• 『推し武道』全話放送を終えて 山本裕介監督インタビュー:後編
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2020.05.20

『推し武道』全話放送を終えて 山本裕介監督インタビュー:後編

(C)平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会


――では次の質問です。
「ストーリーにしっとりとした味付けをした理由は?」

山本 それはつまり『エモい』(笑)ってことでしょうか?  そんなに特別にしっとりさせたつもりはないんですが、原作にある状況を丁寧に描いて、編集でしっかり「間」をとり、日向(萌)さんの音楽をのせていったら自然にそうなったんだと思います。寺田プロデューサーからの要望もありましたしね。やるからには『エモく』しようと。

――毎話コミカルなシーンもあるのですが、最後が綺麗にしっとりと終わっていたっていう印象があります。あれは意図されていたんですか。

山本 それも特に狙ったつもりはなかったんですが、あのエンディングになだれ込むなら、しっとり系で終わったほうがスムーズですよね。例外的に第10話なんかは喀血で終わりますが(笑)、それはそれでアクセントになって面白かったと思います。

――では次の質問になります。
「元々漫画も読んでいましたが、アニメで沼に落ちて漫画を買いました。愛がある作品にしていただき、感謝です。メイちゃんが原作より嫌な感じで描かれていたのはなぜですか?」

山本 「嫌な感じ」と言われると残念ですね。メイの解釈をああいう風にした理由としては、ただの鹿の格好してるおバカなアイドルにしたくなかったのがまずひとつ。
もうひとつは、最終回にああいうキャラが一人登場することが、作品にとっていいスパイスになると考えたんです。れおやChamの奮起にもつながっていくし、他に似たキャラがいないのでメイにとっても得なんじゃないかと。それで原作サイドにもお断りをいれてあの方向でやらせてもらったんです。
そもそもメイが嫌な性格かというと、僕はそうじゃないと思っているんです。彼女がれおにあんな風に接するのは、れおのことをライバルだと認めているからだと思うんですよ。つまり、あの態度はむしろれおを評価してるからじゃないかと。
仮に続編があれば、メイは一番掘り下げていきたいキャラクターです。決してアニメスタッフが彼女を嫌っていてああいう描き方をしたんじゃなく、むしろ思い入れがあるからこそ、あのポジションにしてるんだと捉えてもらえれば。そういうディレクションを踏まえた上で、メイ役の久保ユリカさんもすごくノッて演じてくれたと思います。

寺田 最終話のアフレコのとき、平尾先生が「芝居をもっと圧のある感じにしたい」というようなことをおっしゃっていました。メイは、逆に言えば一番プロだと言えるとも思うので、そこは魅力であって嫌な部分だとは思わないですね。

山本 そう、メイに比べるとChamにはまだ甘えてる部分が多いというか。あの場にプロがひとりいたら、ああいう温度感になるんじゃないかと思ったんです。その対比を描いて成長につなげていくことはChamにとっても物語にとっても悪いことではないんじゃないでしょうか。
Chamも本気で武道館に行く気があるなら、どこかで本物のプロになっていかないといけない。今のオタクたちとの距離感を保ちつつっていうのは難しいでしょうけど。
だから、僕はメイを嫌なキャラっていう風にはまったく思ってなくて、むしろすごく魅力的なライバルにしたかったというのが本音のところなんですよ。

――確かにプロの洗礼みたいなものをChamに浴びせて、そこでChamが1段階上がりますよね。

山本 あそこでれおの心が一度折れるっていうのは、展開としてめちゃくちゃドラマチックじゃないですか。最終回のステージに登る前の試練として、最高のシチュエーションになったと思います。とにかくれおがいじらしくて、他のみんなも奮起してましたし、運営スタッフもほだされてましたし(笑)。

――Chamの裏方スタッフもみんな感情移入しちゃって。

山本 三崎さんがハンカチを目に当ててるとか、社長がちょっとやる気出すとか(笑)。やっぱりああいうノリは、ベタと言えばベタですが王道ですよね。

――Chamにとっても必要な出来事だったんですね。

山本 それで思い出しましたが、最終回のメイの登場シーンだけ、他では使わなかった撮影処理が使われています。『推し武道』は柔らかい色使いを基調としているので、黒ベタとか黒い影は基本的に避けていたんですが、あのシーンだけはあえて画面に黒いシャドウを乗せてもらってます。いつもと違う緊張感をもたせようという演出です。ぜひ映像を見直して確認していただきたいです。

文/阿部雄一郎