• もし吾妻ひでおの美少女マンガを読んでいたら、『ジョーカー』も多少は癒されていたかも
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2019.11.29

もし吾妻ひでおの美少女マンガを読んでいたら、『ジョーカー』も多少は癒されていたかも

漫画家・吾妻ひでお(享年69歳) Photo/小林嘉樹



 私が徳間書店を退社し、復刊ドットコムに席をうつした2017年、吾妻さんはご自身の癌を公表いたしました。

 復刊ドットコムでは吾妻さんの担当編集が存在したので、仕事をご一緒する機会はなかったのですが、癌公表の前も後も、幾度かにわたって、いつもの保谷駅前の珈琲館で吾妻さんとはお会いいたしました。いささか猫背でチェーンスモークで語る吾妻さんの姿に変わりはないように見えました。昨年末、私は大病して倒れ、一歩間違えれば死んでいたのですが、本年春に退院し、フリーの編集者となることになったときに、復刊ドットコムの担当氏から「吾妻さんが心配していた」と聞きました。あまり携帯電話がお好きではなさそうだった吾妻さんから「携帯に電話してもかまわない」とのメッセージをいただいていたのですが、お会いするとなると、かなりのご無理をかけるのではないか、と連絡とることに腰が引けていたところ、今回の訃報が飛び込んできました。

 今ではお会いしておけばよかった――と思います。



 昨年から今年にかけ、80年代90年代のサブカルの検証が相次ぎ、根本敬作品や「鬼畜系」といった切り口への、パワハラ・セクハラ・モラハラといった立ち位置からの批判があり、コンビニからのエロ本の撤去(ついでに言えば、飲食店での室内完全禁煙なども)が進行しています。そんな現在から考えれば「ロリコン」など唾棄するべき考えなのかもしれません。しかし、吾妻作品には男の欲望を暴力として描くようなことはなされていません。美少女たちは加害の対象となる一方的な被害者ではなく、人格の欠落した〈物〉として踏みにじられることはありません。ミャアちゃんも阿素湖素子もちびママちゃんもななこも、〈純文学シリーズ〉のあの子もこの子も、踏みにじられることを〈是〉としない強さをもち、そこで登場する男や怪物や異様な機械たちは、彼女たちに睨みつけられたらシオシオと負けを認めることを厭わない強者とはかけ離れた存在なのです。むやみに拳銃などを使ってはいけないのですよ、ジョーカーさん!

 コメディアンになりたかったジョーカーと、ギャグマンガ家であり続けようとした吾妻さんの志向は、本当にコインの裏表のように思うのです。ですから今回の『ジョーカー』には登場していませんでしたが、〈ジョーカーさま好き好き〉なハーレー・クイン(キャラクターの誕生は1992年と、意外と最近。来年『華麗な覚醒』するらしい)よりも、例えば猫山美亜(『スクラップ学園』主役ミャアちゃん)のほうがよっぽど強いし、先進的なのです。



 時代の気分、時代の実感というものは当事者たちが去ると薄れていき、さまざまな誤解や無理解が生じるものですし、海外からのごり押しや、故意に政治的に読み替えようとする風潮が発生する場合があります。私としては、吾妻作品にそのようなことが決して起きたりしないよう、10年後20年後も読まれ続けられるよう――祈っています。



 すでにかなりのテキスト量を重ねてしまいました。

 そろそろ終わりとしたいのですが、最後にいくつか――。

 吾妻さんとの思い出で、私がもっともお役に立てた(この表現でいいのか疑問ですね。どちらかというと草履を温められた?)のが、2006年、出版されたばかりの篠崎愛ファースト写真集『START DUSH!!』をプレゼントしたこと(これをきっかけにファンになられたとのこと)。嬉しかったのが某作品の主要キャラを「これあなただから」といってくれたこと。編集者として心残りだったのが、吾妻さんも大ファンであった筒井康隆さんの『旅のラゴス』を「マンガ化しませんか」と提案した折に(まだ筒井さんにお話していませんでしたが)、「畏れ多いし、もう、ページ数が多くて、締め切りのある仕事を受けることは難しい」と(その後も、前記したように細かな仕事はいくつもお引き受けいただいたのですが)実現させられなかったことでしょうか。



 吾妻さんによって生まれたカルチャーは数多くあるのですが、それこそきりがないので(たとえばTYPE-MOONのゲームだって、新海誠映画だって)、ここまでに。
とにかく吾妻ひでお先生、同世代の皆々を代表して、ありがとうございました。


吾妻ひでおファン葬
日程:2019年11月30日(土)
関係者献花:14:00~15:00
ファン献花:15:00~17:00(※上記終了次第開始)
会場:東京都 築地本願寺第二伝道会館 瑞鳳の間
住所:東京都中央区築地3-15-1
※献花用のお花は会場に準備されていますのでそのままおいでください
※服装は自由です

吾妻ひでおファン葬のご案内

7代目アニメージュ編集長(ほか)大野修一/Photo:小林嘉樹