• 【おそ松さん特集06】藤田陽一監督、第1期を総括!
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2020.10.06

【おそ松さん特集06】藤田陽一監督、第1期を総括!

(C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会


キャストの妙技がキャラクターを支えていた

——十四松は1話丸ごと「十四松まつり」(第17話)でキャラクターが広がった……というより、よりわからなくなった感もありました(笑)。

藤田 十四松はある意味、難しいキャラだとは思うんですよね。どうとでもとれるというか。でも小野(大輔)さんが、やり過ぎずにナチュラルなラインでまとめてくれたと思います。セリフの言い方ひとつで、キャッチーすぎるキャラクターになりそうなところを、自然なラインギリギリのところで、うまく上げ下げしてくれて。

——「灯油」(第23話)では、今まであまり見せなかった顔もみせましたね。灯油補給を兄弟におしつけようとしたり、寒さで暴れたり(笑)。

藤田 そういう面もあるよってことを、ちゃんと見せたかったんですよね。そもそもあいつら、全員どうしようもないダメ人間だし、ちゃんと均等に配分しないと(笑)。

——全員、基本はクズニートであることを忘れちゃいけないと。

藤田 そこをちゃんと描いておかないと(笑)。欠点をさらけ出すことでキャラクターの魅力や、愛おしく思う感情は自然と出てくるだろうし。「ダメで可愛げがあるクズ」というところを、嫌らしくない感じで積み重ねていければなと。それでいうと6つ子だけじゃなくて、トト子がすごくいい感じに育ったなって思いました。まあ、原作でもあんな感じの子ですけど、遠藤(綾)さんの演技がとても素晴らしくて。こんなに嫌味なくヒドいことを言えるなんて……大丈夫だ、この演技だったらもっと言わせられる! と(笑)。

——(笑)。それもあって最終回前にトト子の回(第24話「トト子大あわて」)があったのですか?

藤田 やっぱり、どこかで拾わないと。6つ子以外にトト子やイヤミ、チビ太もいて、みんなキャラが立ってるので、もう何話あっても話数足んねぇよ! という感じですね(笑)。

——そういう意味で特に後半、特筆すべき話数はないけど存在感を発揮したのがおそ松でした。

藤田 おそ松とイヤミかな。2人はダントツで難しいキャラだったんじゃないかなという気はします。だから、ほんとに櫻井(孝宏)さんメチャクチャ上手いなぁと思います。ほかの5人にはわりとキャッチーな特徴が付いているけど、ちょうど真ん中にいるおそ松にはそれがなくて。だけど、会話の雰囲気というか、リアリティラインみたいなものを決める基準はおそ松だと思うんですよ。

——確かに、真ん中におそ松がいると話が上手く回っていくような安心感がありますね。

藤田 そういう雰囲気はうまく作れたと思ってますし、櫻井さんがちゃんと引っ張ってくれたなっていう印象ですね。

——そう考えると「手紙」はある意味、おそ松のB面だったのかもしれないですね。弟たちが頑張ろうとするなか、長男だけ頑なで、ちょっとしんみりする。

藤田 そうですね。でも、結局はちゃんと真ん中にいる。ひと昔前の、昭和のボンクラ兄ちゃんっていう感じですね(笑)。

——キャラクターの広がりという意味では、6つ子の発展型(?)の「F6」や「じょし松さん」も印象深かったです。[注:「F6」は6つ子を“今風のイケメンアイドルアニメ”として描くシリーズ。「じょし松さん」では、6つ子をそれぞれの性格を反映させた女性キャラとして描き、生々しい(?)女子トークを繰り広げるシリーズ]

藤田 「松野松楠」(第16話)とか、誰にも求められていない感じでスゴく楽しかったですね(笑)。F6はイケメンなだけで、あとはホントに好き勝手って感じで。結局、F6シリーズが一番、エグくてノーヒントというか。他の話数に比べても視聴者の方が感じる“置いてけぼり感”は格段に高くなってるかなと。

