• 【おそ松さん特集05】赤塚不二夫的ナンセンスの世界へ
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2020.10.05

【おそ松さん特集05】赤塚不二夫的ナンセンスの世界へ

(C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会

『おそ松さん』第3期放送開始を記念し、月刊アニメージュのバックナンバーに掲載されたインタビューを再掲載して6つ子の世界の魅力をあらためて紹介する特集「おそ松さんを6000倍楽しもう!」
今回掲載するのは2016年2月号掲載の監督・藤田陽一インタビューだ。
完売・増刷を記録した号にキャラデ・浅野直之インタビューとともに掲載されたこのインタビュー、藤田監督が深いリスペクトとともに『おそ松さん』の根幹に据える「赤塚不二夫的世界」について、かなり踏み込んだ言及がなされているのがポイント。
飄々とした受け答えから、社会現象的な大ブレイクにもおもねることのない、骨太な制作姿勢が感じられる。

>>>『おそ松さん』特集の全容はこちら!

とぼけた顔して赤塚スピリッツ!!
藤田陽一【監督】

キャストが育てた?6つ子の個性

——今回、『おそ松さん』表紙&巻頭大特集をやらせていただいておりまして。そんなことからも何となく察せられるかとは思いますが、世の中が大変な騒ぎになっているということはご存じですか?

藤田 いや、あんまり……ふわっと知ってるって程度で。意外に感じないもんですね、こうやってスタジオのなかで仕事ばっかりしてると。現実感が全然ない。でも、会う人、会う人に「観てるよ」って、これだけ言ってもらえるのは珍しいし、うちの子供が観てるとか、そういうことを聞くと、ありがてえなぁって思います。

——子供が観ていいのか? という気も多少、しないではないですが。

藤田 はははは(笑)。全然いいと思いますけどね、これくらい。

——放映前のインタビューでは、「今回は6つ子の個性を活かす方向でいく」というお話をうかがって、ひとりひとり「こんな感じ」というキャラクターイメージの紹介もしていただきました。

藤田 はい。

——実際にTVシリーズを1クール描いて、いかがですか。やっぱり基本線は変わっていないとか、それともキャラがそれぞれに育ってきた印象があるとか、どんな印象が?

藤田 キャストさんの芝居がついて、より個性が強調されていった印象はありますね。シリーズ構成の松原(秀)くんも毎回アフレコにきていて、キャストさんの演技を脚本にフィードバックしていく作業もうまくいってる気がします。

——たとえば、おそ松はどんな感じで育ってきました?

藤田 軽さというか、いいかげんさがよりちゃんと出てきたかなと。大雑把な感じっていうんですかね。こいつが無茶苦茶だから、弟たちがおかしくなったんじゃねえかって気もするくらい(笑)。

——じゃあ、カラ松はどうですか?

藤田 カラ松は……いい声してますよね(笑)。そのいい声がハマるようなセリフや言い回しを、こっちもどんどん足していったりしました。

——カッコつけてスルーされる芸も、いい感じに育ってきました。めげない感じがいいですよね。

藤田 ね。イイ奴ですよ。

——チョロ松は?

藤田 わりと真面目なんで、周りが暴走すると置いていかれるんですよね。で、兄弟に突っ込んだりもしてるけど、こいつも十分クソニートなんで(笑)。一番タチ悪いと思うんですよね。こんな状況なのに真面目って、ある意味、自覚がねえんじゃねえのか? みたいな(笑)。

——一松はどうですか? 暗黒面は相変わらずですが。

藤田 でも暗黒面から入りつつ、意外に優しい面がいろいろ出てきたかなと。気の弱さというか、繊細さが。

——「エスパーニャンコ」とか、確かに繊細なヤツ感は増してますね。

藤田 まあ6人のなかでは、一番意外な面が見えてきたかもしれないですね……つっても、各話完結ですしね。つながりはうっすらな感じで。

——前の話数で繊細な涙を流しておきつつ、次の話数でゲスなことをしていても……。

藤田 何の問題もないな、と。

——十四松はどうですか?

藤田 十四松は……どうですかねえ。こんなに人気が出るとは思わなかったですけどね(笑)。まあ、人間というよりマスコット的な感じなんですかね。十四松は、浅野(直之)くんのデザインに引っ張られていったところも多分にあると思いますけどね。基本が開き口で、必要に応じて閉じますから、口パクが普通と逆。

——で、最後はトド松。

藤田 トド松はね、オレはめっちゃタチ悪いなと思います(笑)。トド松は、自分のなかにない要素がいっぱいあるなぁって感じですかね。松原くんの要素が濃い気がします。自分が長男なんで、末っ子の気持ちがいまいちわからないのかもしれない。

個性の表現はおおらかに!

——そんな6つ子を、それぞれらしく見せる描き方や演出の仕方も、かなりつかめてきたのでは?

