初の印象です



ーー HUMAN LOST 人間失格』の基になったのは、有名な文学作品です。こちらを原案とするという企画は、どのように決まったのでしょうか?

木﨑 もともとの企画書では、日本が誇るSFアニメション映画である『AKIRA』や『攻殻機動隊』、その次にくるようなSF映画を作ろう、という基本的な考えがありました。では「人間失格」、太宰治の古典文学をベースにしてみてはどうか? ということになったのです太宰先生の生きていた時代と僕らが生きる今の時代って、変革期というか似ているのではないか、その時代の閉塞感のようなものが、現在とすごくマッチングしているのではないかと。社会保障機関『S . H . E . L . L .(シェル)』という組織が出てくるのですが、人類を幸せにするはずの機関なのですが、人々は幸せそうじゃない。現代の日本でも社会保障、年金も破綻するのではないかと言われている中で、そういう社会背景や先細っていく閉塞感が、今の社会にマッチングして、みんな観てくれるのではないかというのがこの企画の原点だと思います

ーー 閉塞感、今我々の生きている世界での漠然とした不安と繋がったと思います。

木﨑 まさにそれですね。登場人物は閉塞感のある世界の中で、それぞれの思いを持って生きているのですが、観た方が、いずれかに感情移入できると思います。この作品を観てどう思って欲しい、というのは僕にはなくて、どう感じたのかは観た人自身に委ねたい。「こうだ」というのはない、そんな作品になっていると思います。

ーー それも初めから相談されていたことなのでしょうか?

木﨑 最初に僕のところにスロウカーブから企画が来た時は、ただ、太宰治の「人間失格」をベースとしたSF映画を作ろうと思っている、ということで入り口はざっくりしていたと思います。無理でしょうって。とにかく暗いじないですか。暗いし救いもないし、これをアクションエンタメにするのは相当難しいだろうな、大丈夫かな、っていうのが最初の印象ですね。

ーー スーパーバイザーの本広克行さんや、ストーリー原案・脚本の冲方丁さんとは、どういう風にお話を詰めていったのでしょうか?

木﨑 本広さんとも冲方さんとも、お仕事をするのが初めてでした。「人間失格」をSFにします、じゃあどうしましょうか? というスタートだったので、まずはアイデア出しです。どういう方向性で進めようか? 何をベースにしようか? というところでアイデアを出し合いました。その段階で、本広さんからいろいろアイデアをいただきましたね。無病長寿の設定は最初からあったのかな。ベースになる最初のアイデアを本広さん主体で出していただき、そこから冲方さん、プロデューサーチーム、同時にコンセプトアートでビジュアルのイメージも出しながら形を作っていくような作業です。シナリオに関しては冲方さんと、かなり時間をかけてやらせていただきました。プロットからシナリオに仕上げるまで、1年以上かかっていると思います。冲方さんもかなり大変だったと思います。

ーー 人類に無病長寿をもたらしたナノマシンのアイデアはどなたですか?

木﨑 冲方さんです。SFの世界観設定を含め、用語も冲方さんに作ってもらっています。この設定が結構複雑で難解なので、僕自身理解するのに結構時間がかかりました。なので、そちらにお客さんの意識がいってしまうとまずいなと思ったんです。でも設定を説明し始めるとそれで終わってしまうし、映画としていかんなって。なのでキャラクターのドラマを1本の軸として、そこに最低限必要な設定だったりをちょっと説明していくようにしました。ドラマとしてはシンプルでわかりやすいエモーショナルなドラマ。設定はちょっと難解なんだけど、1回通して観たときにそこまで気にならないようにはなっていると思います。

ーー 疑問に思ったら何度も観ると思います。

木﨑 それも狙いです。「あれは何だったんだろう」ともう一度観る。そこも、観た人が好きに考察して欲しいと思います。あの時のあれは何だったんだろうって。

ーー 観直して気がつくことも出てくると思います。

木﨑 そうですね。現場でも設定を理解するのがものすごく大変でしたから。解釈によって映像が大きく変わるものも結構あって、なかなかこれというのが説明しづらいものもあったんです。

ーー とは言ってもSFとなると余計、設定がきちんとしてないといけない部分もありますよね?

木﨑 そうなんですよね。僕、実は難解なものが結構苦手で。わけがわからなくなるんですよ。当然長い制作期間中に理解は高まっていきますが、性格的にあまり難しいことを考えたくないんですね。もちろん最終的にはひとつ想定する解釈を定めて制作していきますが。

ーー 監督のアイデアが採用されたところはどのあたりでしょうか?

木﨑 全体的にちょこちょこ入っています。シナリオはビジュアルに落とし込む前のものなので、これをどう効果的なロケーションとアクション、芝居で見せていくかっていうのはほぼ僕、もしくはポリゴン・ピクチュアズの現場が作業をしていったので、まんべんなくそこは僕が決めていきました。これやりたいっていうのも入っていますし。もちろんみんなの同意を得ながらです。

ーー 誰もが知ってる有名な文学作品が原案ということで、余計に気をつけた部分はありますか?

木﨑 ただ単に太宰治先生の著名な小説を使った二次創作のどうしようもない作品、という評価は絶対に嫌だなと思っていました。「人間失格」の根底にある部分、聖人性だったり、儚さだったり弱さだったり。そこにはすごく気をつけました。キャラクターの造形に関しても、(大葉)葉藏に関しては特に、元のイメージから極力外さないように再構築しました。「人間失格」をちゃんとリスペクトした作りにしたつもりではありますね。大変だったんですよ(笑)。

ーー 他に大変だったところは?

木﨑 全部ですね。何もかも(笑)。原案はありますが、このストーリーはオリジナルなので、つまりちょっとしたガジェットひとつに対しても、どうするんだっていう議論がいっぱい出るんです。それを冲方さんの作ってくれた設定にはまるようにしないといけないので、ひとつひとつ頭を抱えるシーンしかなかったなと。

ーー 海外の映画祭などにも行かれて、カナダ・モントリオールで開催した第23回ファンタジア国際映画祭ではアニメ部門・今敏アワード特別賞を受賞していますね。

木﨑 ちょっとびっくりしました。海外の反応はすごかったですよ。終了後にスタンディングオベーションの大拍手。海外でも評価されてるっていうのは、日本の文学作品が基ではあるので意外なところでもあり、うれしいっていうのが正直なところです。

ーー 見どころを教えてください。

木﨑 僕の立場からすると全部ってなっちゃうんですが、みなさんが僕に多分期待してくれているのはアクションでしょうか。ポリゴン・ピクチュアズさんの技術で作っていますので、そこはもうびっくりするような仕上がりになっていると思います。またそれ以上に、登場人物の心情や感情表現、そういう機微がすごく丁寧に描かれていますので、そこも大きな見どころになると思いま
す。


文/阿部雄一郎

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