• 富野由悠季が自身の展覧会で理解した「作家になれていない」という事実
  • 富野由悠季が自身の展覧会で理解した「作家になれていない」という事実
2022.05.23

富野由悠季が自身の展覧会で理解した「作家になれていない」という事実

富野由悠季監督 撮影/真下裕

演出家デビューとなった『鉄腕アトム』から『機動戦士ガンダム』『伝説巨神イデオン』ほか数多くの名作を経て現在まで、富野由悠季監督のキャリア55年の歩みを俯瞰する初の本格的な展覧会『富野由悠季の世界』は、延べ2年に渡り全国8カ所で開催され、アニメファンのみならず、衆目を集めた。

また富野監督は昨年11月、令和3年度文化功労者に選出された。選出理由は「物事の本質をつく視点で壮大な世界観をもつ作品を創造し、我が国のアニメーション界に新たな表現を切り拓いてきたものであり、アニメーションを文化として発展させた功績は極めて顕著」というもので、これまでの仕事がもたらしたものであることは間違いない。

そして富野監督は、今なおアニメの最前線で活動中だ。劇場版『Gのレコンギスタ』のクライマックスとなる2部作、IV『激闘に叫ぶ愛』とV『死線を越えて』が7月・8月に連続公開決定、現在その作業に追われている。
自身のキャリアと向かい合う時間を経た富野監督が、今後いかなる方向を目指していくのかに迫るロングインタビュー、前編である本記事では『富野由悠季の世界』展を改めて振り返るところから、富野監督の現在を語っていただいた。(全2回)

――約2年に渡って開催された『富野由悠季の世界』展が遂にピリオドを迎え、2月22日には本展示のドキュメントムービーのBlu-ray&DVDも発売になりました。改めて、本展示の意義について富野監督がどう考えておられるのかについてお聞かせ下さい。

富野 まず先にお伝えしなければいけないのは、『富野由悠季の世界』展は僕の発信したものではないので、厳密な意味での当事者ではないということです。分厚い図録も作ってもらいましたけれど、実を言うとほとんどゲラに赤を入れていません、というより入れられなかった。だって昔のことは全部忘れているんですから。

――ええっ、本当ですか?

富野 だって、覚えていたら次の新作を作れないでしょう? だからものすごく「忘れる」という努力をしました。昔のインタビューだって、アニメ雑誌の月々の追いかけに反射神経で答えていただけです。だから、実は図録のゲラを読んで「アニメでこういう仕事をやってる人がいたんだ」ってビックリしましたけれど、自分としてはそういう風には思っていなかったということの方が多いんです。

――なるほど、展示や図録の内容はあくまでも「外からの評価」である、と。

富野 大人の回答をしなくちゃいけないと思ったけど、展示が終わった今も「感動しました!」「これぞ自分の集大成!」とか一切合切言う気はないですね。僕って本当に困った人だと思いませんか?(笑)

――ですねぇ(苦笑)。

富野 そういう風に思えるようになったのは、70歳過ぎてからなんですよね。というのも、僕は昔話ばかりして、周りの誰にも「あのジジイは……」って注意してもらえないような年寄りになりたくないんです。
「美術館を使わせていただいて、こんな展示をやらせてもらってるだけでも気持ちよくなれるんじゃないですか」って訊かれたら、ハイ、気持ちはいいです。だけど、このことで絶対に悦に入っちゃいけないって、本当に自戒しています。
だから、今日は来ていただいて本当にありがたいんだけれども、『富野由悠季の世界』展で展示されたことは全て過去のこと。20年とか30年前の話だし、未だにそのクオリティを自分が保っているとは言えない。だって庵野(秀明)君や細田(守)君、『Fate』っていうアニメにも負けてるじゃないですか。

――いえいえ、興収だけで決まるような単純な話ではないと思いますよ。

富野 ちなみに今、僕はずっとガンダムと関係ない『Gのレコンギスタ』っていう作品を8年くらい作っているんだけれど、2日前に改めてアフレコ台本を見ると、『Gのレコンギスタ』のロゴのGに『GUNDAM』ってルビがあるわけ。「ああそうか、これは営業サイドから見ればガンダムなんだ」って思ったと同時に、「そろそろこういうのを外してくれることを考えてくれないかな」とも思いました。このまま過去に縛られていたら、今後20~30年先までは生き残れないだろうなって思っています。はい、これで今日お伝えしたいことは全部言ってしまいました。

――これでお終いでは困るので(苦笑)、もう少しお話をお聞かせ下さい。『富野由悠季の世界展』はあくまで他人からの評価、とおっしゃられてましたが、例えばそういう目線の中で、自分のお仕事に関して何か気付きのあった部分はありましたか。

富野 そういう意味での驚きというのはなく、「よくもまあ、これだけいろいろなことを思いつけたな」っていう言い方はできます。もっともあれは学識があって思いついたのと違って、アニメだからやれてこられたこと、という言い方ですけれど。

アニメージュプラス編集部

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