• 富野由悠季が80歳を迎え「時代の代弁者」として伝えていきたいこと
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2022.05.26

富野由悠季が80歳を迎え「時代の代弁者」として伝えていきたいこと

富野由悠季監督 撮影/真下裕


――過去の仕事の評価や勲章を貰うことを「ゴール」にしてしまう人もいますよね。なのに、むしろそこを新たなスタート地点にしているところが実に富野監督らしいです。

富野 いや、むしろ悦に入ってちゃいけないし、しっかり体力を維持しないといけないと考えています。きちんとエクササイズしないといけないっていうことが、この歳になると本当にわかるんですよ。今はきちんとラジオ体操やってるものね。極端な言い方をすると僕、もう普通に歩けないんですよ。

――まさか! いらした時にはまったく気づきませんでしたよ。

富野 あなたは、自分が「歩いている」と意識しながら歩いていますか?

――それはないですね。

富野 でしょう? 僕は今「背筋を伸ばして歩こう」って思わない限り、どうしても腰が曲がってしまう。あと、1年くらい前からしょっちゅう足がつるようになった。これはどうやら運動量の問題らしくて、だったらやっぱりラジオ体操や食事の仕方を変える。

――そうなんですか……冷静に考えると、監督も80歳ですからね。

富野 80歳を過ぎたら先輩から教えられましたよ。「富野君ね、80から81、この川幅は広いぞ。これを乗り越えるのは今までと違うぞ」って。「えっ、嘘でしょう?」って思ってたら、本当にそうだったもの! だから毎日エクササイズして……ずっとリハビリしているみたいなものです。

――では最後に、富野監督が今後本音で伝えたいこととは、何でしょうか。

富野 映像文化も今、危ういところにきています。配信会社がついに映画制作を始めちゃったし、マーベル映画みたいなものが「映画」と思われている節があったりする。
価値論の違いって、やっぱり時代の問題です。否が応でも時代は変わっていくし、それはしかたないって単純に認めていくしかないんです。ただ、僕のような立場の人間だと「若者に負けたくない」っていう言い方もしちゃいけないと思うし、「昔は良かった」とは口が曲がっても言っちゃいけない。
そうならないように意見を言うことが、年寄りの任務だろうと思います。だからそういう方向性っていうものを、やれるところまでやりたいなって思っています。では、具体的にどうするのって言われたら、近未来思考をするしかないんですよ。
巨大ロボットアニメの専門家である僕は『G-レコ』のような形でしかできないですけれど、そういう刺激を受けることで、若い世代から情報論やビジネスも含めて「21世紀のインテリジェンスはちょっとやばいんじゃないのか」という、ものの考え方や方法論が出てきてほしいなと思っています。そして、そういう人たちが表れてきた時、初めて「ニュータイプ」と呼べるのだと思うのです。
ちなみに現在、世界にニュータイプが2人いるんですけれど。わかりますか?

――いえ、誰でしょう。

富野 藤井聡太竜王と大谷翔平選手、この2人はニュータイプです! 残念なことに野球と将棋という狭いジャンルなんだけれど、どうも我々と生き方が違うような気がするんです。そして、お二人に共通点があるのに気づきました。簡単です、「謙虚」なんですよ。今まで名を成した人って、何かとブイブイ言うんだけど、このお二人にはその気配がない。
それでいうと、羽生結弦選手をニュータイプに入れるか入れられないか、1カ月くらい考えていたんだけど、やっぱり認められないのは彼の場合、「普通の人の努力」が見えすぎているんです。あのお二人の、高みにヒョイと行ってる感じとはまるで違います。
このタイプの人たちが、それぞれのジャンルから出てきて30人くらい集まった時、時代が変わるかもしれないですね。
今回のプーチンの戦争は時代の揺り戻しと、世界の欠陥というものを見事にあぶり出してくれたので、改善すべきものを教えてくれました。ですから、真の改革は、20~30年じゃなくて、100年後だったらまだ地球にも間に合うかもしれないっていう感じがあります。

>>>富野由悠季監督の取材風景を見る(写真13点)

取材協力/やまむらはじめ
撮影/真下裕

アニメージュプラス編集部

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