『推し武道』最終話、ChamJamが、せとうちアイドルフェスのステージで歌った曲『私たちが武道館にいったら』。初めて聴く曲でびっくりした方が多かったと思います。作曲を手掛けたのは、劇伴音楽を作った日向萌さん。以前に寺田プロデューサーと対談していただいた際に、この曲についてもお聞きしていました。この曲にはいろんな秘密があったようです!
寺田 最終話のCham劇中歌『私たちが武道館にいったら』は、日向さんに書いていただいています。この曲はサントラの1曲目に入っているメインテーマ、『推しが武道館いってくれたら死ぬ』という曲のモチーフを使っているんです。『ずっと ChamJam』を歌うという案もあったのですが、最終話の雰囲気とちょっと違うかもしれないので、別の曲がいいんじゃないかという話になりまして。OP『Clover wish』という案もあったのですが、OPは「武道館に行けるぐらい力を付けた未来のChamの曲」なので、まだあのフェスでは歌ってはいけないと思ったんです。ただ、完全に知らない曲を歌うのもどうだろうか、ということで、聴き馴染みのあるフレーズがボーカル曲となってあらわれるのはどうかと。これも劇伴の話をしていた際に出ていた、「メインテーマが形を変えて繰り返し出てくる」という手法ですね。メインテーマは日向さんに作っていただいたので、この劇中歌に関しては、日向さんに作曲をお願いしました。
>>>公式Twitter内『私たちが武道館にいったら』
日向 劇伴の延長線上で作っているので、楽器の編成感だったり、音像だったりっていうのも、歌ものなんですが、劇伴としての要素も少し残しています。構成的にも、Aパート、Bパート、続けてブリッジがあってサビになるんですが、中間部分であるブリッジは、キャラクターたちの心情にあてるフィルムスコアとして作っています。なので本当に、劇伴のひとつの曲というか。
寺田 もともとボーカル曲と劇伴のハイブリッド曲として作りたかったんです。だからサビ前のタメのようになっている部分はダビング時に切り貼りで作ったものではないんですね。この劇伴パート含めて、この曲の完成形という感じです。なので現状はボーカル曲としてのフルバージョンは存在しないのですが、いつかChamがもう少し成長したときの曲として、それはそれで聴いてみたいという気持ちもありますね。
――最終話用の作り方としては、劇伴を進化させてボーカルが入った1曲にしたという。
日向 そういうイメージです。
寺田 拍子も少し変わっていますよね。
日向 はい。元々劇伴のメインテーマは8分の6拍子なんですけれど、劇中歌は勢いを出すという意味を込めて、4分の4拍子に変えているんです。音も劇伴のときは少し柔らかい印象だったんですが、劇中歌になったときは少し張りのあるというか、勢いを足したいという意味で、少し印象を変えるようにしています。実際にミックスの段階とかでも、結構忠実にメンバーの立ち位置を変更してボーカルの位置も組んでいただいていますし、すごくリアルなものに仕上がっていると思います。
――全体の歌割としてはどのようになっているのでしょう。
寺田 この曲はずっと全員で歌っています。いろいろ考えたんですが、このフェスで歌う曲としては、「個別のソロがあって」とか、そういう見せ方じゃないほうが良いかなと考えました。
――映像では、人気投票後のポジションで歌っていますね。
寺田 そうですね。ただ、そこで「このキャラは前でこのキャラは後ろなんだ」って思われるシーンではないと思うんです。Chamが一丸となって歌う舞台という意味で、全員で歌ってもらいました。あとはレコーディングに関しても、この曲は日向さんがディレクションもしています。
日向 ミラクルバスの音楽ディレクターの池田(貴博)さんと一緒にディレクションさせていただきました。キャストの皆さんに歌っていただくときには、「自分が演じているキャラクターのファン、れおだったらくまささんだったり、そういう人を思い浮かべて歌ってください」ということを共通してお伝えしました。
寺田 他の曲と違ってちょっとロックな印象もあって、格好いい曲になっていますよね。『私たちが武道館にいったら』という楽曲タイトルは、最終話の「推しが武道館いってくれたら」というサブタイに対する、Chamからのアンサーソングになっています。あの会場のあの曲で、「武道館に行くんだ!」っていう、アイドルとオタクの感情が交差するっていうイメージを出したかったんです。歌詞もそういった雰囲気で、新田目翔さんに書いていただきました。今はまだそこまでじゃないけど、応援してくれる人たちのために、より一層頑張るよっていう内容で。アイドル側も、オタク側も、お互いの想いが重なっているんだということを、大舞台の場で確認できるような曲になれば良いなと思っていました。
――最終話の時点での総決算というか。集大成的な。
寺田 そうですね。すれ違っていた想いや上手く伝わっていなかった想いが、少しだけ重なる瞬間になっていれば良いなと思います。
――初めにこの構想を聞かれた時は、どう思われましたか。
日向 すごく作りがいがあるな、と思ったのがまずいちばんでした。メインテーマを最終話で、また違った形で生かせるっていうのは、作家としてもとても嬉しいことでしたし、そうしてモチーフが皆さんの中に印象的に残ってくれればいいなと思っています。
寺田 劇中歌もある種フィルムスコアなんですよね。それに加えて最終話は、Aパート終わりとBパート終わりもフィルムスコアで作っています。Aの終わりは、れおがメイちゃんの発言でショックを受けてしまうけれど、Chamのメンバーがれおを囲んで励ますシーンです。原作よりもセリフが少し膨らんでいるんですが、そこに『ずっと ChamJam』の劇伴アレンジをつけていただきました。しっとり系の曲なんですが、最後はいよいよライブが始まるという高まる雰囲気でお願いしました。
日向 『ずっと ChamJam』の特徴的なメロディ、サビのメロディが「シ・レ・ラ」で始まるんですが、そのモチーフをとにかく重ねて行って、最後のAパートが終わるという作り方にしています。
寺田 Bパートはライブ後のえりぴよと舞菜が特典会で話すときの曲です。最初いただいたデモだと、エンディング曲用に盛り上がりをとっておいてくれていた曲だったんですが、劇伴は劇伴で1回盛り上がりきったほうがいいかなと思ったので、調整をご相談して今の曲になりました。最終話のラストらしい、すごく素敵な劇伴になっていると思います。この曲もちょっとメインテーマのモチーフを使っていますよね。
日向 そうですね。これも4拍子にしてみて、ちょっと拡大させた形で最初にモチーフを出して、最後の「一生好き」の場面で、メインテーマと劇中歌で使ったメロディを出して。最後を締めくくる感じになっています。
寺田 このモチーフは「推しが武道館いってくれたら死ぬ」っていう感情ですからね。最後はまさにそのセリフに載っています。
――これはどのくらいの人がリアルタイムで気づくのか楽しみですね。
寺田 メインテーマを本編でかなり使っていただいているので、観ている方の中にこのモチーフが浸透していたらいいなと思います。
日向 ちょっとした裏話なんですが、サントラ8曲目のガムランの曲も、実はメインテーマのモチーフを使っているんです。ガムランの音階に合わせてメインテーマのモチーフを入れ込んでいます。
――「積ませろ〜〜積ませろ〜〜」ですね。これはかなり難易度が高いです。
寺田 「積ませろ」という感情の中に、「推しが武道館いってくれたら死ぬ」という感情があるということですね(笑)。
日向 共通した気持ちが入っていると思います(笑)。
――サントラを聴き返して、いろいろな発見をしないといけませんね。
(C)平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会
文/阿部雄一郎