ーー急速に発展した新市街があって、へばりつくように残っている旧市街があって、みたいなイメージを持っていました。賀東 そうですね。ただ、旧市街は全然設定にないし、絵にもなっていないんですよ。原作では写真がちらっと使われていて、初代担当の望月(充)さんのご友人がイスタンブールにしょっちゅう行く方で、大体はその写真らしいですね。ものすごく急成長しちゃった街っていうのに一番合っているのはやっぱりドバイかな。もしくは漢字のない上海とか。でもいまだにこれだっていうイメージがないですね。ただひとつ、道路は広くしてほしかった。アメリカの街に行くと普通の道路でもやたら広いじゃないですか。「2ブロック向こうに店があるよ」って言われて歩いたらとんでもないことになった。日本の1ブロックとは全然違うっていうスケール感ですね。
ーー元々は『ドラグネット・ミラージュ』(竹書房刊)として2006年にスタートしたシリーズですよね。でも作中ではそんなに長い時間が流れているわけではない。賀東 せいぜい6ヶ月ですね。
ーー10数年経った中で、何か時代に合わせて変えたりしたようなことはありますか。賀東 特にはないですね。スマホとかのガジェットについては多少反映させていますが、それも2005年、2006年くらいにはすでに写真が撮れる、メールも送れるっていう携帯電話があったので齟齬は生じていないんじゃないかな。「スマホ」っていう言葉がなかったので「端末」と表現していたとは思いますが。
ーーアニメの第8話で、ティラナが猫のクロイと入れ替わってスマホを操作するじゃないですか。あれを観ていて、「肉球で操作できるのか?」って一瞬思いました(笑)。賀東 それなんですよ。できるのかなあって。誰か猫を飼ってる人に試してもらいたい。
▲#8 SMELLS LIKE TOON SPIRITS担当編集 実際にできたらしいですね。電気が流れるので。
賀東 あれを書いた時(原作4巻・2014年刊行)はすでにスマホがあったので、スマホっていう表現にシフトしていましたね。顔認識のAIとかも6巻で出ていますが、それも反映させています。あと書いていて面白かったのが、6巻でカーチェイスっていうか追跡劇をやって、相棒とはぐれるんだけどスマホの位置情報で追いかけられるっていう。これは今だったらできるかなって思いましたね。
ーーガジェットなどの味付けはあっても基本はいわゆる“バディもの”ですよね。それも『マイアミ・バイス』や『リーサル・ウェポン』のような80年代っぽい。賀東 そうですね。1話や2話あたりは超ベタベタ、コッテコテの、むしろ最近見ないくらいのバディもので、ちょっと新鮮でしたね、自分でも。(津田)健次郎さんもそうおっしゃってましたね。(昭和)46年生まれでしょう。
ーー僕も48年生まれで大体一緒の感覚なので、すごくよくわかります。賀東 設定ガバガバなポリスアクション。もうなんかね、敵のギャングとか10人くらい撃ち殺してから次の場所に車で行っちゃうから。現実にはそんな事件を起こしたらすぐに自分の使った銃を提出したりしなきゃいけないですよね。
ーーティラナもすぐに手首切り落としちゃいますし。現代だと大問題ですよね(笑)。▲#2 DRAGNET MIRAGE賀東 それでもおとがめなしっていうのがこの世界なので。「あんなめちゃくちゃなカーアクションしやがって。おかげでこっちは大変なんだぞ」って言われるくらいで。そこにツッコまれても、僕は知りませんよっていう。第2話の頭だったかな、銃撃戦の最中にソファの陰に隠れて、敵がバシュバシュやって「ちくしょう」っていうシーンに、「あんなソファで防げるわけないじゃないか」って言われて。何言ってるんだ、防げるに決まってるだろうと。僕、映画で見てたから間違いないですよって。
ーージョージ・ルーカスの宇宙みたいなものですね。賀東 「俺の宇宙では音はするんだよ」っていうね。そこまでは言いませんけど(笑)。でも僕はちゃんと見たことがあるから、間違いない。
ーーちゃんと映画で見た(笑)。賀東 映画で見た。怒られたりツッコまれたりしても、「何言ってるんだよ」って。