• 【2022年アニメ総括】『SLAM DUNK』『すずめの戸締まり』話題性と作家性が牽引した劇場作品
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2022.12.30

【2022年アニメ総括】『SLAM DUNK』『すずめの戸締まり』話題性と作家性が牽引した劇場作品

公開45日間で興収100億円を突破した話題作『すずめの戸締まり』 (C)2022「すずめの戸締り」製作委員会

多彩なアニメ作品が放送・上映・配信された2022年。
記憶に残ったタイトルは? アニメ作品やアニメビジネスの新たな傾向とは?
昨年2021年に続き、アニメ評論家・藤津亮太とアニメージュプラス編集長・治郎丸が1年のアニメシーンを振りかえる対談を、2回にわたってお届けしよう。
第1回のテーマは、注目作が豊富だった2022の劇場アニメシーンだ。
▲藤津氏(左)と編集長・治郎丸(右)

【ジャンプアニメが形にした〈成果〉】

編集長 2021年に続き活況を呈した2022年の劇場アニメシーン、藤津さんはどんな印象をお持ちですか。

藤津 まず、アニメ映画の興行収入合計が過去最高を記録するのがほぼ確実な状況になっていて、“ここまで来たか”という意味では歴史的な年だと言えると思います。昨年も述べたように、2012年に初めてジブリなしで映画の総売上が400億円を超えて以降、アニメ映画が新しい段階に突入したと僕は感じています。

『ONE PIECE』や『名探偵コナン』などTVシリーズの劇場版が伸びて、細田守監督作品のような作家性の高い作品が注目を集めた流れを受けて、新海誠監督が“メガヒットを生み出す人”になって……と少しずつ変化が積み重なったところに『鬼滅の刃』や『呪術廻戦0』も大ヒットを記録し、TVシリーズの延長線でデラックスな映像を作ることでメガヒットするタイプの映画も出てきた。
そんな風にここ10年前後で積み重ねてきたピースが一気にカチカチっとハマった、クライマックスのような年だったという印象が強いです。

アニメの映画というものにそれくらいの集客力があるとなると、これからもしばらくは大作アニメ映画が製作される流れは続くのかなと思いますし、逆に「この先、どうなるんだろう」みたいな気持ちもありますが(笑)。

編集長 『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』(児玉徹郎監督)、『ONE PIECE FILM RED』(谷口悟朗監督)、『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』(満仲勧監督)、『すずめの戸締まり』(新海誠監督)、そして『THE FIRST SLAM DUNK』(井上雄彦監督)と、大きなヒットが続きましたね。個人的は東映アニメーションのジャンプ系3作品、『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』、『ONE PIECE FILM RED』、『THE FIRST SLAM DUNK』がいずれも原作者が深く関わって、『SLAM DUNK』にいたっては原作者自身が監督を務め、自身の作品世界をそのままアニメで描こうとしていたのが印象的でした。

藤津 そこは、ここ10年くらいの集英社、あるいは『少年ジャンプ』編集部の考え方の変化がひとつの“成果”として形になったということかもしれません。ざっくりした説明になりますが、かつてのジャンプアニメはまず“原作ありき”で。アニメ製作側が作品の権利を借り受けてアニメ化し、そのヒットが原作にも還元されるという流れが主でした。そのため、マンガとアニメの距離が基本的には離れていたんです。

編集長 “マンガ(原作)はマンガ、アニメはアニメ” で別物という捉え方ですね。

藤津 そして『NARUTO-ナルト-』などが良い例ですが、以前は海外などでまずアニメをきっかけに人気に火が点いてマンガが売れるという傾向があったそうです。ところが『鬼滅の刃』のヒット以降、『ジャンプ』という雑誌そのもののブランド力が強くなり、アニメ化より先にジャンプコミックスを翻訳出版するが可能になって『ジャンプ+』の英語版同時配信という状況も起きています。その中で、マンガとアニメを「一体のもの」としてコントロールしていこうという捉え方が強くなってきているように感じます。

