• 続・『映像研』のマンガとアニメ比較。迫る納期と理想へのこだわり
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2020.02.14

続・『映像研』のマンガとアニメ比較。迫る納期と理想へのこだわり

続・『映像研』のマンガとアニメ比較。迫る納期と理想へのこだわり


 ところどころで面白ポイントがあったので記していきます。

 【1】生徒会の予算審議委員会までに「5分の動画」を間に合わせるんだ! となった時に、原作マンガのコミックス第1巻99ページでは、金森氏は「5分の動画/2400枚を/まともに描くと、」「お二人は61日間/24時間労働で/描く必要があります。」と発言していますが、アニメの金森氏発言では5分のアニメに対して動画は3600枚を設定され、全スケジュールを55日といったうえで、漫画では触れていなかった「作画以降の工程」、つまり彩色や音響をかんがえて実制作期間を50日としていました。この枚数の違い、前者は2コマ打ちで後者は3コマ打ちの枚数です。つまり漫画版金森氏は最初から虫プロ側だったが、アニメ版金森氏は制作初期段階においては昔の東映動画的発想だったということ(勤勉な金森氏、最初にアニメーションを学んだ資料がアニメーション現場よりのものだったか)。原作からのこのセリフの変更はどうかんがえても「意識的」な改訂です。
はてさて、面白いのはここだけではありません。

 【2】物語が進み、クリエイター側のこだわりによって進行が破綻し始めると、金森氏は「アニメーターは動かしてなんぼだ」と主張する水崎氏をなだめるべくこう言います。ここのセリフは原作漫画もアニメも一緒です。「じゃあ80枚は/自由に描くことに/しましょう。」「秒間8枚として/10秒ですから」と。アニメを観ていて思いました(漫画は首尾一貫していますが)。あ、金森氏、いつの間にリミテッド(3コマ打ち)に寝返った? 2コマ打ちなら、12で割るからそれ7秒もないよ‼ そして水崎氏はそんな詐術に気がつきません。この第3話は、水崎氏の指先の絆創膏(紙の扱いすぎによる脂切れの裂傷)など、アニメーターポイントの多い回でした。

 ここでもう一人だけ覚えて帰ってほしい人の名があります。杉井ギサブロー監督です。
 東映動画で活躍(のちに『未来少年コナン』でコナンやジムシーを爆走させた大塚康生さんにも優秀なアニメーターと評価された)しながら、虫プロに移籍した東映動画出身者のひとりです。移籍理由に、『安寿と厨子王丸』の企画を、こんなつまらなそうな企画がとおるところにはいられないと思って、と喝破。さらには『西遊記』でせっかく手塚さんが描いたストーリーボードが、あまり参考にされないまま放置されていた様子をみて、いろいろ考えたとも言及。

 のちに『どろろ』『悟空の大冒険』『銀河鉄道の夜』『タッチ』と、アニメ界に残る名作を多く監督する杉井は、手塚治虫を「アニメーションではない〈アニメ〉というものを発明した偉大な存在。東映動画の人間からは決して発想されない、この〈アニメ〉が生まれなければ、それ以降の発展はありえなかった」と断言されるのを聞いたことがあります。

 それを考えると――

 【3】「私が作りたいのは/アニメじゃなくて/アニメーションなの。」「アニメーターは動かしてなんぼだ」と叫ぶ水崎氏はまさに東映動画原理主義者。しかし、元来現実主義者だったプロデューサー金森氏の威圧に、浅草氏がつぎつぎと提案してくる、省略手法(このあたりの具体的なアイディアには、動画ソフトやデザイン対策など原作漫画にはないものも多い)は勉強になる。第4話では3回パン(虫プロ出身の奇才・出崎統監督の生み出した手法!)まで繰り出されます。
※出崎の「崎」は「大」が「立」、以下同じ

 【4】では浅草氏は、この作品において手塚の役回りなのか。いやちがうだろう。手塚は漫画家として自身の作品である『鉄腕アトム』に自信をもっていた。つまりアニメーションとしては「電気紙芝居」と言われるようなクオリティであっても、自分の(←ここ重要)キャラクターとストーリーがあれば面白がってもらえるという絶対の自信のもとに、テレビアニメの世界に乗り込んだのです。「設定」つまり「妄想的世界観」が第一で、金森&水崎の両氏が「ストーリー」を軽視する発言があっても「身に迫る危機」を「動物的な勘」でとらえていても「具体的に想像」できないのでは、手塚たりえません。

 【5】細かいところでは、第4話冒頭の爆破シーンに苦闘する水崎氏に、昔、押井守監督に聞いた​「以前はアニメのスタジオ間の人的交流は少なく、それぞれのスタジオで表現手法はまったく違い、その違いは爆発シーンなどの描写に如実に表れていた」といった話を思い出しました。

 と、ここでも余談の挟み込み。前述のTCJから竜の子プロダクションに移籍し、日本初の独立スタジオ・アートフレッシュ(杉井、出崎が集っていた)に参加した奥田誠治氏の回顧録『アニメの仕事は面白すぎる 絵コンテの鬼・奥田誠治と日本アニメ界のリアル』(出版ワークス刊)が出ていて、まだ途中読みだが面白い。おそるべき記憶力。前半で独立スタジオに東映の大塚康生氏が、出崎統氏に買ったばかりの車を自慢しに来るくだりがあり、2コマ打ちも3コマ打ちも関係ない当時のアニメ業界の人間関係が垣間見られる重要な歴史的資料になっている。アニメファン必読。

 いやいやまたまたテキスト量が膨らんでしまったので、締めます、締めます。
 『映像研』はまだまだ面白い。東映動画と虫プロをX攻撃のように(古すぎて申し訳ない)交錯してすれ違った月岡氏と杉井氏に『映像研』の感想を聞いてみたい。

 いっそのこと、もうひとつ余談、というか疑問。
 私は絵を描かない人間なので断定できないのですが、『映像研』OPで三人そろってのシルエットが2回踊っていますが、前者がちょっとカクカクして、後者がちょっとヌルヌルしています。こちら2コマ打ちと3コマ打ちで変えていたりするのかしら。見る人によっては正否が一目でわかるレベルの疑問なのでしょうが。

 個人的には第4話の後半、審議委員会で「そのマチェットを強く握れ!」を上映した時、時間短縮のためにモノクロにした映像がはじまった、その瞬間から、床が彩色された作中世界になるのは「やりすぎ」ではないかと思いました。時短のために色をなくした作品世界が、どこかの瞬間で「色」を獲得し、それを契機にあの部屋の様子が変わっていく――といったもうワンクッションあったほうが入り込めた、ような気がします。

 しかし、これだけ面白い『映像研』、乃木坂46齋藤飛鳥主演の実写版のほうも観に行ったほうが良いのだろうか? この10年、アイドル映画を劇場にまで足を運んだのは、『幕が上がる』と『響 -HIBIKI-』の2本だけなのですが。

 最後に、『西遊記』つながりなのですが、ジャンプコミックの『アクタージュ』の最新10巻が面白い。連載開始時にはこういった地味目な話は長く続かないだろうな、と思っていたら、同日発売の『鬼滅の刃』第19巻に比べれば、当然書店店頭の量は少ないが(あるお店の『鬼滅』の山には「お一人様2冊まで」とのポップがあった。恐ろしや)、かなり刷られているようにみえました。

ではさようなら。

7代目アニメージュ編集長(ほか)大野修一

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