ナンセンスは空気とグルーヴ——具体的にナンセンス的世界を演出する上で、気を遣っていることはありますか?
藤田 いかにも「ギャグです」っていうギャグ表現ではなくて、やりとりのなかでのくだらなさとか、ですかね。そのものズバリのギャグというより、グルーヴとか空気感を大事にしていく感じで。あとはやっぱり、松原くんがああいう出自の人なんで(*松原さんはもともと放送作家、コント作家として活躍)。アニメというより、実際に人が演じておもしろい脚本という感じもあるんですよ。だから、いかにもアニメっぽい描き方にするとスベっているように見えちゃうことがある。絵コンテを修正するときに、そういう部分を全部ならして、「淡々と狂ってる」というノリを出していけるように気をつけてます。
——たとえば、大げさな演出になっているところを抑えたりとか?
藤田 そうですね。いかにもギャグアニメ的なカット割りを削ったり。実際のコントの映像とか、TVのバラエティとかでもそうですけど、あまりカット割りをしすぎるとウザいじゃないですか。ワンカメで、少し引いた画面で舞台全体を観ていた方がしっくりくるし、おもしろいと思うんですよね。そういうところをちゃんと出せればな、と。
——確かに、6つ子が全員映っていて、それぞれがそれぞれのリアクションをしているカットに、『おそ松さん』らしいおもしろさを感じます。
藤田 自然と6人がひとつの空間にいて、馬鹿なことやってればいいかなということですね。
——「顔のアップで、切り返して」というカット割りよりも、少し引いた画面で見せるような?
藤田 そうですね、そういう画面作りは、むちゃくちゃ意識してます。ギャグを撮るんじゃなくて、シチュエーションを撮りたい。おかしなことが起こっている空間の、空気そのものを撮っていきたいので、カメラはかなり引いて撮っているつもりです。「足し算」というより、すげえ「引き算」だと思いますね。あえて何もしないで、その場面の空気をダラっと撮るようにしていく。
——空気感という意味では、背景美術も特徴的ですよね。
藤田 背景、すごくいいですね。美術監督の田村(せいき)さんも、独特なセンスの人ですけど(笑)。美術も最初にかなり時間をかけましたね。自分と浅野くんと田村さんで、何回もやりとりをして。キャラクターとの合わせ方とか含めて、作っていきました。
——よく見ると線とか曲がっていたりするのですが(笑)、空間としては成立していて、独特の味わいです。
藤田 手描き感ですね。ぱっと見て「あ、『おそ松さん』だ」ってわかるような、この作品ならではの背景にしないと、もったいないよね、という思いもありましたね。もともとの原作からして、絵がすげえポップで、デザインとして完成されてるんですよ。それを何とか、アニメでも活かしたいっていうことで。
——原作の世界がしっかりと、ベースにあるわけですね。
藤田 自分は意識してますね。周りのスタッフはあまり意識しなくていいと思いますけど。自分がしっかり意識して、何となくやんわりと「ここに向かってください」という目印の旗だけ立てておけば。あとは各々が好き勝手に、そこに向かって行ってくれればいいかなと。
——ちなみに一部のファンのみなさんは、6つ子の部屋が何畳くらいあるのかとか、気にしてるみたいですよ。あと、6つ子の家の間取りとか。
藤田 ……あれ、セットですから! そんなの気にしたら負け! そのへんはおおらかに、昭和のノリでお願いします(笑)。
モテたいので頑張って作ります——2クール目には、どんなエピソードが待っているのでしょうか。
藤田 1月4日に放映された、2クール目のド頭のエピソードは、自分の姿勢を如実に出してるつもりなんで。そんな感じで、この先もいければいいかなと思ってますね。
——つまり、本誌発売前に放映されたばかりの「実松さん」が、2クール目の指針である、と。
藤田 指針ですね。あれでいいと思ってます。おっさんがずっと、しみったれている話(笑)。とてもいい話ができたなと思ってますんで。
——では最後に、2クール目に向けての抱負を力強くお願いします!
藤田 抱負ですか……ま、モテたいですね。
——(笑)。
藤田 モテたいです、オレが。
——……それをインタビューのオチにする感じで大丈夫ですか?(笑)
藤田 ははははは(爆笑)。
——というか、今もモテモテだと思いますよ。これだけの人気アニメの監督なんですから。
藤田 全然、モテてないですよ、マジで。こうやって風呂にも入れずに、絵コンテばっかり直してる人生。何なんですかね、これは。世間とのギャップが激しすぎる。
——でも今きっと「『おそ松さん』の監督だよ」って言えば、キャーですよ。サイン攻めですよ。
藤田 いや、サインとかいいんで。そういうんじゃなくて、オレ自身が本当にモテたいですね。とにかくモテたいんで、そのためにも、これからも頑張って作ろうと思います。
(初出=アニメージュ2016年2月号)
(C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会