• 鬼太郎が見る現代社会/『ゲゲゲの鬼太郎』プロデューサーインタビュー【後編】
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2020.07.14

鬼太郎が見る現代社会/『ゲゲゲの鬼太郎』プロデューサーインタビュー【後編】

(C)水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション

2018年4月〜2020年3月に放送されたアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』第6期が、「第57回ギャラクシー賞」(放送批評懇親会)のテレビ部門特別賞を受賞した。
「ギャラクシー賞」は放送文化の向上に貢献した番組や個人・団体を表彰する賞で、アニメーション作品が特別賞を受賞するのは史上初だ。
この快挙を記念して、フジテレビ編成部プロデューサー・狩野雄太と、東映アニメーションプロデューサー・永富大地への単独ロングインタビューが実現した。
2人が語る『鬼太郎』6期の製作秘話を、前・後編に分けてお届けしよう。
(聞き手/構成=原口正宏[リスト制作委員会])

>>>インタビュー前編はこちら



互いに“壁打ち”しながらアイデアを


ーー狩野さんは『鬼太郎』の6期を担当されるにあたり、過去のシリーズを観返したり、リサーチしたりしたのでしょうか。

狩野 全話ではないですが、1、2、3、4、5期とひと通りチェックしました。あらすじを読んだり、DVDを借りて観たりもしましたし、当然、水木先生の原作も読みました。

ーー先ほども出ましたが(前編)、6期は歴代のなかでも2期に匹敵するくらい社会風刺性が濃厚で。物語の内容やテーマはダントツに重いものを描いていたと思います。それはTV局のプロデューサーとしても、2018年に送り出す『鬼太郎』として妥当だと判断した、ということでしょうか。

狩野 そうですね、原作、元の素材からして、多分この方向が正しいんだろうなと思って。素材の良さを最大限に引き出すにはどうしたらいいんだろう、という考え方ですよね。もちろん、その時々の製作者によって、流行りに乗っかった作り方をしようとか、そういうのはあると思います。でも『鬼太郎』をやるというのであれば、水木先生らしい発想法やクリエイティブな部分が一番面白いと思うので、そこを伸ばすにはどうしたらいいかを主体に考えました。
もちろん、当たる、当たらないは意識しますが、番組が続くかどうかは視聴率だけでもないんです。スポンサーさんの事情だったり、そういう面もあって。なるべく皆さんにーースポンサーさんにも、製作会社さんにも、原作者さんにも、もちろんフジテレビにも、利益がちゃんとあるようにしなきゃいけない。そうした総合的な面で人気を出すことを考えたら、結果的に今回の6期になった、と。ねこ娘も、ビジネス的なことで言えば「僕だったら、ああいうフィギュアを持っていてもいいかな」とか、そういうところも計算のなかに入っていました。

ーー6期を2年間製作するなかで、東映アニメーション側とフジテレビ側とが互いに意見を出し合ったことがお互いの刺激となって、結果として思いもよらない化学変化が起きたようなこともあったのでしょうか。

狩野 僕は、たくさんありましたよ。永富さんのホン打ち(脚本打ち合わせ)に、自分からアイデアを出すこともありました。「こういうの、どうでしょうか?」と来た時に、「じゃあこうしたら?」とか「ここをこう変えたら少しよくなるんじゃない?」と返すようなやりとりは、長時間かけて毎週、毎週やっていました。目玉おやじがイケメンになるアイデアとか(笑)、びっくりしましたし(第14話「まくら返しと幻の夢」)。

永富 あれは、水木プロさんに何て言われるかドキドキでした。

狩野 妖怪チン○をやりたい、と小川監督が言ってきたりとか(笑)。

ーー第84話「外国人労働者チンさん」ですね。原作にも登場する、まさに“珍妖怪”でした。そこに外国人就業問題を絡めたところが、さすが6期らしかったのですが、実は登場の機会はもうないのかと思っていました。シリーズであそこまで放送が遅れたのは、狩野さんが止めていたからですか。

永富 いや、僕が「まだダメ、まだダメ」って言っていました(笑)。放送終了が決まってから「シナリオにしていいですよ」って言った覚えがあります。あとは、その回を担当するライターさん(市川十億衛門さん)と、ネタの具合がちゃんとマッチングするかどうか、みたいなところもありましたね。

狩野 あの回のシナリオは、そうとう叩いたよね。5、6回……7回ぐらいはやり直した気がします。

永富 だから市川さんは、あのクールではあれしか書いてないです。

ーー外国人労働者問題という要素は、どのあたりから入ったんでしょう。

狩野 割と最初からあった気がします。でも、かなり重いテーマなのに、最初は少しぞんざいに扱っているように感じて、気になったんです。あと、日曜朝の時間帯に観るのが恥ずかしいというか、チン○から何かが発射されるシーンが多すぎて、「そういう描写は嫌だ」と、当時すごく言っていた記憶がありますね。


ーー新春早々の「火車」の回(第38話「新春食人奇譚 火車」)で死体処理のエピソードもありました。あれも狩野さんがOKを?

