『アーヤと魔女』宮崎吾朗監督のインタビュー後編は、初めて手がけた3DCGの印象、印象的だった音楽、そして未来を感じさせるエンディングについて語る内容に。これを読めば、また本編を改めて観直したくなるかも!
――今回一番の注目ポイントは「3DCGでジブリ作品を作る」ということだと思うんです。で、今回『アーヤ』を観て、不思議なことに「これはジブリ作品だ」と思えたんです。その部分についてはどう思われますか。吾朗 そう言っていただけると嬉しいですが、そこはおそらく賛否いろいろあるんじゃないでしょうか。キャラクターは近藤勝也がデザインしているので、ジブリ作品らしい雰囲気は出ているでしょうけれど、やっぱり手描きアニメと3DCGとでは違った印象を持つ方も多いのではないかなと思います。
――手法としての3DCGは、手がけてみてどのような印象を持ちましたか。吾朗 やっぱり手描きのアニメーションには手描きならではの圧倒的な良さがあって、CGでは人の描いた線が持つ魅力にはなかなか到達できないんです。人の手が生み出す曲線の美しさ、豊かさみたいなものにはなかなか太刀打ちできない。
その一方で『山賊の娘ローニャ』をセルルックのCGで作った時に一番感じたのは、手描きアニメーションよりも、実はより表現できるところがある、ということ。手描きのアニメーションだと描ける人が限られる。けれどCGならいろんな人の手を経てブラッシュアップしていくことができる。つまり、キャラクターを動かしてお芝居をさせるという意味では、手描きのアニメーションと遜色ないものができる。そう思っていたので、今回もそこを目指しました。
(C)2020 NHK, NEP, Studio Ghibli
――今回は音楽がすごく印象的でした。吾朗 舞台は原作に合わせてイギリスっぽい場所にして、時代は90年代初めくらいにしました。その頃アーヤが10歳だとすると、お母さんたちがバンドをやっていたのはおそらく70年代。70年代で舞台がイギリスとなれば、音楽はもうロックしかないと。
――では、音楽からバンドの設定が出てきた?吾朗 劇中で主要なキャラクターたちが楽器を演奏して歌うというようなことをずっとやってみたかったんです。それに、大人たち3人の関係も「過去にバンドを組んでいた」とすると、さらに濃い人間関係になるかなと思って。
――今回、歌詞も書かれていますよね。どういうイメージから作っていきましたか。吾朗 マンドレークが常に「私を煩わせるな」=Don’t disturb meって言っているのが面白くて。この言葉、「放っておいてくれ」っていう意味もあると思ったんです。つまり、私がどうするかは私が決めるんだから、アンタにとやかく言われたくない。放っておいてくれっていう。
――その感覚って、やっぱり70年代の気分に基づくものですか。吾朗 そうだと思います。本来ロックが持っている、既存のものに対するある種の反抗。根っこの部分に「俺たちは俺たちなんだ」という気持ちがあったと思うんです。その音楽に10歳のアーヤが反応するっていうのが面白いなって思ったんです。
また最近、ネットやSNSの影響かもしれませんが、かつてなら内輪の話で済んでいたものが拡散してものすごく大きな影響力をもつようになっていますよね。それによって、いい面もあるけど、「煩わしい」と感じてしまう部分も心のどこかにあるんじゃないのかなと思って、その部分も曲の歌詞に引っ掛けてみました。
(C)2020 NHK, NEP, Studio Ghibli