• すずさんの“手触り”ーー『この世界の片隅に』/『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』片渕須直監督インタビュー
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2020.08.08

すずさんの“手触り”ーー『この世界の片隅に』/『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』片渕須直監督インタビュー

(C)2019 こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

こうの史代の漫画を片渕須直監督がアニメーション映画化した2016年の傑作『この世界の片隅に』が、NHK総合で放送される。昨年8月3日の初放送に続き2度目の放送となる。

18歳で広島の呉に嫁いできた女性・すずの目線と体験を通して、戦時下に暮らす人々の日常を描く本作。その筆致は温かく丹念で、しかも実写映画とはまた異なる「生々しさ」にもあふれている。アニメーションでしか表現できない生命力を感じさせる珠玉の作品といえるだろう。
女優ののんが主人公・すずの声を担当していることも話題となり、多くの観客の支持を得て3年以上にわたるロングラン上映を達成。日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞、アヌシー国際アニメーション映画祭長編部門審査員賞の受賞など、国内外で高い評価も獲得した。
そして現在、250カットにおよぶ新規エピソードを追加した新作『この世界の(さらにいくつもの)片隅で』が上映/配信中、Blu-rayとDVDは9月25日に発売される。

今回はTV放送にちなんで、劇場公開直前のアニメージュ2016年12月号に掲載された片渕須直監督のインタビューを、特別に再掲載しよう。
その後の大きな反響が巻き起こる直前、その圧倒的な内容が少しずつ話題になりはじめた時期に行われたインタビューで、当時の空気感が蘇ってくると同時に、あらためてこの作品の見どころや魅力を知る上でも貴重な内容となっている。
今回の放送を観る前に、あるいは観た後に、ぜひ一読してみてほしい。



運命的な映画化


——前号に掲載されたすずさん役・のんさんのインタビュー(アニメージュ2016年11月号「この人に話を聞きたい」)に、大きな反響がありました。

片渕 僕も、公開前から大きな反響があることにびっくりしています。この映画はもともと、こうの史代さんのファンの人と、『マイマイ新子と千年の魔法』など僕の映画のファンの人が注目していたと思いますが、そこに新たに「のんちゃんのファンの人」という新しいグループが現れて、渾然一体となっているのがすごいなと。のんちゃんファンの方々が、『マイマイ新子』まで応援してくださっていて。

——それは、とてもいい話ですね。

片渕 ありがたいです。そもそもアニメーションを作るとき、キャラクターのイメージ頭の中で動かすには、何か声があった方がいいのですが、実は僕や監督補の浦谷(千恵)さんは、のんちゃんの声をイメージしながら、すずさんを動かしていたんです。勝手に、です。実際に完成したとき、その想像がそのまま実現していることに、ちょっと奇跡的でした(笑)。

——役が決まる前から、のんさんの声がスタッフのみなさんの共通イメージだった。

片渕 逆に言うと、すずさんの持つ多様な要素をひとりで持っていらっしゃる人は、他にあまり見当らなかった。たとえば、コトリンゴさんに音楽をお願いしたのは、コトリンゴさんの音楽のフワフワした柔らかさが、すずさんの何とも言えないまろやかさみたいなのもにマッチしている気がしたからです。すずさんの声も、そういうまろやかさを持っていつつ、ちょっとおっちょこちょいで(笑)、でも意外と行動力があって。なおかつ物語の最後のほうで大変な状況になったときには、もっと別の心理が出てきたり、大人になったときの声が出せたり。そして、すずさんは18歳でお嫁に行くので、基本的にそれくらいの年齢感で聞こえないといけない。それって誰だと思うと……びっくりするほど、ひとりしかいないような気がしました。

——でも、『この世界の片隅に』を片渕監督がアニメーション映画にすると聞いたときは、われわれもまったく同じように「確かに片渕監督しかいないな」と感じました。

片渕 そういう意味で言うと、多分こうのさんとは、もともとやりたいことが近かったような気がするんです。大きな事件を追いかけるのではなくて、普通に起こっているできごとの細かいところを描く。『この世界』もそうですが、四コママンガの『ぴっぴら帳』も、飼っているセキセイインコが何かおかしなことをやるだけという作品だったし。そうだ、僕は実は『名探偵ホームズ』(1984年、片渕監督は演出補・脚本で参加)のときに、毎回、違う乗りものを出そうと思ったんです。今回は潜水艦、今回は飛行機、今回は飛行船、とか。同じように『名犬ラッシー』(片渕監督の1996年のTVシリーズ)では毎回、違う食べものを出そうと思いました。で、たとえばシフォンケーキ焼くとなったら、卵を割るとこから描く。そして『この世界』をはじめて読んだ時ときに、「あ、同じことをやっている」と感じたんです。

——今回の映画にも出てきますが、「楠公飯」の作り方を丁寧に描いたりしていますよね。

片渕 何となくこの作者は、自分と同じようなことをおもしろがる人、同じような興味の抱き方を持った人じゃないかなって思いました。そしたら、こうのさんはこうのさんで、『名犬ラッシー』を観ていたそうで。企画の提案を受けて「『名犬ラッシー』をやっていた人からアニメ化したいと言われたら、これはもう運命だからやるしかないと思います」って言ってくださったらしいんです(笑)。

——それは、監督としては希望が叶ったとはいえ、より責任感も増しますね。

片渕 こうのさんにとって『この世界』は、自分自身のあらゆるものを投げ入れた一番の大作なので、本当はもっとリアクションが返ってきてもいいはずだと思っていたそうです。でも、「『夕凪の街 桜の国』が好き」と言ってくれる人は多いけれど、『この世界』のことはあまり語られないように思ってしまっていた、と。それがアニメーションでやるとなったら、これだけのお客さんが支持してくださっているとわかって……こうのさんは「今までみんな、どこにいたんだよ!」と言っていました(笑)。

——(笑)。

片渕 今こうして映画が公開されることで、また人の目に触れるようになってきて。「映画になるっていうからはじめて読んだら、すごかった」という人も増えてきたようで、自分としては一番、冥利に尽きるというか。原作がどんどん広まるっていくのを感じると、本当にそうあって欲しいと思っていたことが叶えられている気がして嬉しいです。

(C)2019 こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

アニメージュプラス編集部