• 樋口真嗣が明かすアイディアスケッチ集『特撮野帳』メイキング秘話
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2022.12.28

樋口真嗣が明かすアイディアスケッチ集『特撮野帳』メイキング秘話

『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』ほか特撮イメージのエッセンスが詰まったスケッチコレクション「樋口真嗣特撮野帳」


――木川さんから見て、樋口監督のスケッチの魅力はどういうところにあると思われますか。

木川 荒々しいながらもレイアウト的には緻密で、すでに完成されてしまっている。「あとは動くのを待つだけ。いや!? 今、ちょっと動かなかったか!?」という生々しさでしょうか。

――読み進めていくと、作品によって絵のタッチが違うのも面白いですね。例えば『シン・ゴジラ』などはラフなタッチでまとめられているのに対して、『シン・ウルトラマン』では緻密な描きこみをされている印象がありますが……。
▲「樋口真嗣特撮野帳」より『シン・ウルトラマン』 (C)『シン・ウルトラマン』製作委員会 (C)円谷プロ

樋口 これは俺の中の “流行り” によるものだと思います。『巨神兵東京に現わる』や『シン・ゴジラ』の時は「破壊」を主に描くということで荒々しい筆致が欲しくて0.7ミリの比較的太いシャープペンで「うりゃー!」みたいな感じで描いていました。
で、『シン・ウルトラマン』の時は当時細めの文房具が流行っていたこともあって、0.2ミリのシャープペンシルとか0.38ミリのボールペンなんかで描いてました。『シン・ウルトラマン』の仕事は「冷静に取り組まなきゃ」とは考えていたんですが、面白いもので細く緻密に絵を描きこんでいると頭が良くなったような勘違いが起きるんですよ(笑)。
そういう意味では、作品のテイストに寄せて筆記具のアプローチを変えていたとも言えますかね。

――『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』2部作では立体機動の仕組み、壁、街並みなど、かなり細かな設定を手がけられているところも見応えがあります。

樋口 まあ気合が入っていたんでしょうね。あと、他の作品は現実の世界が舞台なのでそこを説明する必要はないですけれど、『進撃の巨人』は異世界なので自分なりに世界観を作り込んでいったところもあります。

――『シン・ゴジラ』のスケッチでは、ゴジラが吐いた熱線でビル街の地盤が溶け出すアイディアも描かれていましたね。こういう本編で観られなかった要素が確認できるところもファンにはたまらないと思います。

樋口 そうですね。『シン・ゴジラ』の特撮は全部CGでやることが決まったんですが、1年で作らなくちゃいけなくて。R&D(研究開発)をやっている暇もないので、どうしてもアイディアの取捨選択が出てしまいました。

――掲載された5作の中で、一番満足できた映像プランといえばどれになりますか。

樋口 満足したとはちょっと違うかもしれませんが、『巨神兵東京に現わる』は今観ても異常に気合が入っている感じがします。スタジオジブリのマークが入る映画なので「ジブリの歴史に入るのに相応しくないと!」と思いながら作ってましたし(笑)、しばらく取り組んでいなかった従来のミニチュア特撮の魅力をとことん追求しようとやっきになっていたことも大きいですかね。

――こういったスケッチは、前もって頭の中にイメージを持って描いていくのですか、それとも筆を滑らせていく中でイメージを固めていくのでしょうか。

樋口 両方ですよね。結局頭に浮かんだものを描いてみても、絵にしてみたら「違うな」と思うことがあって。絵が上手じゃないので、思うものが描けないこともあるんでしょうが。

――ええっ、そんなことはないと思いますけれど……。

樋口 いや、謙遜しているんじゃないんですよ。アニメーターや漫画家といった絵のプロの人って、一発で思った絵を描けるじゃないですか。でも自分はそういう才能がないので、納得がいくまで描き直しているんで、とにかく時間がかかる。
運が良ければ一発で決まるんですけれど、そうじゃないときは自分の中でああでもない、こうでもない、とやりながら……なので絵をスキャンする時、消しゴムのカスがいっぱい残ったまま取り込んでしまうこともあって、スキャナーが汚れてよく苦情を戴きます(笑)。

とはいえ、絶望的に時間や手間がかかっても、自分で納得するまで描くことで確認できるものがあるんです。なので非常に歯がゆいですが、何度も消しては自分の頭の中を探っていくわけです。

――なるほど。今回収録されているスケッチの一つひとつが、まさに樋口監督のこれまでの苦闘の軌跡でもあるわけですね。

樋口 かっこよく云うと、そうですね。鉛筆1本で描いた線が絵となり、やがて映像となり、最終的には「映画」という作品になるわけですから、おろそかにはできないわけです。そういう意味では、この本は自分の仕事の「出発点」がぎっしりと詰まった一冊になったと思います。かっこよく云うと(笑)。

――特撮を始めビジュアル業界に関心を持つ、たくさんの方の手に届くと良いですね。

木川 編集作業中にも樋口さんは「出す以上は売れて、皆様の元にお届けできる本にしたい」とおっしゃっていました。大事な事だと思います。

樋口 どんな形でも作り手になってくれる人が増えるのは良いことなので、そういうきっかけになってくれれば嬉しい限りです。あと、この本が売れてくれればこれまで書いてきたのに誰も本にしてくれなかったコラムも書籍でまとめたいなと考えていますので(笑)、どうぞ宜しくお願い致します。

――では最後に。来るべき新作のスケッチも現在着々と進行中、なのでしょうか?

樋口 さあ、どうなんでしょう? 今はまだ何も言えませんけれど「またやらかすか、樋口!」という感じでしょうか。まあ、気長にお待ち下さい(笑)。

>>>樋口監督創作の原点がここに!「樋口真嗣特撮野帳」収録のラフスケッチを見る(写真12点)

アニメージュプラス編集部

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