藤田 いや、自分ではあんま気にせずやってますよ(笑)。むしろ、作画さんとか演出家さんたちが慣れてきて、いい感じになってきたんじゃないですかね。最初は(個性の出し方を)口で説明してもなかなか伝わらなかったけど、何本か実際にフィルムにして、それを見た印象が次のフィルムに反映されていってる気がします。初期はわりと自分でいろいろ(修正を)入れてましたけど、今はもう、細かく入れなくても結構うまくやってくれる感じなんで。つかんでくれてるのかなぁと。

——初期に修正を入れていたのは、どんなポイントだったんですか?

藤田 表情とか動かし方、芝居感というんですかね。たとえば、「銭湯クイズ」で(お湯から)バッと出てくるときの、ぞれぞれのポーズとか表情とか。そういうちょっとした仕草。「こいつはこんな奴だから、こういう座り方」とか、そういうところに細かく指示を入れてました。基本は何でも、おそ松がオーソドックス。で、そこから性格に合わせて、ちょっと過剰に個性をだして。たとえば「トド松だったら女の子っぽく座るかな」とか。

——明確なルールはあるんですか? たとえば「こいつはこういうとき、必ずこうする」とか、逆に「こいつは絶対、こんなことはしない」とか。

藤田 ないです、ないです。見た感じそれらしくなってればいいんじゃんって、おおらかに。表情もちゃんと描き分けてさえあれば、あとはおもしろさ優先ですね。

——それでも強烈に個性的に見えているのは、なぜでしょうね? まあ、こちらも見慣れたってこともありますが(笑)。

藤田 はははは(笑)。個性的に見えてるんですかね? 見えてりゃあ良かったなと思いますけど。でもまあ、それはやっぱ、脚本段階で意識してるからってことが、一番デカいかもしれないですね。

——つまり見た目以前に、どういう行動を取るかとか、どういう言葉使いで何を言うか、みたいな部分ということでしょうか?

藤田 そうですね。それはひたすら突き詰めて考えているかもしれないです。こんなに脚本に時間をかけてる作品、ほかにねえよなぁってくらい、脚本には時間かけてるので。

——その脚本なんですが。最初に思っていたよりもバラエティに富んだストーリーというか、各話ごとのバリエーションが豊富だという印象があります。

藤田 はい、ありがとうございます。そこは、最初から絶対やろうと思ってたところです。そもそも原作がそうですから。どんどんネタをカブせていくギャグとか、いろんなシチュエーションものとか、人情話とか。

——各話のエピソード内容やネタは、どんなところからスタートして決めているんですか?

藤田 「こいつの話を作ろう」からはじまることもあるし、「ちょっと会話劇っぽいのが続いたから、動きのある話を作ろう」とかもあるし。バリエーションとか、並びのバランスから出発していることが多いかもしれないですね。特に1クール目は、やっぱ6つ子それぞれを明確に認知してもらいたなと思って、それぞれの担当話数を作ったつもりです。そこに脇のキャラクターの話数も混ぜたりしつつ、2巡くらいできればいいね、と。

——たとえば「おそ松の憂鬱」は、タイトルからしておそ松の話ですね。

藤田 そうですね。

——これは「おそ松の話で1本」と脚本家さんに発注して、何か書いてきてもらうとか?

藤田 どうだっけな……「おそ松の憂鬱」は松原くんが最初にプロットあげてきてくれたのかな。「カラ松事変」も、松原くんがこういう話をしたいということで、ざっとプロットをあげてきたところで、「カラ松の話だったら、こうじゃないか」って、みんなでネタを叩いていったって感じですね。

——「カラ松事変」はBパート「エスパーニャンコ」と対になっていて。「エスパーニャンコ」で泣かせておきながら、それが「カラ松事変」の壮大なオチにもなっているという構成でしたね。

藤田 あれは、先に「エスパーニャンコ」があったのかな。早めに原作エピソードを入れたかったのと、そこまでの話数のバリエーションのなかで人情話をやってなかったので、じゃあ「エスパーニャンコ」にしようか、と。とはいえ、まだちょっと(人情話全開でいくのは)怖かったんで、「最後にオチつけりゃあ、人情話もできんじゃないの?」っていう発想でしたかね。

——そういう意味では「エスパーニャンコ」も、裏の主役はカラ松ですよね(笑)。

藤田 オイしいと思いますよ、カラ松は(笑)。

——あと「泣ける」という意味では「恋する十四松」も印象的です。

藤田 あれもいい話数でしたね。音楽とかも良くて、どんどん跳ねていったなぁって思います。

——抑えた演出と行間で語る、シブいドラマでした。

藤田 まあ、映画とかだと普通の手法だと思うんですけど。

——でも、それを『おそ松さん』でやったところがインパクト大でした。しかも、十四松が主人公というのもサプライズで。

藤田 ははは(笑)。これも、またそろそろ人情話をやりたいなってことで、アイデア出し合って。意外なところから出発したらいいんじゃないかなっていう話をして、松原くんのほうでバッとプロットあげてきてくれて、みんなで叩いて……という感じでしたね。




(C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会

アニメージュプラス編集部

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