• 『AKIRA』を越える作品密度!大友克洋『スチームボーイ』の過激な挑戦
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2022.02.19

『AKIRA』を越える作品密度!大友克洋『スチームボーイ』の過激な挑戦

(C)2004, 2005 Katsuhiro Otomo - Mashroom/Steamboy Committee. All Rights Reserved.


公開時の予告編で「製作期間9年間/総製作費24億/総作画枚数18万枚」と謳われていたが、この言葉は伊達ではなく、本作完成までの道のりは決して平たんではなかった。
1994年にOVAシリーズとして構想されるも企画が難航、大友監督がスポンサーから企画を買い取り、改めて1997年にバンダイビジュアル(現バンダイナムコアーツ)の「デジタルエンジン構想」発表の記者会見時に、押井守監督の企画『G.R.M.』(後に企画は凍結)と併せて制作発表が行われた。
ジェームズ・キャメロンほかハリウッドとのコラボレーションを模索しながら作業が進められるも、CG技術の更新や制作スタジオの変更など様々な要因が重なり、当初予定していた1999年公開は2003年10月に延期、さらに作業の遅れから最終的には2004年7月17日に公開されることとなる。

『童夢』に登場する少女・悦子(エッちゃん)の名前は石ノ森章太郎『さるとびエッちゃん』から、『AKIRA』の金田の名前、アキラのナンバー「28」などが横山光輝『鉄人28号』から引用されるなど、大友作品のあちこちには遊び心あふれる先人へのリスペクトが散見できる。『スチームボーイ』も例外ではなく、そのタイトルは手塚治虫原作のTVアニメ『鉄腕アトム』の海外タイトル『ASTRO BOY』をもじったものである。

ヴィクトリア朝の世界観に改変テクノロジーが展開する『スチームボーイ』を観て、いわゆる先鋭的なサイバーパンク作品である『AKIRA』的なイメージを求める観客は戸惑うかもしれない。確かにストーリーは王道の冒険アクションそのものだ。しかし、その土台となる世界観はとてつもない密度の情報量によって支えられており、作画・美術はもちろんのこと、ほんの一瞬しか登場しないガジェットひとつひとつにも様々な趣向が込められている。

タイトルにあるスチーム=蒸気の表現も通り一遍の表現に収まらず、ある時は激しく、ある時は実に繊細な動きで魅せる、まさに大きな見どころのひとつである。そういう部分も含めて画面の隅々にまで目を配れば、ある意味『AKIRA』以上の過激さをもって本作が作られていることがわかるはずだ。そもそも「懐かしき科学冒険」の世界を当時最先端のデジタルアニメで作る、という発想そのものがパンクであると言えるかもしれない。

今年1月から講談社より『大友克洋全集』の刊行がスタート、第1巻配本タイトルの『童夢』『Animation AKIRA Storyboards 1』は、長らく入手困難であったことから大きな話題を呼んでいる。大友監督の仕事や功績に改めて注目が集まるこのタイミングに放映される『スチームボーイ』もまた、その比類なき才能を知るための重要な1作なのだ。

>>>空駆けるヒーロー!『スチームボーイ』場面カットを見る(写真7点)

(C)2004, 2005 Katsuhiro Otomo - Mashroom/Steamboy Committee. All Rights Reserved.

アニメージュプラス編集部

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