――では大河内さん、本作で表現しようと思ったものは?大河内 『PART5』をやったことで、自分としてはかなり満足していて、もう一度ルパンを作ることはないと思っていたんですが……『PART5』の次ではなく、前ということだったので、参加させていただくことにしました。ルパン三世誕生の物語ということだったんですが、僕は「人間と人間の関係」を描きたいと思っているので、ルパンだけじゃなく相手がほしい。そのルパンの一番最初の“相手”は、不二子でも銭形でもなく、次元がいい。
『PART5』のラストは不二子で締めているんですけれど、次元としては「いやいや、俺との関係の方が先だろう」と。23話(「その時、古くからの相棒が言った」)で一応そういうやり取りを描いてはいるんだけれど、今回ちゃんとルパンと次元の始まりを描きたいと思ったんですね。
――次元という人物は魅力的ですものね。大河内 次元は前から好きでしたけれど、『PART5』を書く前とその後では好きの度合いが変わりましたね。23話が書けたことと小林(清志)さんの演技に感動したので、自分で言うのも何だけれども傑作回になったなと。今となっては、小林さんじゃないとあの台詞(「ルパン、お前との付き合いは俺が一番古い/お前に引導を渡せるのは俺だけだ、不二子なんかにやれるかよ」)は言えなかっただろうし、あの時が唯一無二のタイミングだったんだなと。それだけに『PART5』の後の次元を書け、と言われたら困ったけれども、その前の次元なら書けるんじゃないかと思ったんです。
酒向 補足すると、『LUPIN ZERO』の次元が『PART5』の次元なのか、と言われればそれはわからないです。ただこれまでのシリーズで描かれてきた出来事が「事実」としてあるわけで、僕個人としてはそれらを踏まえて想像したものを描いたということです。
大河内 いわゆる「酒向史観」。
酒向 そう、僕なりのルパン史観です。
――昭和30年代の日本を舞台にする楽しさや難しさ、というのものはありますか?酒向 作業が終わった後にもっと良い資料が見つかった、なんていうことがありますね。「何だよ、これ使えたじゃん!」って(笑)。ただ『PART5』に続いて設定の白土(晴一)さんに教えていただいたのは「すべては物語ありき」だということ。今回は沖浦啓之監督の『人狼』(2000年)みたいな作品のように時代を忠実に描く必要はなくて、あくまでもルパンを描くことが大前提です。
大河内 昭和30年代を舞台にしたことで、未開の土地の少女を出したりすることができたのは面白かったですね。『あしたのジョー』にハリマオっていうボクサーが出てくるんですが……。
――マレーシア出身の空中戦を得意としたボクサーですよね。大河内 チョコレートが大好きで「ガウガウ!」って喋る野生味あふれるキャラなんですが、いくら未開の出身だからってそんなわけないだろうと(笑)。でも、あの時代のあの作品の中では許容範囲になっていて、今回もそういう昭和初期の乱雑で鷹揚な空気感で書いているんです。ルパンや次元は中学生なのに劇中で煙草を吸うんです。今だったら大問題で確実にアウトなんですけど、当時の風景ではありえる一風景として存在している。
――学生の次元が銃を持ち歩いているという設定も、まだ戦後の香りが残る昭和30年代ならあるかもしれない、という絶妙な距離感を感じました。酒向 確かに、そういう部分は助けられているかもしれませんね。
大河内 物語に出てくる事件も当時ならあるだろう、という方向のものを描いています。
酒向 ……最後に畠中さんの話、もう少しして良いですか?
――どうぞ!(笑)酒向 畠中さんのお芝居ってどんどん湧き出てあふれ出るイメージがあったんですね。だから、今回は畠中さんの演技を受けとめられる「器」――ルパンのポーズや表情を用意した映像を作ってアフレコに臨んだんです。
――映像を観ることで、さらなるフィードバックもある?酒向 『PART5』の時もそうでしたけれど、持って行った映像で演技が全然変わるんですよ。それは今回、本当に上手くできたと思っているんです。
――かなりの自信作に仕上がったわけですね。酒向 個人的には畠中さんの代表作になったと思います! いや、そう勝手に言っているんですけれど(笑)、本当に素晴らしいので、ぜひ観ていただきたいですね。
▲(左から)シリーズ構成・脚本/大河内一楼、酒向大輔監督
>>>ルパン&次元の出会いに注目!『LUPIN ZERO』場面カットを見る(写真17点)原作:モンキー・パンチ (C)TMS