• 【おそ松さん特集11】藤田陽一が『えいがのおそ松さん』に込めたこと
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2020.10.11

【おそ松さん特集11】藤田陽一が『えいがのおそ松さん』に込めたこと

(C)赤塚不二夫/えいがのおそ松さん製作委員会2019


こだわり満載の思春期バスターズ

ーー今回の映画、全体的にいつもの悪ふざけが目立ったり、はぐらかしたりもしているけれど、どこか「優しさ」が感じられました。藤田さんや松原さんの人柄かなと思ったりしたのですが。

藤田 はははは(爆笑)。まあ……自分的には、はじめてのオリジナル映画(注:過去の監督作『劇場版 銀魂完結篇 万事屋よ永遠なれ』は原作・空知英秋のネームがベース。『おそ松さん 春の全国大センバツ上映会』は総集編+αで構成)だったので、観客へのホスピタリティに徹したっていうのはありますね。

ーーファンや観客に対してももちろん、作中の登場人物に対しても優しさを感じました。最近は「イジり」というお笑いの手法も扱い辛くなりましたが、それこそ6つ子の「イジり方」も、どこか優しいというか。

藤田 個人的に「悪人」が描けないっていうのは昔からありますけど。あとは、松原くんはオレより優しいと思いますよ。オレがわりとドライなプロットを書いたりするところも、ちゃんとホットなシナリオに落とし込んでくれる。それはやっぱり、彼が放送作家という出自だから、お客さんの顔が見えているのかなと思いますね。そこでバランスが取れているのかもしれないです。最後に6つ子が高橋さんに「ありがとう」って言う場面も、作ってくれたのは松原くんです。オレのプロットだともう少し切ない感じで終わっていたけれど、松原くんがちゃんとホットなシーンにしてくれました。オレだと照れてできないところもストレートに表現してもらえて、結果としては本当によかったです。

ーーほかに、藤田監督的に手応がえあったシーンなどはありますか?

藤田 やっぱ、細かいコントみたいなところは楽しかったですね。一松とトド松のカラオケのやりとりとか、ちょっといいシーンに無理矢理、野球ネタを放り込んだりとか。あとはスタッフが、こっちの想定以上に6つ子に細かく芝居をつけて動かしてくれたので、映画ならではの絵にしてもらえたなっていう手応えはありましたね。「仰げば尊し」からの思春期バスターズの流れとか、温度差が最高で。実はあの場面にも、めちゃくちゃどうでもいいこだわりがありました。たとえば「思春期バスターズ」っていうタイトルロゴが出てくるんですけど、最近は普通、デジタルでやっちゃうんです。でも今回は「せっかくの劇場版だし、手描きで『(最強ロボ)ダイオージャ』風にやってもいんじゃない」って、手描きでやってくれました(笑)。

——「せっかくの劇場版だし」って、魔法の言葉ですね(笑)。

藤田 (笑)。あのロゴは、動くときにちょっと立体が歪む荒っぽいころも含めて、最高に好きですね。あと、正義のヒーロー風のネタはTVシリーズでもやったんで、思春期バスターズは「思春期の思い出を破壊する悪のヒーロー」というコンセプトで、浅野くんにデザインしてもらったんですよ。

ーーなるほど。「仰げば尊し」が流れる中、18歳6つ子が屋上に集まって口論しているうちに……という場面がセリフなしで描かれる、青春ドラマ的には切ないけれどいいシーン。なのに、思春期バスターズが登場して台無しにしますね(笑)。

藤田 青春の切なくも美しい一場面をぶち壊しにくる、荒んだ大人たちというコンセプトですね。だから背中に「死」とか「呪」とか書いてあります(笑)。音楽の打ち合わせでも「悪いヒーローなんですよね」「じゃあ、テーマソングはヘビーメタルっぽい感じでどうですか」とか、話をしました。

ーーつまり、そこで青春の大事な一場面をぶち壊されてしまった結果、6つ子たちはああなった。自分たちで、今の自分たちになるきっかけを作ってしまった、みたいな?

藤田 そこはまあ、「思い出の世界」の中だから。さっきも言ったとおり、どこまで現実とリンクしているかわからないけどね……ってことで。それに、リンクしていたとしても、それが良かったのか悪かったのかわからない。けど、まあ、どっちでもいいじゃんって。「これでいいのだイズム」ってことですね。


(初出=アニメージュ2019年5月号)

(C)赤塚不二夫/えいがのおそ松さん製作委員会2019

アニメージュプラス編集部

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