• 『天保異聞 妖奇士』の世界ーー藤原啓治追悼放送に寄せて
  • 『天保異聞 妖奇士』の世界ーー藤原啓治追悼放送に寄せて
2020.05.06

『天保異聞 妖奇士』の世界ーー藤原啓治追悼放送に寄せて

▲アニメージュ2006年12月号


大人の主人公

藤原が演じる主人公・往壓の39歳という年齢も、アニメでは非常に珍しい。いわば「大人」の主人公だ。
だが往壓は、他のアニメで若い主人公を導くような「成熟した大人」ではない。年齢を重ねただけの経験も、知恵も、分別も持ってはいるが、一方では悩み、迷い、心に闇を抱え、弱いところも見せる。つまり、どこにでもいる「あたりまえの人間」なのだ。そんな往壓が、妖夷に取り憑かれた人々と関わり、事件の謎を解き、妖夷と戦うことで、自分自身の弱さとも対峙していく。そこに、この作品ならではの味わいがあるとも言えるだろう。
アニメージュ2006年12月号のインタビューで藤原は、往壓についてこう語っている。

「基本的に正義感は強いし、『弱い者を助ける』みたいな気質はある思うんです。ただ、そこに行き着くまでの自信がまだ持てていない(中略)ご覧の方たちは『大人のくせに』と言いたくなるでしょうが(苦笑)、『大人だからこそ悩むんだ』とう部分もあると思うんです。子供よりもいろんなことを抱え込んで、悩む材料も多すぎますから(中略)敢えてかっこ悪いところまで表現してくれるというのは嬉しいことですね。作品自体にも深みが生まれると思いますから」

もちろん、その「深み」に藤原自身の確かな演技が大きく貢献していることは、言うまでもないだろう。

▲アニメージュ2006年11月号

時代考証にも細かくこだわられており、鳥居耀蔵や河鍋狂斎といった歴史上の人物も登場するなど、ファンタジーのみならず時代劇としても本格的。そして、往壓たちと妖夷との戦いを通して「異界とは、妖夷とは何か?」といった謎もじょじょに明かされ、事件の裏で蠢く者たちの存在やその思惑も絡みながら、終盤に向けてドラマは大きく展開していくことになる。

今回の一挙放送を期に『妖奇士』の濃厚な世界を楽しんでほしい。また、放送当時に10代だった視聴者にもぜひ、10数年を経て「大人」になった今、あらためて往壓の姿を観てほしい。きっと、当時とは違う感覚、感情がわき上がってくるのではないだろうか。
そして何より、「どこにでもいる弱い大人が、己の弱さと戦いながら敵を討つ」という、実はアニメでは稀に見る主人公を演じた藤原啓治の演技を堪能してほしい。

アニメージュプラス編集部

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