• 映画『ジョーカー』日本語吹替版でアーサーを演じた平田広明 『「普通だったね」って言われるのが一番嬉しい』
  • 映画『ジョーカー』日本語吹替版でアーサーを演じた平田広明 『「普通だったね」って言われるのが一番嬉しい』
2020.01.29

映画『ジョーカー』日本語吹替版でアーサーを演じた平田広明 『「普通だったね」って言われるのが一番嬉しい』

1月29日にブルーレイ&DVDリリース、デジタルレンタルが配信開始される映画『ジョーカー』。日本語吹替版では、アーサー・フレック/ジョーカーの吹き替えを平田広明さんが担当している。


――ホアキン・フェニックスは演技自体もですが、役作りですごい体を作ってきていたじゃないですか。あの鬼気迫る演技を吹き替えるために何か特別な準備をされたということはありますか?

平田 痩せてはないですよ、一切(笑)。この作品だから特別にこれをということはありません。ただ、「笑い」に関しては体力勝負になるなというのはわかっていたので、前日のリハーサルであまり飛ばしすぎないようにとは考えました。収録は土日の2班に分かれていて、僕は日曜日の収録だったんですが、土曜日組がちょうど台風19号の上陸で、飛んじゃったんです。僕は土曜日は丸1日リハーサル日にしていたんですけど、いつ停電になるかわからない。なので前倒しして金曜の夜からリハを始めました。金曜は夜中じゅうエヘラエヘラ笑ってました、ホアキンと一緒に。結局停電にはならなかったから土曜日も笑っていましたが。

――本当に色々なシーンで笑っていて、そのバリエーションというか、演じ分けも大変だったのではと思うのですが。

平田 お芝居をゼロから作り出すのは大変でしょうけど、僕はそれをなぞるだけなので。単に体力的、消費カロリー的な大変さと、あとは「笑い」のタイミングをどれだけ拾うかということです。複雑な笑い方をしてますから。でもそれは、演技としてどうこうというよりも、単純に「合うか、合わないか」という職人の世界なので。回数を見れば合うようになってくるし、時間のかかる、地味な作業ではありますけれども、「そんな笑い方は見たことない」っていうような特殊な笑い方はしていないじゃないですか。

どこかで見たことのある、愛想笑いだったり、「面白くないよ」ってアピールするための笑いだったり、笑っちゃいけないシーンで笑っちゃったり。皆さんご自身もどこかで経験があったり、見てきたものでしょうから。見たこともないウルトラC的な笑いではないですよね。ただ笑いの量と、呼吸の合わせ方など、複雑怪奇で「いつ終わるかなこのリハーサル」っていう先の読めない部分はありました。

――経験と技術を盛り込んであとは体力勝負みたいな。

平田 体力勝負ですね。一番大事なのは体力。実際に収録では「笑い」がらみのシーンは全部後に回してもらって、その他のシーンを全部録って皆さん先に帰っていただきました。でもシーンの数としてはそんなに多くは……いや少なくはないか。頭のシーンと、バスの中と、マイクの前と、地下鉄で襲われるところと、あと部屋の中が何回かありましたね、23回。でもそんなもんでしょ。

――やっぱり多いですよ(笑)。

平田 やっぱ多いか。最後にまとめてやるんだけれど、あんまり続けて笑ってると声が出なくなるんですよ。高い音が出なくなって。「ちょっと待って止めて下さい」って言って、ひと呼吸置けばまたすぐ出るようになるんです。何度か休憩を挟みながら、「笑い」だけで1時間掛かったか掛からないかくらいじゃなかったかな。

――『ジョーカー』という作品自体の魅力や、ジョーカーという存在についてはどのように感じていらっしゃいますか? また、これまでのジョーカーや『バットマン』シリーズについてはどういった印象をお持ちですか?

平田 僕はリドラーの声を何度かやらせていただいていますから(編注:『ザ・バットマン』『バットマン:ブレイブ&ボールド』『LEGO®バットマン:ザ・ムービー <ヒーロー大集合>』)、どちらかと言えばジョーカーよりリドラーのほうが馴染みがあったっていうくらいでしょうか。

この作品に関しては、監督も言っていますけど独特なアプローチですよね。名前はゴッサム(・シティ)というものを借りているけれど、アーサーが孤独や病気によって転落していきジョーカーになっていくという、すごくリアリティのあるドラマですよね。観ている側にとっても「彼の心情がわかるかもしれない」というリアリティがとても怖い。ひとつすごいなと思ったのは、普通、何かある事象が起こって関係に亀裂が入ったり対立が起きたりして、そのピークが「実際に殺す」ところ、っていうのが大体のパターンだというイメージだったんですが、ジョーカーの場合ピークは「殺した後」に来ているところに妙なリアリティがありますね。もちろん人を殺す現場なんて実際に見たことはありませんがそう思わせるものがある。

文/小田サトシ

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