• 『PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』監督が語る大河ドラマのエッセンス
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2023.05.19

『PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』監督が語る大河ドラマのエッセンス

(C)サイコパス製作委員会


ーー今回の映画『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』は、シリーズ全体の主人公とも言える常守朱がドラマの中心として描かれますね。

塩谷 今までのシリーズの中で朱が主軸だったのは、『PROVIDENCE』以前では1本目の映画『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス』(2015年)です。そこから劇場三部作『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System』(2019年)、TVアニメ三期(「PSYCHO-PASS サイコパス 3」2019年)と映画『PSYCHO-PASS サイコパス FIRST INSPECTOR』を挟んでいて、朱がメインになるのは久しぶりですが、自分的に『PROVIDENCE』は原点回帰というか、第一期をもうひとつ上のベクトルで描くような作品にしようと思っていました。

――第一期は狡噛慎也と槙島聖護という強烈なキャラクターがいて、二人の対決が物語の軸になっていましたが、最終的には常守朱という存在、彼女の選択の物語へと収斂して、それ以降は朱がシリーズ全体を象徴するキャラクターになります。

塩谷 そもそも朱は、シリーズ開始時点から観客と同じ視点のキャラクターでした。第一期の前半をよく観ると、実は狡噛の視点ってそこまで多くはありません。要所、要所でポイントとして狡噛視点が入ることはあったけれど、基本軸は朱の目線から物事を追うことで「PSYCHO-PASS サイコパス」の世界が徐々に見えてくるという構造になっていました。

第一期は2クールのシリーズでしたが、1クール目は話数ごとに単体の事件が描かれます。その単体の事件というのは、つまり僕らの日常の中では起こりえない事件、「PSYCHO-PASS サイコパス」の世界だから起きる事件です。やがて単体と思われていた事件の裏に槙島の存在があったことが明らかになり、点が線になっていく。
そして実質的に第2クールのスタートとなる第13話から、本格的に世界観の説明が始まる。事件から先導して、観客が「この事件、何だろう?」「どうしてこういう世界でこういうことが起きるんだろう?」「この社会とは何だろう?」と感じるーーそれってドラマ上の朱と同じ感覚なんです。置いていかれているんです、根本的に。

ーーまずはひとつひとつの事件に当たっていって、その視点から徐々に「この世界はどうなっているのか」ということに気づき、追いかけ始める。

塩谷 興味を持つ、ということでしょうかね。1クール目で(世界に)興味を持たせるところまで行って、2クール目でそれをだんだん紐解いていくという構成。当時、この構成が自分でも面白いと感じていましたし、その面白さを活かせるような作り方は強く意識しました。

ーー朱はシビュラシステムの正体を知ってその存在に疑問を抱きつつも、システムと人間の共存を模索し苦悩する。そんな存在としてシリーズ全体を引っ張っていきます。改めてシリーズを観直したい、もしくは『PROVIDENCE』をきっかけに「PSYCHO-PASS サイコパス」の世界に触れたいという人は、やはり彼女に注目するのがよさそうですね。

塩谷 彼女が最も僕たちと感覚が近いので、入口としてはわかりやすいと思います。

ーー振り返ると、確かにTVアニメ第一期の1クール目はいくつかの凄惨で不可思議な事件が立て続けに起こりますが、2クール目以降のシリーズと映画は、ひとつの大きな事件をエピソード全体で追いかけていく描き方になります。同時に、群像劇として登場人物たちが掘り下げられ、新たなキャラクターも加わり……ある意味でマーベル・シネマティック・ユニバースのような、広い作品世界が展開するようになりました。

塩谷 それはある程度、意図的にやっていたことなので、そうおっしゃっていただけると嬉しいです。それこそ最初期の企画会議の時……というか、まだ「PSYCHO-PASS サイコパス」という作品が形作られる以前ですね、総監督だった本広(克行)さんと、そういう作品にしたいと話をしていました。
つまり、自分たちが今、作っている作品(第1期)が起点だとして、そこからどんどん枝分かれをして広がったり、枝と枝が部分的につながったり、またひとつに収束したりしてもいいし……ということですね。なので、枝が折れないよいように、シリーズのスタートになる第1期はその軸が弱くならないために世界観を作ることに注力していました。

――その意味で今回の『PROVIDENCE』は、「PSYCHO-PASS サイコパス 3」の前日譚としてそれ以前のシリーズとのミッシングリンクをつなぐ大きな収束点と言えますし、これまでのシリーズを踏まえて今作の最後の朱の “選択” を噛みしめると、非常に感慨深いです。

塩谷 確かに朱が出した答えは、今回の映画の物語の中だけで思い付いたものではないですから。これまでのシリーズすべてを踏まえて、彼女自身が生きてきた中でずっと抱え込んできた苦悩の上に出した答えとして、そして、その上で選んだ行動として描いてあげなければだめだと強く思っていましたね。

ーー大河ドラマ的なシリーズですし、やはり今までのシリーズを観た方がより感情移入できそうですね。

塩谷 基本の要素さえわかっていれば楽しんでいただけるとは思います(笑)。『PROVIDENCE』を見てからシリーズ全体に興味を持っていただいても問題はないと思いますし、むしろ、そういう人の感想も聞いてみたいです。初めての「PSYCHO-PASS サイコパス」として『PROVIDENCE』を観てどう思ったのかとか、どんな興味を持ったのかとか。

――今から遡って「PSYCHO-PASS サイコパス」シリーズを観る、それはそれで羨ましい経験かもしれないですね。

>>>『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』名場面を見る(写真16点)

(C)サイコパス製作委員会

アニメージュプラス編集部

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