——「じょし松さん」は案外長寿シリーズになりましたが、どんな発想から生まれたのでしょうか。

藤田 『おそ松さん』の基本は「ボンクラ野郎イジり」ですが、女性も平等にイジりたいなって思ってたんですよ。でも、男性が女性をどうこう言っても角が立つし、女性が女性を言ってもトゲトゲしくなる。そんな時にTVで女装をした方々を見て、ああいう人たちは男性と女性、両方にキツく言えて最強だなってことで、作ってみました。

——つまり、「じょし松さん」自体は女性だけど、6つ子がベースってところで、完全な女性とも言い切れないような……というバランスですね。

藤田 そう、バランスです(笑)。で、多少どぎついことでもああいうキャラクターが言えば大丈夫なはずってことで、脚本の横手(美智子)さんに「思いの丈をいろいろ書いてください」と(笑)。

——役者陣も結構楽しく演じていたように感じます。

藤田 なんか、みなさん思った以上に上手かったです(笑)。現場では中村(悠一)さんのカラ松がいちばんウケてました。「ほとんど野郎のままじゃねえか! ズルいぞ!」みたいな(笑)。

——初老になった時も驚かされました。そこまでイジるのか!? という(笑)。

藤田 最初から「じょし松さん」で4本くらいやろうって決めていて、どうしたらシリーズが終わるかって考えたら、もうあれしかなかったですね(笑)。

イラっとくるけど最後にあえて言ってみた

——では……さっき「そういうこと言われるイラっとくる」と言われたばかりですが(苦笑)。最終話まで作り終えた今、監督が6つ子をそれぞれどういうイメージで見ているかってところを、最後なのでお聞きしたいのですが。

藤田 ははは(笑)。やっぱり難しいですけど……。たとえばおそ松は「いちばん自由」かな。6人ともマイペースといえばマイペースだけど、群を抜いてマイペースで自由で、欲望のままに生きてる奴かなと。

——では、カラ松は。

藤田 カラ松は「いちばんズルい」かな(笑)。とにかく声がズルいですよね。意外に出尺は短いような気がするだけど、何をしゃべらせてもなんだかおもしろくなって、インパクト残る。ズルい奴だなぁって思いますよ。

——チョロ松。

藤田 チョロ松……「いちばん生々しい」ですか。チョロ松の「イタさ」は、やっぱりわれわれみんな持っているものだよなって思うし。特に男なら誰でも「他人事じゃねーぞ」って(笑)。

——じゃあ一松。

藤田 一松は、「いちばん予想外」ですね。最初は毒吐きキャラだったのに、逆にイジられた時に振り幅出てくるとは思わなかった。いちばん意外な方向に成長したキャラクターでした。。

——十四松。

藤田 「いちばん掴めない」。天然なのか、わざと狙ってるのか、どっちかわからない、という地点に着地できたかなと。どのキャラクターもそうですけどあまり決め込まず、行間を増やしていけるようにキャラクターを描く作業が、しっかりできたかなって思ってます。

——最後はトド松。

藤田 トド松は……じゃあ「いちばん合ってた」で(笑)。チョロ松がボケに回ることでトド松のツッコミが増えて、入野(自由)さんのツッコミ演技が予想以上におもしろかった(笑)。ちゃんとこちらの求めるニュアンスに合わせた上で、「まさか、こういう抑揚でこう突っ込むとは!」という感じになっていました。入野さんの演技とトド松が合致して、末っ子の奔放さをうまく醸し出してくれたと思います。

——ありがとうございました! では最後に、『おそ松さん』を応援してくれたみなさんに、監督からのメッセージをお願いします。

藤田 自分も小さな頃から赤塚作品で育ってきたので、そういう意味で実は今回、「使命感」はかなり感じていたんですよ。結果『おそ松くん』を知らなかった人とか、もっと下の世代の小学生とかにも『おそ松さん』を観てもらえたと聞くと、何とか役目をはたせたというか。赤塚さんの世界に触れるきっかけだけでも、次の世代に渡すことができたのかなと思ってますね。ぜひこれを入り口にして、他の赤塚作品にも触れてもらえるとうれしいかなと。だって赤塚ワールドって、もっともっとヤバいから!(笑)
(初出=アニメージュ2016年5月号)




(C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会

アニメージュプラス編集部

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