• 『おそ松さん魂伝』スタッフが明かす劇場で楽しみたい「音の引き算の美学」
  • 『おそ松さん魂伝』スタッフが明かす劇場で楽しみたい「音の引き算の美学」
2023.08.21

『おそ松さん魂伝』スタッフが明かす劇場で楽しみたい「音の引き算の美学」

(C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会

今年7月に全国劇場にて公開された『おそ松さん〜魂のたこ焼きパーティーと伝説のお泊まり会〜』は、相変わらずの6つ子たちのドタバタ騒ぎにちょっとドキッとする要素も含んでいて、年季の入った松ファンにも “『おそ松さん』らしいくて最高” と評判!
そんな新作アニメの制作秘話を、監督の山口ひかる、音楽の橋本由香利、エイベックス・ピクチャーズの西浩子の3人に語ってもらった(全2回・後編)。

赤塚不二夫の『おそ松くん』を過激にアップデートして蘇らせた『おそ松さん』。大人になってもニートで童貞の6つ子たちが繰り広げるドタバタを時にコミカルに、時にはシュールに、時にはリリカルに描くシリーズ最新作のテーマは「たこ焼きパーティー」と「お泊まり会」だ。

いつものように無為無策な日常をダラダラと過ごしていた6つ子が、なぜか憧れのトト子を招いてたこ焼きパーティーを開催することに! しかも、チビ太やイヤミ、ハタ坊、デカパン、ダヨーンのいつもの仲間に加えて、トト子が連れてきた橋本にゃーも加わって大盛り上がりのパーティーは、まさかのお泊まり会へと発展!? しかし、奇跡の展開の裏にはトト子の密かな思いが隠されていた……。

●音楽好きな監督のこだわりの選曲●

――今作の音楽については、どんな方向性で作られたのでしょうか。

橋本 最初に、基本的に室内だけで物語が進んでいくというお話をうかがいました。そこで考えたのはサウンドをシンプルにすることと、TVシリーズの既存曲も使うので、新曲が違和感なく聴こえるようにすることです。そういう意味では、楽器の編成は第1期に近いかもしれないですね。

ーー橋本さんは山口監督の音楽の使い方に関して、個性や特徴は感じましたか。

橋本 今回は山口監督がご自身で選曲をされているんですよね。

山口 そうですね。フィルムに対して「ここでこの曲を使う」という指示を「音楽ライン」と呼ぶのですが、普通、音楽ラインは音響監督さんが作るんです。ただ、私は以前、音楽ものの作品で監督をやった時に、自分で音楽ラインを作るクセがついてしまって。今回も頭から最後まで、新規の曲も含めてバランスを見ながら「ここにこの曲がいいかな」と自分で探っていきながら作りました。

橋本 既存の劇伴曲の中でも第2期で作った曲とか、今まであまり劇中で多用されていない曲も使われていたので、山口監督は『おそ松さん』のBGMをたくさん聴いてくださっているんだなと感じました。「ここにこの曲を使うのか」みたいな意外な選曲がかなり多くて驚きました。
また、シーンの中で細かい動きがあるので、その緩急に合わせて曲をセレクトするのは大変だったんじゃないでしょうか。

山口 絵コンテの時点で「ここはあの曲だな」って思いながら描いていてところも、ちょこちょこありました。そういう意味ではTVシリーズから演出として関わってきた中で、わりと自分自身が耳馴染みのある曲を選んだ傾向はあるかなと思います。

橋本 やはり『おそ松さん』に長らく関わっていた方なんだなと、あらためて感じますね。

ーー以前は音楽がテーマの作品も監督なさいましたし、山口監督は音楽がお好きでこだわりの意識も強いのかなと思いました。

山口 そうですね、好きかと聞かれると好き……と、答えていいのかどうか……いや、もっと好きな人はいるし、とか思っちゃうんですが(笑)。でも確かに、いろいろな作品のサントラを聴くのはとても好きです。サントラのCDも出たらすぐ買ったり、アナログレコードしか出ていないサントラをどうにか手に入れたり。そうですね、サントラを聴くのは昔から好きでした。その影響はあるかもしれないです。

ーーでは『おそ松さん』のこれまでの音楽もたくさん記憶されていて、中にはお気に入りの曲もあって。

山口 はい、「こういうシーンならこの曲」みたいなイメージはかなり頭に刷り込まれていた気がします。

ーー本作冒頭、朝の場面でほぼ無音の状態が続いたり、クライマックスでは逆に音も台詞も賑やかになったり、音楽も含めた音の使い方にメリハリが効いていた印象があります。

山口 メリハリの面で言うと、それこそ今お話に出た冒頭の無音のシーンなども最初は音楽を貼る予定でいました。でも、実際のムービーや役者さんのお芝居を観て「(音楽は)なしのほうがいいんじゃないかな?」と感じて、音響監督の菊田(浩巳)さんとも相談して曲を外しました。最初から決め込んでいた部分もありますが、全体的に「足す」より「引く」という方向だったのは確かですね。

西 山口監督がダビングの時に「引き算」をしていく様子は、横で作業を見ていて印象的でした。『おそ松さん』もやはりギャグものですから、SEも音楽も賑やかに鳴っているイメージがありますが、山口監督は「ここぞ」というところでSEや音楽を「ナシにします」とおっしゃっていて。
つい不安になって(音を)付けてしまいそうなところで、あえて外す。それってかなり勇気が必要な “賭け” だなと思いながら拝見していました。でも、それで印象が寂しくなることはなくて、逆に不思議と前後のシーンの音楽が際立つんです。そこが本当に山口監督のセンスだなと思いました。

山口 そういえば、アフレコでも「今のリアクションはナシにしたいです」と、台本で「……」「?」「!」と書いてある部分に乗っていた声を、ところどころカットした記憶があります。


(C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会

アニメージュプラス編集部

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