狩野 うん、あれは別に何の問題もないというか……永富さんが「やりたい」って仰ったんですよ。「いいんじゃないですか、特に懸念される要素もないです」って僕は言って。

永富 途中からは僕らも、狩野さんに「面白い」って思われることを言わなきゃという意識になっていきました。

狩野 メールなども通じて、作品を一緒に作らせていただいたという感じですね。良くも悪くも、いろいろ忌憚なくやり合えたな、と。むしろ、自分が無茶苦茶な方向で言いまくっていた気がするので、申し訳ない。

ーー永富さんは、狩野さんに叩かれて難産だったエピソードで、思い出されるものはありますか?

永富 それが、あまりバトルをしたような記憶はなくて。狩野さんは僕にとって、今風に言うと「壁打ちの相手」ということですかね。やっぱり、僕らは作品に集中してしまっているから、視野狭窄になるんです。毎週、シナリオの打ち合わせを7時間も8時間もするのは辛かったですが、狩野さんは狩野さんでそれを全部読んで、メールでコメントを返してくれるんです。真面目にそういうことをしてくれる人って、あまり多くないですし、そこに書かれていることもとても興味深い。当然、参考にするし……まあ、参考にしないこともあるんですけど(笑)。
準備段階で、まだ僕と狩野さんしかいなかった時期に、狩野さんが「今の社会でこれがおかしいと思う」というのを箇条書きで、A4で3枚くれたのかな。「これ、ネタになるよね」という感じで。それをもらったときに、「僕も、こういうことがおかしいと思う」と返して、お互いに壁打ちをしながら形が決まっていったという面もありました。さらい半年後か1年後に、またもう1回そういうメモが出てきたこともありました。もちろん、ねこ娘をはじめキャラクターの話も、いろいろやりとりしたし。
あと、面白かったのは「毎回じゃなくていいから、シナリオ打ち合わせに入る前、ライターさんが揃っているところで、ちょっとだけブレインストーミングの時間を持ってみたらどうか」という提案を、狩野さんからされたんです。ライターさんたちが今何を抱えて悩んでいるのか。何に怒りを覚えているのか。悲しみを感じているのか。そうしたことを聞いてみたらどうか、って。ちょうど煮詰まっていた時期でもあったので、これは有効でした。アニメのライターさんたちは漫画や小説が原作の作品をやることが多いから、文章のシナリオ化に特化した人たちではあるけれど、バラエティ番組のような「ネタ出し」は慣れてない。その意味でも新鮮でした。年齢もキャリアもバラバラである彼ら、彼女らから何かを絞り出す、という作業をしたのはアニメでは初めてだったし、今思えば狩野さんのアイデアで刺激的なやりとりになりました。そこからシナリオになった話も、あったと思います。

ーーこの2年間のシリーズ構成は変化に富んでいました。最初の2クールに関しては各話、いろんなパターンのエピソードをバラエティ豊かに散りばめ、3クール目からは「西洋妖怪編」という長丁場の縦軸ストーリーが入りました。年が明けた4クール目は再び単発エピソードに戻りつつ、1年目の終わりには「名無し編」のラストの盛り上がりを配置して。2年目は石動零の絡む「地獄の四将編」が半年続き、さらに残り半年で「ぬらりひょん編」へと突入しました。
これは、永富さん側から「今度はこんな風に仕掛けよう」といった構成に関する提案があったのだろうと思うのですが、永富さんと狩野さんとの間で『鬼太郎』の目指す方向性に関する綱引きというか、意見のぶつかり合いはありましたか。

狩野 ぶつかりましたよ(笑)。それはたくさん。でも「永富さんがそこまで言うなら、やっていいんじゃないですか」っていうのもありましたし、逆も然りだし。何となく半々ぐらいでやっていたのかなと。むしろ、自分の考えを半分も汲んでもらえていたなら、ありがたいなと思いますが。自分と永富さんとで、お互いにやりたいものを順番に出し合っていただけです。

(C)水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション

アニメージュプラス編集部