• 『PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』監督が語る大河ドラマのエッセンス
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2023.05.19

『PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』監督が語る大河ドラマのエッセンス

(C)サイコパス製作委員会

人間の心理状態を数値化し管理する〈シビュラシステム〉が人々の治安を維持している近未来を舞台に、〈犯罪係数〉を測定する銃〈ドミネーター〉を手に〈潜在犯〉を追う刑事たちの活躍を描く「PSYCHO-PASS サイコパス」シリーズ。
現在公開中の『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』は、2012年のTVアニメ一期スタート以来10年以上にわたって語られたストーリーの重要な “収束点” であり、長年にわたって紡がれた大河ドラマだからこその濃厚な魅力を放つ作品に仕上がっている。

第1作から監督としてシリーズに関わり続けてきた塩谷直義監督に本作の魅力、そして脈々と受け継がれた「PSYCHO-PASS サイコパス」のエッセンスとは何かについて語ってもらった。


――ここまで「PSYCHO-PASS サイコパス」を作り続けてきた塩谷監督ですが、新しいファンに「PSYCHO-PASS サイコパス」を推薦するとしたらどんな言葉で勧めますか?

塩谷 なんでしょうね……理想の社会や好ましい人間の在り方から逸脱した正義が成り立ってしまっている世界、つまり “来てはほしくない未来” を描いているので、そういう意味では反面教師的な作品です。エンタテインメント作品として描いてはいるけれど、僕たちが生きる現実の世界の問題と共通する部分もあります。なので「たまには、堅苦しいアニメを観てもいいんじゃない?」と言って勧めますね(笑)。
必ずしもわかりやすい物語ではないけれど、観てもらえれば現実の日々を過ごす生活の中で、なにか考えるきっかけになるものがあるのかなと思います。

ーーディストピア的な未来が舞台で、「ifの世界」を描く思考実験的なスリリングさもあって。

塩谷 SFとして極論的に誇張した世界を描いていますが、見方によっては現実世界の裏面を描いているように見えると思います。実際、自分の中では「どこまでいっても人間の根本も社会構造も変わらないじゃないか」と思っています。
「PSYCHO-PASS サイコパス」はディストピアの世界観ではあるし、登場人物たちは今の僕らからしたら相当に厳しい規制の中で生きていると感じるけれど、本人たちにとってはその世界こそが現実で“日常”なんです。我々の目線から「不幸な世界に生きている人たち」という描き方をするのではなく、その現実の中で必死に生きているという感覚で描いてあげることが重要なのかなと思っています。そうしないと、リアリティが感じられないのではないかなと思うので。

ーーTVアニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」の一期(2012年)を作っていた頃、現状のこのようなシリーズになるということはどこかでイメージしながら作っていたのでしょうか。

塩谷 企画がスタートした段階から、目標としていたことがいくつかありました。まずは第一期の全22話をひとつのドラマとして成立させることを前提の上で、特に重きを置いていたのは作品として強度のある世界を作ることでした。先ほども言ったように少し取っつきにくい世界観ではあるので、あまりに非現実的に見えすぎてしまわないように。SF的な要素をあまりハイエンドにしないように、最初の頃はとても気を遣っていた覚えがあります。

具体的には、観ている人や作っている我々スタッフも含めて、「遠からず訪れるかも知れない世界」という感覚を体感してもらわなければならないな、と。そこは世界観の器を作る上では大事にしていましたね。“魅力的な器” を作ろうと思っていました。

――いろいろな物語を盛りつけるための器、ですね。

塩谷 ただ、それは具体的にシリーズとして続けることを想定していたというよりは、作品自体を単なる “嘘” にしないためだったんです。たとえば、現実と同じようなモチーフを使ったデザインの建物を出したり、現代と同じような食事の風景も登場させたりする中で今にはないイレギュラーな要素を入れてみたり。地続き感のある生活描写の中にSF要素をミックスすることで成り立つ世界と、そこで描かれる物語をかなり意識したかもしれないです。

ーー完全なSF世界ではあるけれど、どこか現実的で生々しくもある世界。

塩谷 そうですね。まさにそういう感覚を自分自身も、たとえば学生時代に観ていたSF作品に感じていたんですよ。それこそ第一期をスタートする時、「『未来世紀ブラジル』的なスチームパンク風のガジェットと、今でもある現実的なガジェットが組み合わさって成立しているような空間にしたい」と、美術のイメージを伝えたりもしました。

SF的なガジェットって洗練されていくと無機質になっていくじゃないですか。あの無機質さって耽美的ではあるけれど、正直、人が触れているという感覚は希薄で、2000年代の洗練されたSF作品の舞台美術は、個人的にはあまり好みでなかったんです。1980年代のSF作品のごちゃっとした世界。たとえば『ブレードランナー』の世界は怖いけど魅力的で行ってみたい、でも『ガタカ』の世界はキツいと思ったりしていました(笑)。

ーー漂白された未来世界ではなくて、どちらかというと黒やグレーのイメージの、濁っていて人の生活臭が漂う世界に惹かれたわけですね。

塩谷 いろいろな要素が混ざっていて、でも形としては独特のスタイルが成立していて、人間臭さもある。「PSYCHO-PASS サイコパス」のビジュアルもそんな方向に落とし込みたいと思いました。そういう意味では、最初から自分の好きだったものを入れ込んでいたとは思います。そして、初期の頃から、「(背景に)情報量をどんどん入れてくれ」という指示をたくさんしていました。

ぶっちゃけ言うと、アニメーションの根本は引き算です。何を(画面の中で)立てるのか、あるいは立てないのか。要素を引き算することでコントロールします。でも「PSYCHO-PASS サイコパス」では背景にCGを多用し複雑にして逆に足し算をすることで「プラス×プラス=マイナス」 にしようと思いました。画面の中に情報を詰め込むと、逆に個々の情報が埋没して、“黒” や “白” に見えてくる。そういう効果を意図的に狙って作ったりもしていましたね。そんな世界に主人公たちを立たせることで、キャラクターにより強くスポットが当たるようにしたいと思っていました。

(C)サイコパス製作委員会

アニメージュプラス編集部

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