• 『このマンガがすごい!』回収と『映画秘宝』休刊の令和元年‼
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2019.12.22

『このマンガがすごい!』回収と『映画秘宝』休刊の令和元年‼

『このマンガがすごい!2020』の回収と『映画秘宝』の休刊

【コラム】現実逃避に首ったけ⁉  
(3)カイシュウ怖い、キュウカン怖い。 

 ネットが好きかと訊かれたら、それがなかった時代に思春期を過ごせた自分は幸せなのかもしれません、と答えるしかない。という言い方でもう、婉曲に好きではないと言っているに等しいので、どこかで反感を買うのでしょうか。

 まあ、本が好きで好きで、本に取りつかれてしまった人間にとっては、当時のほうが本の価値が高く、その価値観の時代のほうが居心地がよく安心するというだけです。失われてしまったわが故郷!

 「レトロフューチャー」という言葉が流行ったのは80年代で、とうに30年以上たっています。今の10代、20代、そして当時生まれた30代の人間にとっての「懐古趣味的未来」とはどんな画、イメージなのか知りたいです。読書芸人カズレーザーが「しくじり先生」でセガのメガドライブについて、昔の話として語っていましたが、(まったくゲームをしない人間にとっても)当時のハード開発競争はふつうに話題のネタでした。徳間書店ではゲーム雑誌『ファミコンマガジン』が100万部を超えていたはずで、ついこのあいだと言っていると頭がおかしいと言われるのでしょう。調べてみたら発売は1988年、「レトロフューチャー」が小松崎茂の絵で思い浮かべられていた時代のことなのです。

 今回のお題、ひとつは知人との電話、ひとつはネットで知りました。
 まずは、マンガの年間ベスト本『このマンガがすごい!2020』の回収の件。
 本の年間ベストというコンセプト成功例『このミステリがすごい!』が刊行開始されたのは、奇しくもメガドライブ発売とおなじ1988年。この成功によって版元の宝島社は、長編新人賞である「このミステリーがすごい! 大賞」を2002年に創設し、人気作家・実力派作家を輩出していきました。

 マンガの年間ベストとしては、ほぼ同時期から、恒例の刊行となった『このミステリがすごい!』とフリースタイル発行の『このマンガを読め!』(現在は同タイトルの本ではなく、『フリースタイル』の年1回の特集)は、そのベスト作品の相違がおもしろく、比較していたのですが、今年は突然の回収。

 カイシュウ、カイシュウ、大カイシュウ。
 恐ろしい話です。

 私も編集者として校正が不得手なほうでして、様々な誤植を出してきましたが(威張れたことではありませんが、反省してもなくならないのが誤植です)、校閲漏れはなく回収にまで至ったことはありません。今回の回収理由に「インタビューページの不備のため」と発表されていますが、当該書を入手したという人間からのまた聞きでは「不穏当な表現は見当たらない」とのことでした。出版での回収理由には名誉棄損案件、差別表記案件、皇室表現案件などいくつも種類がありますが、それらでは無さそうとしたら何なのでしょうか。

 「不備の詳細は差し控えたい」という表現や、再販については検討中、ということを考えると、誌面の構成やインタビューのチェックなど、編集手続きの根本のところで「不備」があったのかもしれません(こちら余談ですが、ミスと不備のニュアンスの違いは大きかったりしますので、一度立ち止まって考えてみることお勧めします)。

 といった勘繰りを記したいわけではないのです。気になるのは「再販については検討中」という状況です。こういった年鑑的なものは継続刊行に資料的価値があるので、形にしておくべきという考えは、現状にそぐわないということなのでしょうか。

 それとも国会図書館にはちゃんと収められているのか?……と懸念することこそが古い、オールドファッションなことなのかもしれません。

 どうも釈然としません。

 毎年マンガのベストは上記2冊に、『ダ・ヴィンチ』の特集、それと手塚治虫文化賞をならべて、やっと1年の動向が読み取れるのですが、単なる「情報」だったら、ネット、Webで発表しているので充分ということになるのかもしれません(メルカリでけっこうな値段がつけられているのが、編集者の立場で思うといささかイラっとします)。




7代目アニメージュ編集長(ほか)大野修一

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