6つ子のイメージその2「一、十四、トド」篇!——次に一松はどうでしょう?
浅野 一松は、知り合いが……。
——これも知り合いの方が(笑)。
浅野 自分のなかで完全にその人をイメージしながら描いています。昔から付き合いのある友人なんですけど、その方を知ってる別の人にも、たまに「一松って、あの人ですよね?」と聞かれるくらい、イメージの近い人がいるんです。姿勢から、目つきから、口調まで。声優さんのお芝居も、その人の感じに似てるなぁと思ってます。猫背で、どんよりした目で、ちょっと世捨て人的な雰囲気を漂わせて。で、サンダル。そういう人って、すぐサンダルで外にでちゃうんですよね。靴を履くことすら面倒臭い、みたいな。ずっとこの格好のまま寝て、起きて、サンダルでパチンコに行くというイメージですね。髪の毛も、起きてそのままで出ちゃうからボサボサ。
——十四松はどうでしょう?
浅野 十四松は、一番どうしようか悩んだ気がします。具体的にこんな人が身近にいなかったので……。身近な人ではないけど、TVに出ているハイテンションな芸人さんのイメージです。あと、「本当にヤバい人」にならないギリギリのところで、愛嬌のあるかわいい人になるように気をつけました。「ギリギリ一緒に遊んだりもできるくらいの、とても変わった人」です(笑)。
——口が開けっ放しというのも特徴ですね。
浅野 最初の設定では口も閉じてたり、もっといろいろな表情があったんですよ。でも、あまり絵にならないというか、閉じちゃうと他の5人とあまり差がなくなっちゃったりして、あまりしっくりこなかったんですよね。で、ずっと口開けた表情を描いていたら、何となくそれしか描けなくなって(笑)。それをカワイイと感じてもらえているみたいなんで、ならそれでもいいか……と思いつつも、たまにどうしても表情を出す必要があるので、そのときに苦労しますね。第9話で、泣いたりとかいろいろな表情ありましたけど、悩みましたね。どんな泣き方するんだろう、とか。こんなヤツでも恋をするのかなぁとか……。
——最後はトド松ですね。
浅野 トド松はどうだったかな……ああ、そうだ。某男性向けのファンション誌を毎月買っている人。そういうイメージがありました。リア充じゃないけど、そっちに行こうとしている人。本当のリア充は多分、ファッション雑誌とか読まないと思いますから(笑)。チョロ松もそうですけど、トド松も現実から脱出しようとして脱出できないんですよね。お店でスタイリストさんに全部コーディネートしてもらったような雰囲気が出ればいいな、と。服装にしても、ポーズにしても、カラ松とは違う方向で気取ったヤツです。
スキあらば描きたいトト子のダークサイドーー見た目の特徴もさることながら、それぞれのキャラクター性を考えての表情付けやポーズ付けにも、こだわっているわけですね。
浅野 そうですね、考えます。特に版権イラストとか、かなり考えないと差が出しにくいので、自分のなかで細かくイメージしています。最近は他の作画のみなさんも、「こいつならこう」というイメージを共有してくれているとは思いますが、それでもまあ、自分が一番この人たちのことを知っているつもりです(笑)。「こういうとき、おそ松ならこういう表情をするだろう」とか考えるのは、楽しいですよね。
——本編の作画はいかがですか。
浅野 基本はシナリオに沿いつつですね。各話完結だから、毎回キャラクターが変わったかと思えば、リセットされたりもします。ある意味キャラクターがブレてるというか、基本的な性格付けはあるけれど、エピソードごとにそれを覆す、という描き方になっているかな、と。ただ、自分が描くときはやはり、基本の性格設定をベースに考えますね。「こんなとき、こいつはどういう姿勢を取るだろう」とか「どういう表情をしてるだろう」とか。もちろん絵コンテや演出の指示に従いつつですが。ここ(基本の性格)から離れないようにしつつ、いかにその話数の要請に合わせてアレンジするかってところが、難しいですが、おもしろいところです。そのあたりは多分、藤田監督も大事にしていらっしゃるんじゃないかと思います。とはいえ……最近は人気が出てて、少しビビってるところもあるので。媚びずに攻めていきたいですね。
——本編中の作画で「これは良かった!」と、浅野さんが感じたものはありますか?
浅野 第7話の「トド松と5人の悪魔」と「北へ」は、わりとはっちゃけていたので好きです。「トド松と5人の悪魔」はトド松の表情が話題になりましたけど、ああいうことをもっとしたいなと思いますね。描く人が思い切って遊んでくれて、観た人もそれを受け入れてくれたので。もっと表情崩したりしてもいいんだなっていう自信というか、これからもビビらないで、これくらいやっちゃってもいいぞって気持ちになれましたね。「北へ」は、エピソード自体、今までとまったく違うテイストで。ああいう話数がポッと入ると、いいなぁと思います。赤塚さんもやっていたような実験的な作風ですね。で、あのエピソードの最後で、ダヨーンが氷漬けになったデカパンを蹴って、谷底に突き落としたじゃないですか。
——はい、はい。
浅野 あの蹴りがスゴかった(笑)。あのカットは、バリバリのアクションを描いているアニメーターさんが描いてくれたんですけど、素人の蹴りではなくて、武道の達人のようなとてもカッコいい蹴りになっていて。スゴくいいなと思いました(笑)。
——では最後に。シリーズは2クール目に入りましたが、この先の抱負をお願いします。
浅野 キャラクター設定の作業が多くて、本編にはあまり関われてないのが、結構悔しいんですよ。作画スタッフの仕事を見て、「この人、いい表情を描いてるな。オレも描きてえな」みたいな気持ちになったりして。特に、トト子をあまり描いてないんですよね。もっと、トト子のダークサイドを描いてみたい(笑)。これからできるだけスキをうかがって、描こうかなと思ってます。
(初出=アニメージュ2016年2月号)
(C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会