――今回「ククルス・ドアンの島」を劇場版に作り直すにあたって、安彦さん自身はアムロの描き方に関しては、何か変えようと思ったりはしたのでしょうか?安彦 基本的には同じです、どうこう変えようという気はなかったですよ。こちらとしては、むしろ「古谷さんがやってくれるかな」という不安感の方があったけど。
古谷 僕の方は「安彦さんの期待に応えられるかな」という不安がありましたよ(笑)
――観た印象としては、アムロはテレビシリーズよりさらに少年っぽい雰囲気になっているように感じたのですが。安彦 アフレコの時、「また若返りましたね」なんて話を古谷さんにはしていたんですよ。実際いろんな人から「より少年っぽくなった」という感想を聞くから、そう思ったのは僕だけじゃなかったんだね。
古谷 確かに、ベースになったテレビシリーズの時と比べると、若干幼く感じましたね。それは、日常会話の部分が丁寧に描かれているからだと思うんです。そうした部分は、自分も意識して演じていました。
安彦 アムロが今回ああいうポジションに置かれているから、というのもあるかもしれないね。生き延びるために何かしようとすると、飾ってもいられない。そうなると、やっぱり素が出てきて若くなるんじゃないですか。
――以前、安彦さんは「アムロはホワイトベースの中にいるとパイロットとして特別視されているけど、島の生活でその特別感が無くなった」と仰っていましたね。古谷 確かに普通の少年に戻った感じはしましたね。しかも最初の戦いで、ドアンにコテンパンにやられていますからね。
――安彦さんは、アムロの日常的な会話などで特に意識された部分はありますか?安彦 「アムロならそういう反応をするよね」という会話をさせただけです。島が夜を迎えて、ガンダムを探すアムロをカーラが迎えに行くでしょう。カーラのところに駆け寄ったアムロが最初に言うのが「何か用?」って言うんだよね。あれは脚本になくて、副監督のイム ガヒさんがコンテで追加してくれて、凄く感心したんですよ。
古谷 そうなんですか、あれは本当にいいセリフですよね。
安彦 ヘロヘロになって帰ってきて、本当は「ああ、助かった!」って思っているのに余裕があるように振る舞っている。アムロがまだプライドを捨てていないことが、あの一言に現れているんだよね。セリフを変えるとかは演出上よくある話なんだけれど、韓国人の彼女がそうしたさりげない言葉を出してきて「すごく良いセンスだな」って本当に驚いた。
――エースパイロットのプライドを持つアムロが、少しずつ子供たちと打ち解けていく中で普通の少年に戻っていく。そのグラデーションの描き方がとても印象的でした。古谷さんは、演じる上でその部分を意識されましたか?古谷 確かにそうした変化は感じていました。しかもそれがすごく自然に移行していくんですよ。安彦さんのキャラクターは表情や仕草も豊かで、絵の段階で既に「お芝居」してくれているんです。
海外ドラマの吹き替えだと、僕らは俳優さんの演技をコピーして日本語で再現するだけ、みたいなところがあるんですけれど、ちょうどそんな感じです。自分で演技を考える必要があまり無くて、演じる上ではすごく楽でしたね。
安彦 でも、古谷さんがやってくれた時は絵があまり入ってなかったんじゃないかな?
古谷 そんなこと無いですよ(笑)、キャラクターの演技が十分にわかるレベルの絵は入っていましたから。
(後編に続く)
>>>アムロほか魅力あふれる安彦キャラに目が釘づけ!『ククルス・ドアンの島』名場面を見る(写真11点)撮影/真下裕
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