• 富野由悠季が新たな野心と試みで紡いだ「ガンダムと宇宙世紀の未来」
  • 富野由悠季が新たな野心と試みで紡いだ「ガンダムと宇宙世紀の未来」
2021.08.26

富野由悠季が新たな野心と試みで紡いだ「ガンダムと宇宙世紀の未来」

『機動戦士ガンダムF91』(C)創通・サンライズ (C)創通・サンライズ・MBS

現在大ヒットを記録中の『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』。本作をきっかけにして、改めてアムロ・レイとシャア・アズナブル、そして地球連邦とジオン公国の間でくり広げられる戦いの歴史に注目が集まっている。
『閃光のハサウェイ』へと繋がっていく宇宙世紀(U.C.)を背景としたガンダムシリーズの魅力を紹介する連載企画の第3回は、宇宙世紀のさらなる未来の歴史を描き、その後の作品世界の拡大に大きな影響を与えることになった『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(88年)、『機動戦士ガンダム F91』(91年)、『機動戦士Vガンダム』(93年)にスポットを当てていこう。

始まりがあれば、終わりがある。『機動戦士Zガンダム』、『機動戦士ガンダムZZ』のTVシリーズを経て「ガンダムの締めくくり」を意識して制作された作品と言えば、劇場アニメ『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』だろう。1988年3月に劇場公開された本作は、原点である『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイとそのライバル、シャア・アズナブルの最後の戦いを描く物語として制作された。『Zガンダム』の劇中で行方不明になったシャアは、『ガンダムZZ』企画当初では一時ハマーンと共に戦うも最終的にはハマーンを討ち取って戦いを終わらす役目を担うはずだった。しかし再登場の機会は『逆襲のシャア』となり、戦いのみならずシリーズそのものを終わらせる役目を担うこととなった。
▲『逆襲のシャア』でシャアはネオ・ジオンの総帥として地球に戦いを挑む。

スペースノイド(宇宙居住者)の地位向上を第一と考えるシャアは、新生ネオ・ジオンを率いて武装蜂起。地球からコロニーを支配する特権階級の人々を全て宇宙へと追い出すため、地球に隕石を落として人類の住めない星にしようと企む。この目的と手段からも、ザビ家と地球連邦軍の戦いを描いてきたこれまでのテレビシリーズとは物語の方向性が異なることがうかがえる。
シャアにとって「隕石落とし」は自分が掲げてきた思想を世界に知らしめるものであり、またアムロと本気で戦うための舞台を生むためのものでもある。能動的でカリスマ性を感じさせるシャアは、アムロにとって嫉妬の対象であったようにも映り、2人の戦いを「大義」に収めない物語の構成の巧みさは、今なお強く支持されることが納得できる。アムロとシャアの最期の決着をつける、これほどうってつけの題材は無い。

そして本作では、ニュータイプの少女クェス・パラヤとの出会いによってハサウェイ・ノアの人生が大きく揺り動かされる様も描かれる。『閃光のハサウェイ』をより深く楽しむためにチェックすべき1作、と言えるだろう。
▲『閃光のハサウェイ』にもクェスが登場する場面が。

『逆襲のシャア』公開から3年後の1991年、劇場版『機動戦士ガンダム』公開10周年を記念して制作されたオリジナル劇場アニメ『機動戦士ガンダムF91』は、舞台となる年代を『逆襲のシャア』から30年後となる宇宙世紀0123年とし、これまでのガンダム作品とは設定面がリンクしない形で制作された。

腐敗が進む地球連邦政府に対し、選ばれしエリートが社会を管理する〈コスモ貴族主義〉を標榜するマイッツァー・ロナが軍事組織クロスボーン・バンガードを設立、理想の王国「コスモ・バビロニア」を建国するため新造のスペース・コロニー「フロンティアⅣ」を強襲する。

主人公のシーブック・アノーは、友人たちと共に混乱するコロニー内を逃げるが、その中でクラスメイトのセシリー・フェアチャイルドがクロスボーン・バンガードに連れ去られる。セシリーの正体はマイッツア―の孫娘ベラ・ロナだったのだ。フロンティアⅣを脱出したシーブックたちは地球連邦軍の宇宙練習艦スペースアークに乗り込み、母が開発に携わった最新鋭機ガンダムF91のパイロットとしてクロスボーン・バンガードとの戦いに巻き込まれていく。
▲『ガンダムF91』より、セシリー(左)とシーブック。

『ガンダムF91』は劇場版に続いてテレビシリーズの制作も企画されていたが、興行面で良い結果を残すことができず、残念ながら実現することはなかった。しかし技術革新によって15メートルサイズに小型高性能化が進み、ビーム形状を変化させたシールドを装備したモビルスーツの設定、当時注目を集めていたF1レースのフォーミュラマシンを参考に、よりスタイリッシュなイメージがガンダムF91の造型に取り入れられるなど、多くの新たな試みがなされたことは注目に値する。メカデザインを大河原邦男、キャラクターデザインを安彦良和が担当し、富野由悠季監督と共に原点回帰を目指した陣容からも、そんな新世代に向けた作品への意気込みが感じられた。

C)創通・サンライズ (C)創通・サンライズ・MBS

アニメージュプラス編集部

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