• 谷口悟朗監督が藤津亮太に迫る「アニメ評論家」という仕事とその現実
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2022.10.01

谷口悟朗監督が藤津亮太に迫る「アニメ評論家」という仕事とその現実

(左より)藤津亮太氏、谷口悟朗監督

アニメ評論家・藤津亮太氏の初書籍がちくま文庫より『増補改訂版 「アニメ評論家」宣言』として復刊された。数々のアニメの名作・話題作はなぜ人の心を掴むのか、様々な角度からその理由を読み解く内容には、アニメファンならずとも魅了されるはずだ。
藤津氏の目指す「アニメ評論」とはどんなものなのか、またいかなる姿勢でそれに取り組んでいるのか。そして、アニメ評論を取り巻く様々な問題とは……?
編集部は大ヒット上映中である『ONE PIECE FILM RED』を手がけた谷口悟朗監督を聞き手に招き、藤津氏の立脚点に迫った。

谷口 私は以前、藤津さんにお会いした時に「何でアニメ評論なんてやるんですか?」と訊いたことがあるんですけれど、覚えていらっしゃいますか?

藤津 そういうこと、ありましたね(笑)。

谷口 その時、私の中で「そもそもアニメに評論なんて根付くんだろうか?」という疑問があったわけです。というのも、現在発売されているアニメ誌は多岐に渡っているわけですが、そこで「評論」というものが未だに確立されていないという現状があるからです。

それは方法論の問題なのか、それとも受け手側であるアニメファンの問題なのか……そんな中で藤津さんがやろうとしていることはお客が誰もいないんじゃないか、例えればたった一人で乾いた畑を耕しているようなことになっているんじゃないかと思えたんです。

藤津 わかります。まあ、ある意味谷口さんがおっしゃる通りというか……どこから話せばいいか難しいですが、最初に「アニメ評論家」を名乗った理由は、わりとシンプルな理由からなんですよ。映画のパンフレットや新聞雑誌には、映画評論家が書いた作品をより楽しむための解説やエッセイなんかが掲載されていて、サブテキストや一種のバイヤーズガイドとして機能しているわけじゃないですか。アニメというジャンルにもそれがあったらいいな、というのが始まりだったわけです。

谷口 では、現在の藤津さんの執筆の姿勢はどういうものなのですか。

藤津 僕は「いろんなアニメがあるよ」というところを広く拾っていきたいと思っていますし、少なくとも自分が初見で面白いと思った作品なら原稿を書きたいと思っています。あと、作品に対する批判を求められることもあるんですが、それをしたところでそれが作品制作の過程に良きフィードバックをもたらすかと言えば……。

谷口 もたらさないですよね。

藤津 はい。(辛口批評を)やりたい人はやればいいと思いますが、基本僕はそれをやりません。

谷口 辛口批評が成立したのは、SNSが普及する前の作品を観るための指標のひとつとされていたからです。でもそれは、批評家がクリエイターよりも上の立場に立つ、不健康な環境も生み出していたのではないかと。

藤津 文芸誌や映画雑誌で辛口批評が成立するのは、作家・クリエイターと批評家両方が媒体にとって「プレイヤー」だからなんですよ。アニメ誌の書き手は基本ライター=裏方なので――歴史的経緯はさておき、最終的に――同じリングで殴り合う状況という形にはならなかった。そういう意味では、筆者が読者への「信頼」をある程度得なければそういった批判的な批評を手がけることは難しいのでは、というのが僕の考えです。

谷口 そもそも辛口批評が周りに良い影響を与えたという状況を、少なくとも私は1度も見ていないんですよ。例えば、あれだけ評論筋で酷評されていた『崖の上のポニョ』がとんでもない観客動員を記録したわけですから、まあ正直当てにもならないというか(笑)。

藤津 (笑)。あと、いろんな情報を1回整理して「スタンダードに作品を読み込むとこうなりますよ」という形にしたいわけです。星野之宣さんが昔インタビューで『ヤマトの火』という作品を描いた動機として「いろんな定説を持ち寄って、繋ぎ合わせたらこんな結論になった、という内容にしたかった」と語っていたという記憶があるんですが、そこに僕は共感するんです。1つずつの話は普通だけど結論は新鮮、というところを目指したいんですね。

谷口 それ、一歩間違えれば「トンデモ論」になる危険性がありますよ?

藤津 ですよね(笑)。ただ映像を根拠にしていれば、そこまでトンデモにいかないはずだと思ってやってます。確かにアニメの観方を知らないと、意味を読み過ぎちゃう可能性はありますけれど。

谷口 レイアウトだけを見て判断できるのは、(演出意図の)第二次優先事項までが限界でしょうしね。

藤津 いろんな取材を重ねてどこまでの塩梅まで探っていいのかは理解できているので。そのバランスは持っているつもりです。

アニメージュプラス編集部

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