• 『天保異聞 妖奇士』の世界ーー藤原啓治追悼放送に寄せて
  • 『天保異聞 妖奇士』の世界ーー藤原啓治追悼放送に寄せて
2020.05.06

『天保異聞 妖奇士』の世界ーー藤原啓治追悼放送に寄せて

▲アニメージュ2006年12月号

去る4月12日に亡くなった声優・藤原啓治を偲び、5月7日(木)、8日(金)の2日にわたりニコニコ生放送にて、藤原の主演作『天保異聞 妖奇士(てんぽういぶん あやかしあやし)』が配信されることになった。
2006年10月から2007年3月にかけてTV放送された本作は、天保時代を舞台としたファンタジー時代劇。当時はもちろん、今見直してもなお圧倒的な異彩を放つこの作品を、アニメージュのバックナンバーに掲載された記事を手掛かりに紹介してみよう。

人の業を描くエンタテインメント

主人公・竜導往壓(りゅうどう ゆきあつ)は旗本の家系からドロップアウトし、過去に犯したある「罪」から逃れるように流浪の生活を続けていた39歳の男。「浮民」と呼ばれる下層の身分にみをやつしていたが、やがて「漢神(あやがみ)の力」という不思議な能力を見出されて謎の組織・蛮社改所(ばんしゃあらためしょ)の一員となり、仲間たちと共に「異界」から訪れる異形の怪物・妖夷(ようい)が関わる事件を調査し、討伐するという任務に就く。

妖夷に関わる事件を通して描かれるのは、けっして満たされることのない欲望、虐げる者と虐げられる者との交錯、「ここではないどこか」を求める希望と、それがかなえられない絶望……いわば人間の “業” についての物語だ。
原作・脚本の會川昇はそんな人間の悲哀にシビアな目線を向けながらも、それでもなお生きていく人々のたくましさを、エンタテインメントとして描き出していく。

▲アニメージュ2006年10月号

そう、本作は前述のような重いテーマを背景に持ちつつも、基本的には胸躍るエンタテインメントなのだ。
放送開始前、本作がはじめて発表されたアニメージュ2006年10月号で、監督の錦織博は以下のように語っている。

「今回は、『科学捜査ドラマ』のテイストを取り入れたいと思っているんですよ。たとえば、海外ドラマの『CSI:科学捜査班』だとか、日本の作品でいえば『怪奇大作戦』とか、そんなイメージですね。妖夷が絡んでいるらしい事件の謎を、クールに追いかけていく。そして、いざ謎が解けて妖夷が現れたら、派手に力ずくで退治する(笑)。冷静な操作と激しいバトルを組み合わせていきたいです」

次々と起こる怪異な事件の裏には、人々の苦悩や欲望にとりついた妖夷の影がある。往壓たち蛮社改所のメンバーは事件の謎を解く中でそうした人々の葛藤や心の闇に触れていく。その人間ドラマが本作の大きな見どころだ。
そして、調査のはてに出現した妖夷と激しい戦闘を繰り広げる。各話に登場する妖夷は、他に類を見ない異様な姿をしており、そのデザインも妖しい魅力を放っている。妖夷退治の切り札となる往壓の力「漢神」も非常に独特で、「漢字が持つ本来の意味を取りだし、具現化する」というその能力を駆使した多彩でダイナミックなバトルシーンも、本作の欠かせないポイントだ。

アニメージュプラス編集部