• 日本が沈む日、あなたは何を思う!?『日本沈没2020』湯浅政明監督インタビュー
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2020.11.14

日本が沈む日、あなたは何を思う!?『日本沈没2020』湯浅政明監督インタビュー

(C)“JAPAN SINKS:2020”Project Partners

小松左京のSF小説『日本沈没』の、初アニメーション化作品となった、湯浅政明監督『日本沈没2020』。Netflixで配信されたシリーズ全10話があらたな編集を施され、劇場公開される。
「日本列島沈没」という未曾有の厄災を、登場人物たち「個人」の視点から描いた本作は、その容赦ない筆致ゆえか、配信されるや否や、SNS等で賛否両論を巻き起こした。
『日本沈没2020』とは、はたしてどんな意図のもとに作り上げられた作品なのか?
劇場版として再編集されることで、よりビビッドに観る者に届くようになったテーマについて、湯浅監督に語ってもらった。


極限状態で考えるアイデンティティ

──湯浅監督が『日本沈没』という作品にはじめて触れたのはいつ頃ですか。

湯浅 若い頃、多分レンタルビデオが普及した時期に1度、ビデオか何かで最初の映画(『日本沈没』1973年)を観ています。そのときは「けっこう派手な話だな」って思いました。そして日本云々よりも、主演の藤岡(弘)さんの男前さが印象に残りました(笑)。今回、アニメーション化のお話をいただいてから、あらためて原作小説と、さいとう・たかおさんの漫画版を読みました。1973年版の映画も再見しましたが、日本沈没のメカニズムの説明やスペクタクル的な描写がある一方で、藤岡さんの恋愛ドラマなどもわりと大事に描かれていたのが意外でしたね。

──あらためて見返すと、人間ドラマが印象的でしたか。

湯浅 というか、やっぱり藤岡さんのインパクトが気になりました(笑)。他の役者さんたちも豪華ですし、オールスターキャストの大作映画だったんですよね。

──今回のアニメ化にあたり、原作『日本沈没』のどこに着目し、どんな物語を描こうと考えましたか。

湯浅 最初の映画(1973年)が大ヒットしましたし、近年の映画(2006年)もまた大ヒットしたので、おそらくある程度の数の人がすでにこの作品の内容を認知しているだろうと思いました。そして今も言ったように、最初の映画はいち早く、地震のメカニズムなどをスペクタクル的に描くことや政府の対応を描いていましたし、いろいろな視点の人間ドラマを描くというのも2006年の映画でやっていました。それを踏まえて今、シリーズをアニメで作ると考えた時、まず、スペクタクルを描く方向ではないだろうな、と。
というのも、今は「日本を沈める」ことの意味合いが難しい。原作が発表された時代(高度経済成長の末期)はある意味、日本にとっていい時期だったから、「沈んだらこんなことになるぞ、いい気になるなよ」というアンチテーゼに意味があったと思います。でも現在はおそらく、実際にそういうこと(「日本沈没」に類比されるような社会状況)が起こるかもしれないという不安も実際にある気がします。小松さん自身もきっと、今の時代に描くならば違うところに着目するのではないかな……と思った時、『日本沈没 第二部』(小松左京/谷甲州の共著。2006年刊行)のことを聞きました。それは、小松さんが本来、書きたいと思っていた続編的な内容とのことで。それで、今やるなら「その後」にまで着目すべきだろうと考えました。

──小松さんの原作は、発表当時は「将来、起こるかもしれない災害」のSF的な思考実験という面もあったと思います。ですが、今回の『日本沈没2020』を観る現在の観客はどうしても、阪神淡路大震災や東日本大震災など「体験した災害」を想起してしまう部分があります。その点はどう意識なさっていましたか?

湯浅 観ている人がそのイメージを重ね合わせてしまうのは仕方がないと意識しながらも、それを踏まえた災害を描くことに注力することはせず、「災害ドラマ」ではない方向で描こうと思いました。(日本が沈没すると)多分、過去の経験を踏まえてもなお想像もつかないようなことが起こるだろうし、起こった後も「また復興を」という状況にはならない気がします。
そんな「日本そのものがなくなる」という取り返しのつかない事態が起きた時に、「沈んでなくなる日本って何だ? 自分って誰だ?」という思考部分が、やはり気になります。原作のテーマでもある「アイデンティティの問題」を、今どれくらいの人が意識していて、どのように考えているんだろう、と。多くの人がもう戦争経験もなく、生まれた時から何となく「日本人」としていろいろなものを享受して、時には適当に文句も言いつつ「日本(人)は偉い、すごい」と思ったりもする。一方で、自分が日本人として何をなすべきかという芯のようなものが掴み難い。そんなぼんやりした時代に、「日本が沈没する=なくなる」という極限状況の中で、人は自分の立場をどう考えていくのだろうという「思考」の有り様を考えてみたい。そして、観た人それぞれに考えてもらえたらいいなと思いました。




見えることと見えないこと

──本作はリアルとファンタジーのバランスも独特です。主人公たちに訪れる不幸や幸運が、偶然の連続でありながら、定められた筋書きのようにも感じられて。生々しいサバイバルを見ていると同時に、おとぎ話を見ているような感覚もありました。

湯浅 「事実は小説より奇なり」というけれど、小説や映画で描いたら嘘っぽいよねって思うような出来事が、現実に起こることもありますよね。そういう部分を象徴的に描いている面はあります。途中で出てくる宗教的なコミューンのオカルトっぽい要素も、あえてはっきり答えを出さずに描きました。ユーチューバーのカイトの万能感も、もしかしかたら背景には理路整然とした理由があるかもしれないけれど、それもまったく描きませんでした。そこが、ファンタジー的に見えているのかもしれない。
もちろん、そういう「見えないこと」をわかりやすく簡略化して描くこともできます。でも、この作品は逆に、情報が見えないまま状況に対峙していく登場人物たちを描く方法を選びました。だから、登場人物である歩たちに見えていない場所のカメラ映像は、まったく切り取らないという制約を設けています。彼女たちが心情を吐露する回想やモノローグも普段は一切ない。その結果、エンタメとしてはいろいろわかりにくいところが出ているのも確かだと思います。Netflixの配信を観た人の感想でわりと多かったのが、「脚本が支離滅裂」とか「作っている人が下手」とか(笑)。でもそれは、わからないことを「わからないことです」と受け取ってもらうために、描かないことを選んでいたという面もあるんです。世の中には、見えることと見えないことがある。そこも含めて観ている方々に、登場人物たちと共に極限の状態を体験してもらいたいと思いました。
人間も、世界も、多分それほど理解に容易くない。そんな中で主人公たちが、世界をどう捉えてどういう意思で生きていくのか? そこに「答え」が導かれるのではないかとは思います。でも、世界の捉え方はきっと人それぞれに違うだろうから、ひとつの「答え」を提示するのではなく、観た人それぞれに考えてもらいたい。『日本沈没2020』は、そういう物語になっているのではないかと思います。
何も提示していない、何もわからせようとしてない。そう感じる人もいるかもしれない。けれど、必ず何かを考えられるはず——そんな気持ちで作った作品なんです。





湯浅政明
3月16日生まれ。監督作品に、映画『マインド・ゲーム』『夜は短し歩けよ乙女』、TVシリーズ『ケモノヅメ』『映像研には手を出すな!』、配信『DEVILMAN crybaby』などがある。待機作は映画『犬王』(2021年公開)。

(C)“JAPAN SINKS:2020”Project Partners

アニメージュプラス編集部