• 『おそ松さん魂伝』スタッフが明かす劇場で楽しみたい「音の引き算の美学」
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2023.08.21

『おそ松さん魂伝』スタッフが明かす劇場で楽しみたい「音の引き算の美学」

(C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会


●引き算の美学が生んだ奇跡●

――そうした音に関する「引き算の演出」は、山口監督のこだわりが現れた部分と言えそうですね。

山口 個人的に “アニメらしいリアクション” に違和感を感じてしまう時があって。台詞がわざとらしいとか、段取りくさいとか。たとえば、何かの言葉が投げかけられた時に、全員が「えっ?」と声を合わせてリアクションする演出とかに不自然さを感じることがあるんです。
それから、キャラクターが単独でカメラに抜かれている時、何かちょっと息芝居を入れることも多いですが、それも「今のカットは(息芝居が)なくていいんじゃない?」と感じたり。もちろん、アニメだからこそのお芝居があるとは思うのですが、場合によってはそれをあえて避けたいと思う時もある。それは、少し意識しているかもしれないですね。

『おそ松さん』の場合、おそ松が何か言った後に残り5人がリアクションで追随するというお芝居が多いんです。今回だと、たとえば冒頭の朝ご飯を食べるシーン。最初の脚本ではおそ松の「いただきます」の後に5人が声を合わせて「いただきます」となっていましたが、コンテの段階で「おそ松が『いただきます』と言い始めたら、他の5人はそれぞれバラバラっと入ってほしい」と思って変えたりとか。そのほうが朝の寝起きの雰囲気としては生っぽいかなと思って。
でも、そういう「引き算」って実は、6つ子役の6人の声優さんたちが本当に巧いからこそできる贅沢なことでもあるんです。

ーー「引き算」的と言えば……生っぽさとは方向が違いますが、イヤミは今回ほとんどマトモにしゃべりませんでしたよね。

一同 (笑)。

ーーイヤミ役の鈴村健一さんが、普通に意味のある言葉をひと言も発しなかった気が……(笑)。

山口 イヤミってキャラがとても特殊なので(笑)。今回、確かにまともにしゃべっていないけれど、しゃべっていないことで逆に存在が際立った気がしています。彼が唯一、本当に、本当に自由に生きている。何にも縛られずに、ただ人の家にズカズカと上がり込んで、勝手にメシを食い、酒を飲み、ヘソクリを盗み(笑)。かといって周囲と隔絶しているわけでもなくて、イヤミのおかげでお泊まり会という展開になった部分もありますからね。そういう意味で、まさしくイヤミらしかったんじゃないかと。やっぱりイヤミってすごいんだなって感じます。

ーーベテラン性格俳優のごとき佇まいで、何もしていないのにさりげなく存在感を発揮して。

山口 そうなんですよね、これがイヤミのなせる技なのかと再認識すると同時に、鈴村さんの「ゲップ」と「しゃっくり」の芝居の幅の広さに本当に感銘を受けました(笑)。
ちなみに先日、やっと直接ご本人に「台詞が “シェー” と “ゲップ” しかなくてすみませんでした!」と謝罪することができました。

ーー「引き算が生んだ奇跡」でしたね(笑)。では最後に、せっかくなのでみなさんそれぞれ、今作の6つ子の活躍を振り返っての印象をお願いします。

橋本 「戻ってきたな」という感覚がありましたね。「ああ、6つ子だ! おもしろいな、かわいいな」って楽しみました(笑)。

西 いつもは「バカやっているところ」を映していただいているんですけれど、今回は朝のシーンなど「何もやっていないところ」を映してくださったおかげで、本当に何もしていない人たちなんだなと実感できました(笑)。そしてラストシーンを観て、これからも変わらないんだろうなって、あらためて思いました。

山口 6つ子に関しては、今回は特別なことはしていないですからね。本当に変わりなく、6つ子はいつも通りそこにいる、という気分で描いていました。特に後半はもう、ひたすら状況に巻き込まれるだけなので、逆に「6つ子はどう描こうか」と思い悩むことはなかったかな、と。気負わずフラットに描けたし、むしろ6つ子が出てくるパートこそ描きやすかったという印象です。お泊まり会をすることになった後の銭湯のシーンとか、「ああ、何か、いつもの通りバカやってんなぁ」と安心できて良かったです。

>>>『おそ松さん 魂のたこ焼きパーティーと伝説のお泊まり会』場面カットを見る(写真13点)

山口ひかる【監督】
『おそ松さん』第1期から多くの話数で絵コンテ、演出を担当。『ギヴン』(2019年にTVシリーズ/2020年に劇場版)を監督。

橋本由香利【音楽】
『おそ松さん』第1期から全作で音楽を担当。『輪るピングドラム』(2011年にTVシリーズ/2022年に劇場版)、『3月のライオン』(2013年)他で音楽を手掛ける。

西浩子【エイベックス・ピクチャーズ】
エイベックス・ピクチャーズ所属。第1期から『おそ松さん』に参加。

(C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会

アニメージュプラス編集部

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