• 『鬼滅の刃』はなぜヒットしたのか!? 3つの環境から読み解く
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2021.03.20

『鬼滅の刃』はなぜヒットしたのか!? 3つの環境から読み解く

『鬼滅の刃』はなぜヒットしたのか!? 3つの環境から読み解く


文化的環境とメディア的環境

まずひとつ目の文化的環境についてお話します。『鬼滅の刃』はヨーロッパ、欧米圏でもそれなりにウケている様子がうかがえるのですが、まだ『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が公開されていないこともあってか“それなりにウケている”にとどまっています。どちらかというと、アジア圏のほうがより盛り上がっている印象です。昨年(2020年)、コロナがそれほどひどくなかった時期(2月)に、ミャンマーを訪れていたのですが、そこでお会いした現地の方で『鬼滅の刃』をよく知っている方がいてびっくりしました。もちろん、マンガではなくアニメを通じて作品を知り(海外ではアニメが作品を知る入り口となることが多いのです)、ハマりこんだようなのですが、「仏教的な世界観」と『鬼滅の刃』は比較的合うのかもしれませんね。

文化的環境とヒットの関係の国際比較は、今後『無限列車編』が欧米で公開された後にも様々な方からなされるかと思いますが、少なくともこの日本において大ヒットした理由は、日本人誰もが知っているであろう『桃太郎』などの物語にある「鬼退治の物語」のフォーマットが浸透していることと無関係ではないでしょう。特に幅広い年代、年配の方もそれなりに見ているという理由は、大正時代という「時代劇」である設定も大きいと思いますが、いろいろ複雑な設定があるとは言え基本は「鬼退治」という軸があることが大きいと思います。『鬼滅の刃』はタイトルからして「鬼退治」を連想させるものですし、実際にその通りの内容です。このような、わかりやすい、日本文化を基盤とした作品であることが幅広い世代に浸透していくうえで大きな影響を持ったかと思います。

そして、2点目のメディア的環境についてお話します。
こちらもすでにさまざまな記事で言及されていることですが、動画配信サービスの影響は大きかったといえます。もちろん動画配信サービスで人気となっているタイトルは『鬼滅の刃』だけではありませんが、 「いつでも・どこでも」作品に触れられる環境は『鬼滅の刃』のヒットには大いに寄与したと考えられます。テレビ放送が主体だった2010年代前半までは、作品には必ず「旬」や「賞味期限」があり、その期間にどう作品をファンにプッシュし、ハマらせていけるかが重要でした。テレビ放送を通じてしか、多くの視聴者が作品に触れる機会がなかったからです。もちろん、2000年代後半以降も、動画サイトや検索サイトなどで探し出せば、知らない作品に触れようと思えば触れられるわけですが、そこには大きなハードルがあります。今では、気軽にスマホやテレビで動画サイトにアクセスして、そこで「話題の作品」にかんたんに触れることができます。このことが深夜に放送されたTVアニメだった『鬼滅の刃』が小学生に広く知られる作品になり、さらには興味のなかったその親以上の世代の視聴につながったと考えられます。「いつでも・どこでも視聴」によって「時間」のハードルが超えられ、想定していた視聴者層も拡がったのです。

少し『鬼滅の刃』から離れますが、この動画配信サービスの影響は、聖地巡礼の事例でもみられます。

たとえば、『涼宮ハルヒの憂鬱』という作品があります。「踊ってみた」動画が定着する下地をつくった「ハルヒダンス」など、動画サイトが普及し始めた時期にネット上で大きなムーブメントを起こした作品です。2006年4月にTVアニメが放送されて、15年近く経つわけですが、そのアニメの舞台である西宮市には現在でも10代や20代前半の若いファンが来ている姿を見ることがあります。西宮市でハルヒ関連のイベント運営を担当されている方とお話しする機会があったのですが、その方からも同様の印象をお聞きしています。なぜリアルタイム視聴者でないだろう若い方が15年前のアニメの「聖地」にやって入ってこられるのかというと、動画配信サービスで作品に触れているからだと聞きます。かつての「聖地巡礼」現象では、「聖地」をつくりだした作品の展開が終了すると大体ブームはいち段落していましたが、動画配信サービスという導線によって時間差で新たなファンが参入する環境が整えられたことで従来のTVアニメの視聴では想定されていなかった「巡礼者」を生み出すようになってきているのです。

『鬼滅の刃』も2019年4月〜9月の期間に放送されており、その時期に人気のピークが実際にファンの間では来ていたわけですが、今は動画配信サービスで導線が引かれており、後から興味をもった人が即座に見られる環境ができています。その環境によって一気に幅広い年代が作品を視聴し、その魅力に気づいていったのだろうと考えます。アニメを視聴する文化が変わりつつあるわけで、このことは今後のアニメ制作やビジネスのあり方にも影響してくるものと思われます。

アニメージュプラス編集部

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