• 『HELLO WORLD』脚本・野﨑まど 前代未聞の《タイムリープ》インタビュー!
  • 『HELLO WORLD』脚本・野﨑まど 前代未聞の《タイムリープ》インタビュー!
2019.08.13

『HELLO WORLD』脚本・野﨑まど 前代未聞の《タイムリープ》インタビュー!

(C)2019「HELLO WORLD」製作委員会

発売中のアニメージュ2019年9月号に、劇場アニメ『HELLO WORLD』(9月20日公開)の特集を掲載。異次元SFラブストーリーの見どころを、伊藤智彦監督、脚本の野﨑まどさん、キャラクターデザインの堀口悠紀子さんがそれぞれ語っている。ところが、その取材の二週間後、映画のヒットを祈願して野﨑さんが撒いていたひまわりの種が、もぐらのせいで台無しにされてしまった。そこで野﨑さんは考えた。もう一度、種を撒いた直後に戻ってインタビューに答え直せば、バタフライエフェクトにより未来を変えられるのではないかと。そして、時は二週間前のインタビューの場面に戻る――時空を超えた野﨑まどパラレルインタビュー・Web(電子)用特別改訂版!!


【電子版改訂:二刷】(2回目)
映画『HELLO WORLD』脚本・野﨑まどは、東京目黒のアニメージュ編集部を訪れていた。映画の特集企画のインタビューのためであった。編集部の一室で待っていると、インタビュアーらしき人物が姿を現した。

野﨑 よろしくお願いします。

――シッ。静かに……。

野﨑 ?

――僕だ。

野﨑 あ! 僕!

――僕は二週間後の世界から来た。今ひまわりを育ててるだろう?

野﨑 ああ。

――もぐらにやられる。

野﨑 そんな。

――聞いてくれ。書店にはすでに今月号のアニメージュが並んでいる。印刷されて出回ってしまった以上、苗がもぐらにやられる歴史を変えることはできない。だが電子版なら今からでも未来を書き換えられる。

野﨑 そうか、電子版なら後から改訂版にアップデートできる……。

――ほんの少しの変化で良い。バタフライエフェクトで結果は大きく変わるはずだ。

野﨑 わかった。やろう。

――本作で野﨑さんが描きたかったことは、どんなことでしょうか。アニメージュ読者に向けて、本作の見どころ、魅力を教えてください。

野﨑 『HELLO WORLD』はホームページのキャッチコピーなどで「ハイスピードSF青春ラブストーリー」と銘打たれていますが、コピーに複数の要素が並ぶ場合、その最後に来るものが作品の最も大きな部分であると思います。つまり本作は「ラブストーリー」で、そこを一番に描こうと心がけました。SFやスピードはラブストーリーという建物を建てるための建材で、ピラミッドの石の一つ一つなのだろうと。一つでも欠ければ成り立たないほど重要なものですが、一番見せたいのはやはり完成した四角錐で、本作のそれに当たるものがラブストーリーだと自分は思っています。

――よし、紙版からわずかに文言が変わった……。結果を確認してくる。

【電子版改訂:三刷】(3回目)
――駄目だった。まだもぐらに掘り返されたままだ。変化が小さすぎたのかもしれない。

野﨑 ならもう少し大きな変化を。

――「SF」「青春」「恋愛」「個性的なキャラクター」……魅力的な要素が物語の中に織り込まれています。脚本をつくるにあたって、伊藤監督からのどんなオーダーがあったのか、それを受けて、物語をつくる際にどんな苦労をされたのか教えていただけますでしょうか。

野﨑 監督の伊藤さんとプロデューサーの武井さんとは企画の開始当初からご一緒させていただいて、オーダーを受けて作ったというより全員で作りたいものを考えてきたという感覚が強いです。企画・プロットの段階から綿密なやり取りを重ねられたので、脚本時は自身を含めて「みんなが作ろうとしているものを具体的に描き出す」という作業になりました。細かな変更などはもちろんありましたが、企画とプロットの骨子がしっかりしていたので「どうしよう」という迷いはあまりなかったです。苦労した点、思い出せる中の一つは劇中世界の技術とリアリティの加減でしょうか。本作の二〇二七年という時代は未来であると同時に現実の延長でもあります。「この物語は私達の世界の進んだ先にあるもの」という手触りをなるべく感じてもらえるよう、遠過ぎず近過ぎずをずっと意識していました。

――よし、ある程度変わったぞ……確認だ!

【電子版改訂:四刷】(4回目)
――もぐらがこなくなった!

野﨑 やった!

