• 『シン・仮面ライダー』で流れる懐かしの名曲に秘められた「封印」の過去
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2023.05.06

『シン・仮面ライダー』で流れる懐かしの名曲に秘められた「封印」の過去

二人の歌手によって記憶される名曲「レッツゴー!!ライダーキック」シングルジャケット(画像提供:DJフクタケ・現在廃盤) (C)石森プロ・東映

現在公開中の映画『シン・仮面ライダー』(庵野秀明監督)のエンディングでは、原作となる『仮面ライダー』TVシリーズ第1作で使用された楽曲「レッツゴー!!ライダーキック」「ロンリー仮面ライダー」「かえってくるライダー」の3曲を聴くことができる。特に印象的な「レッツゴー!!~」を巡る意外なエピソードを、以下フリーランス・ディレクター&編集者である高島幹雄氏に書きつづってもらった。(編集部)

『仮面ライダー』の第1話「怪奇蜘蛛男」は、関東圏ではNETテレビ(後にテレビ朝日)、関西圏では毎日放送にて、1971年(昭和46年)4月3日夜7時半に放映された。
 そのオープニング・テーマ「レッツゴー!! ライダーキック」(作詞:石ノ森章太郎※当時は石森章太郎/作曲:菊池俊輔)がテレビから聞こえてくるのを、それぞれの場所で、本人にしかわかり得ない心境で聞いていた2人の “歌手” がいた。

一人は、本郷猛役を演じた藤岡弘、(当時の芸名は「、」なし)。初のテレビシリーズ主演というチャンスをつかんだ藤岡は、本郷役だけでなく、変身後の仮面ライダーのスーツアクター、バイクの運転も担っていた。しかし放映開始直前の4月1日、バイクの走行シーンを撮影中に転倒、復帰が絶望と思われるほどの重傷を負って入院したばかりだった。第1話放映時には病院のベッドで、テレビから流れてくる自分の歌声を聴いていたという。

そしてもう一人は、藤浩一。1966年に歌謡曲歌手としてデビュー、5枚のシングルを出した後に表舞台から去ったが、音楽関連会社に入社して働くかたわら、CMソングなどを歌っていた。
その一環で受けた仕事が『仮面ライダー』の主題歌歌唱。藤浩一が「レッツゴー!! ライダーキック」とエンディング・テーマ「仮面ライダーのうた」(作詞:八手三郎)の2曲をレコーディングした後、「主演俳優にも歌わせてみよう」というスタッフの発案から「レッツゴー!! ライダーキック」のみ、新たに藤岡による歌入れが行われ、そちらが放映に採用となったのである。
自分の歌声が流れると思いながら、テレビの前にいた藤は、他の人が歌った曲が聴こえてきて驚き、落胆したという。藤は『仮面ライダー』の放映期間中に歌手名を改名、後に「およげ!たいやきくん」(1975)が大ヒットする子門真人となる。

主題歌の音源は朝日ソノラマが制作して、同社と日本コロムビアからシングルレコードが発売。「レッツゴー!! ライダーキック」は、当然ながら藤岡が歌った音源を収録してのリリースとなった。
しかしその後、番組の制作サイドは大けがをした藤岡を待ちながら番組を延命させる策として、第14話「魔人サボテグロンの襲来」からは佐々木剛が出演、仮面ライダー2号・一文字隼人役で登場した。この回から「レッツゴー!! ライダーキック」は藤が歌った音源に変更された。
主役変更によって、先に録ってあった藤浩一の音源に切り替える方が良いということになったのであろうか。そしてレコードも、藤岡の盤と同じレコード番号(SCS-130)のまま、収録音源・ジャケットの歌手名を藤に変更したものが出荷されて、藤岡のレコードは短期間で販売が終了してしまったのだ。

仮面ライダー2号の登場後に発売された主題歌や挿入歌を収録したLPレコード『仮面ライダー ヒット・ソング集』(1972年3月発売)も、藤浩一の「レッツゴー!! ライダーキック」が収録になっている。その後続く仮面ライダーシリーズの歴代主題歌や、他の番組とのコンピレーション盤(当時はオムニバス盤と呼ばれた)にも藤岡版が収録されることはなく、まさに藤岡の歌は  “封印” されたような扱いとなっていた。

アニメージュプラス編集部

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