編集長 集英社側が積極的にアニメにコミットする、だから原作者もより深くアニメに関わることが可能になる。

藤津 もちろん、すべてのジャンプ作品がそうだというわけではないですが、こと映画に関して言うと2009年の『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』で原作者が深くコミットしての成功が大きかったと思います。
それ以前は年に1度のお楽しみとして主に低年齢層向けの映画を作ってきたけれど、徐々に頭打ちになってきた。そこで尾田栄一郎さんが全面的にコミットし、対象とする観客層もやや高めに想定して『STRONG WORLD』を作ったら、これが大当たり。つまり、時間と予算と原作者のコミットをしっかりすれば……。

編集長 まだまだ大きなビジネスになる可能性がある、となったわけですね。

藤津 ただそれは一方で、アニメサイドではなく出版側、キャラクターの権利を持つ側の声が大きくなるということも意味しています。これまでアニメ産業は常に「自分たちはマンガを基にアニメを作るだけの下請けなのか?」という意識で揺れてきたわけです。その問題がまたもう一度、問い直されるという可能性はありますね。

編集長 作品そのものに対しては、どんな印象を持たれましたか。

藤津 『FILM RED』はシャンクスの登場なども含めてお祭り感のある内容でしたし、その一方で、谷口(悟朗)監督らしい “毒” みたいなものが入っているという意味では「作家のフィルム」としても観られる。ヒットはするとは思ってましたが、正直、これほど大大規模なヒットになると予想はできなかったです。でも、大ヒットするだけの十分な理由と魅力がある映画でしたよね。
それから『SLAM DUNK』もすでに興行収入が50億を突破して、大成功と言っていいですよね……正直、かなり微妙な前評判からのスタートでしたけれど(笑)。

編集長 そうでしたね、前作アニメのファンからはネガティブな反応もあって……。

藤津 制作過程を徹底的に秘密にして、ファンにどういうものを作っているか明らかになっていなかったところにキャスト変更という情報が出たのが、今思うとマイナスに働いたのかなと感じます。

編集長 真面目なファンほど、そこに陥りやすい状況ではありました。

藤津 つまり、ファンの側はみんな「懐かしコンテンツ」だと思っていたわけですよ。「懐かしいもの」をあらためて丁寧に作るような作品だから「同窓会」として楽しみに思っていた。でも、そうではないアナウンスが出て、はしごをはずされたような気分になったのかなと思います。実際にはそうではなくて、いわば“リミックス”といいますか、徹底的に再構成されていて、しっかりと“今観るべき映画”になっていた。

編集長 実は僕は、『SLAM DUNK』については恥ずかしながら原作も以前のアニメにも触れていなくて、今回が文字通りの “ファースト·スラムダンク” だったんですよ。キャラクターの名前さえろくに知らずに観たのですが、面白かったですね。まったく問題なく楽しめて、自分でも驚きました。

藤津 びっくりしますよね。もちろん、昔のアニメ版に思い入れが強い人の気持ちもわかりますけれど、その思いも絶対に裏切らない内容ですしね。

編集長 マイナスイメージから出発した作品が公開されたらこれだけ好評で、しかも数字の上でも結果を出すというのは、とても健康的な流れだと思います。

藤津 そうですね、まさに作品力で評判をひっくり返したということですから。だから僕は、昔のアニメ版が好きだった人には「これで、あなたの好きな『SLAM DUNK』がふたつになりましたよ、原作も入れたら3つになりましたよ」って言いたいです(笑)。

こうした形の大型企画はまだあと2~3年先くらいまでは、『鬼滅』のヒットや新海監督のヒットメーカーぶりを背景に登場するでしょうし、あるいはその次の芽を狙って、企画そのものとしては小さいかもしれないけれど作家性のある人にオリジナルを作ってもらうという状況も含めて、まだまだこの状況が続くのかなという印象ですね。

アニメージュプラス編集部

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