考えて感じ取り行間を読むーー実際に収録して作品についていろいろ知った今は、どんな印象を抱いていますか?
市川 何て言うのかな……僕はこういう作品をやりたいと、ずっと思っていました。普通の作品は「こういうアニメです」という情報を得られればわかりやすいじゃないですか。たとえば「ギャグアニメです」と言われれば笑いどころもわかりやすいし、「シリアスな展開になる」と言われればそのシリアスさを楽しめます。でも『Sonny Boy』は、自分で考えないと誰も答えを教えてくれない。そこが、いいなと思います。僕らも台本を読むまで、どんな作品なのかという説明をまったく受けなかったんですが、どんな作品なのか知らなかったからこそ、第1話をあのテンションで演じられたんだな、と。限られた情報を元に自分の中にある引き出しを探り、答えを探していくという作業が多くて、それがとても楽しいし、演じ甲斐がある作品だなという印象です。
小林 僕も近い印象ですね。良い意味で尖っている作品だし、役者からするとやっていておもしろいと思える部分がたくさんあります。説明セリフやモノローグが一切ないから、視聴者的には「なんで今のシーン、スムーズに進んだの?」「さっきの場面とつながっている?」と戸惑うこともあると思うんです。でも、キャラクターたちは確かにあの世界に生きていて、当然のように説明なんてないし、視聴者に見せようと思ってしゃべっているわけじゃないという雰囲気で、リアルに描かれている。そういう作品はとても珍しいし、視聴者にどう受け取られていくのか、興味があります。
市川 それこそ、第1話で生まれた疑問がまったく解消されないまま、第2話でさらに新しい疑問が生まれて。それが第3話、第4話……と続いて。そのあいだにあるはずの出来事を自分で補完していくところに魅力を感じるという、希有な作品というか、珍しいなと(笑)。
小林 でも一方で、夏目監督のエッヂの効いたセンスが感じられるシュールな笑いもあるし。それぞれのキャラクターがスポットライトを浴びたときに「ああ、このキャラクターってこんな思いを持っていたのか、こんな一面を持っていたのか」と気づかされたりもする。ひとつひとつのシーンを切り取っても、おもしろく観ることもできます。いろいろ考えながら観るのが好きな人は、大筋を追っていくことで楽しめるし。大筋を追わなくても、各話やひとつひとつのシーンにも楽しめる余地がたくさんあるのが魅力的ですね。
ーーそういう “行間” を埋めるような情報は、収録の際に夏目監督から聞かされたりしたのでしょうか?
小林 いや、ないですね(笑)。
市川 「このあとどうなるんですか?」みたいに聞いても、まったく教えてくれなかったです(笑)。
小林 でも、キャラクターたちも、この先の展開なんて当然、知らないわけですから。知らないほうが、僕らも演じやすいだろうということだったのかと思います。
市川 そう、本当にキャラクターと同じ目線で演じさせてもらったという感覚ですね。
ーーそれぞれ演じているキャラクターについては、どのように捉えていらっしゃいますか?
市川 長良は、本人は多分そう思っていないとおもいますが、僕自身はちょっとかわいそうな子だな……というと語弊があるかな。言葉で表現するのは難しいですね。特殊な家庭環境の影響などもあるかもしれませんが、自分の心を傷つけないやり方みたいなものを、子供ながらに習得して、何とか守っていたのかなとか。そういう想像をしちゃうようなキャラクターですね。長良ってよく「クズ」と言われるのですが(笑)、自分の中でいろいろ抱え込みながら、安全なポジションを常に探しながら生きているような……そういう面で、ちょっとかわいそうな子だなとも感じます。もっと器用に生きていければいいのにって。
小林 朝風は、この世界に愛されたからすごい才能を手に入れて、それを発散する相手もいる。多分、スクールカースト的には長良より上のポジションだし、人からもチヤホヤされて、ある程度の欲求は満たされている。でも、やっぱりどうしても消えないコンプレックスがあったり、本当にほしいものが手に入らないもどかしさを感じたり、粋がっているけれど心の中は繊細だとかんじさせたり……中学生ならではの絶妙な雰囲気が、見ていてかわいいなと僕は思いました(笑)。自分はスゴい奴だって無理して思い込もうとする。その感覚、中学生ならわからなくもないなってところも含めて、大人である今の僕からすると、「朝風、かわいいな」って。まあ、長良に対しての態度とかは、ちょっとヒドいですけど(笑)。
市川 ヒドいですね(笑)。
小林 でもある意味、長良のほうが朝風より大人かもしれないですよね。
(C)Sonny Boy committee