バーチャルな存在のリアリティーー今作の主人公・すずはインターネット上の仮想世界で、バーチャルシンガーとして注目されるという設定ですね。
細田 これはアニメージュの記事だから言うわけじゃないけど、今、アイドルもののアニメってすごく多いじゃないですか。もちろん『(超時空要塞)マクロス』の時代からアイドルものはあったけれど、今はより現実のアイドルグループを模したアイドルものが多い。そして、それを演じる声優さんも現実でアイドルユニット的なものを結成して、歌も出して……みたいな在り方が、すでにバーチャルな感じがする。そういう意味で今回、そばかすだらけの下を向いて歩いているような内気な女の子が、バーチャルなキャラクターとしてインターネットの中心で歌っているという構図は、実は声優さんのあり方ともすごく近い気がする。本来で言えば、声優さんって(実写や舞台の)俳優さんと違って “声だけ” ですよね。現実にはみなさん顔を出しているけれど、お芝居をする前提としては自分の顔を見せず、その上でアニメのキャラクター演じるというバーチャルな存在とも言える。で、アイドルものだとさらに輪をかけて “バーチャル性” が高まるわけだけど。
——アイドルのキャラクターを演じ、そのキャラクターを通して自身がアイドル的に活動もする。あらためて考えるとおもしろい構図ですよね。
細田 そういうバーチャル性みたいなもののおもしろさは、本質的には『竜とそばかす姫』で描いているようなことと同じじゃないかなと。そして、そういうことを今、声優ファンの人はもちろん、声優さんご本人たちはどう感じているのかなっていうことに興味はありますよね。今回、オーディションでバーチャルシンガーの人も何人かお話をしたり、歌を聴かせてもらったりしたけれど、歌の世界でもそういうバーチャル的な人は多いです。ミュージシャンなのに絶対に顔は出しません、と。そこに何か現代における物事の本質があるような気もする。
ーー確かに、インターネットの空間のなかで、バーチャルな自分として活動する人は増えています。自分をキャラクター化しつつ、自分自身でもある。
細田 なぜそうなるかといえば、今の世の中がそれだけ閉塞している、過酷だということの現れだと思います。「顔を出さない」ということにリアリティを感じ、共感するということは、それだけ今の若い子たちが抑圧を受けていることの証だという気がして。
ーー作中でも現実の顔や身元を明かされるということが、仮想世界〈U〉の中でいちばん忌避されることとされていますね。
細田 そう、裸になっても顔は見せたくない、くらいのよくわからないことになっている。現実のネットでも、みんながもっとも怖れているのは「身バレ」することですよね。その結果、世界に向けて発信しているのに、自分が何者かは絶対に明かしたくないという両義性、二面性が生まれていて、その矛盾を受け入れないとネットの世界では楽しめない。逆に言えば、そのくらい抑圧されているということですよ、きっと。そして、そんな風に “自分自身” がどこにいるのかわからなくなりがちな時代で、もうひとりの自分と向き合うことで強くなる主人公。それがしっかり描けたらいいなというのが、今回の映画です。
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