――だが代わりに葉が虫に齧られていた……。

野﨑 ああ。

――大胆な修正が必要なのかもしれない。

野﨑 もう答えないとか。

――本作に限らず、野﨑さんは脚本をつくる際に、どんなことを心がけているのでしょうか。

野﨑 (思わせぶりに笑う)。

【電子版改訂:五刷】(5回目)
――庭中たぬきの群れに荒らされていた……。

野﨑 ひどい……。

――やり方が間違っているのだろうか……。

野﨑 インタビューの影響を利用するのではなく、直接苗を守りに行ったほうがいいのでは。

――なるほど……種を撒いたのは七月八日だ。

二人は自宅の庭に向かった。まだ芽吹いていない種の周りにトタンを埋めて壁を作る。これでもぐらの侵入は防げる。土をかけ直しながら、野﨑は呟いた。

野﨑 さっき、脚本についての質問がありましたけど。

――ああ。

野﨑 脚本の脚は「あし」で、そこには全体を支える土台という意味があります。自分は脚を作りました。無ければ立てないですが、けれど脚だけあっても何もできません。胴を作る人、腕を作る人、頭を作る人、スタッフ全員がそれぞれの部分を作っています。そうして力を合わせれば素晴らしいものができあがると信じています。

今埋めた種が綺麗な花を咲かせられるかはまだわかりません。映画が本当に素晴らしいものになるかどうかも、未来という意味ではまだわかりません。でも必ずそうなると信じています。やれることを一つ一つ積み上げていけば、必ず。花にやれることは終わりました。次は映画にやれることを。

――堅書直実とカタガキナオミ、そして一行瑠璃。この3人が生み出された経緯と、それぞれの魅力について教えてください。

野﨑 「時間軸の違う二人の自分」「二人にとっての大切な人」という三人はプロットの最初期から存在していました。何かの要請で生み出されてきたというよりも、物語と合致して同時に立ち上がってきたという印象です。

堅書直実は等身大であることが一つの魅力と思っています。高校生、十六歳の時にこんな悩みがあった、こんなことを考えていた、という点でなるべく共感してもらいたいと意識して書きました。自分の年齢からはすでに昔のことですが、間違いなく一度は通ってきた場所で、その時の記憶や気持ちは今の自分にも強く影響しています。直実は誰もが通ってきた部分を多く持っている人で、それは直実本人が嫌いであったりする部分ですらも、きっと魅力の一部なんじゃないだろうかと思っています。

カタガキナオミは十年後の直実であり、十年は長いです。十年で人は驚くほど変わってしまいますし、同時にそれでも変わらない部分はあって、その二つの差が十年という時間を描き出します。直実の魅力が等身大だとしたら、ナオミの魅力は全く等身大でないことかもしれません。ナオミと同じような経験をした人はほとんどいないのですから。けれど真逆の二人はどちらも魅力を持っていて、それはきっとどちらも人間の一部だからなのかと考えたりしています。

一行瑠璃は憧れの女の子であると同時に、本質的には直実に近い人間だと感じます。ただその表出の仕方は直実と大きく違っていて、同世代の二人にはやはり差があります。二人は一六歳というとても多感な時期で、毎日の一つ一つが人生を大きく変えてしまいます。そういう意味でも三人の中で一番“普通”である彼女は、直実やナオミとも違う一人の冒険者なのだと思っています。詭弁ではなく、本当にそう思います。

――野﨑さんから伊藤監督へ「こんなビジュアルにしてほしい」「服装はこうしてほしい」などのご相談はなさったのでしょうか? 映像化するにあたって、オーダーされたことがあれば教えてください。

野﨑 「してほしい」というオーダーはあまり無いのですが、「脚本執筆時はこういうイメージでした」ということはいつもお伝えしています。スタッフワークの中では各セクションそれぞれのイメージがあって沢山のアイデアが集まってきますので、そのうちの一つとして並べさせてもらう形です。多くの意見の中から一番良いものを選べることは共同作業の強みだと思います。

ーー記録世界アルタラやグッドデザインなどについて、なにかモチーフのようなものがあるのでしょうか?

野﨑 アルタラ・グッドデザインとも「これ」という具体的なモチーフはありません。どちらも本作のSF要素を担う、いうなれば未知のアイテムなので、想像力の飛躍に繋がった方が良いとは思っていました。アルタラを球形に描いたのは無限記憶装置のスケール感が天体や宇宙のイメージと繋がったのだと思います。グッドデザインは世界の根幹に干渉するものなので、万物に続くような根底的なものだろうかと想像していました。最初に思ったイメージは真空で、それではアイテムでも何でもないので、次に想像したのが固体・液体・気体の三相が混じったような不定形でした。以降多くのアイデアの研磨を受けて現在の形に昇華されています。

——上記以外で、「これはぜひアニメージュ読者に伝えたい」「ここも観て!」というところを、教えていただけますでしょうか。

野﨑 読者の皆様、視聴者の皆様にこの映画を楽しんでいただければ、それが何よりの幸いです。『HELLO WORLD』よろしくお願い致します。





(C)2019「HELLO WORLD」製作委員会

文/アニメージュ編集部

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