また今回の企画展示の中で井上さんが特に好きなのが、石臼のことについて宮崎監督が描かれたものだそうだ。これは美術館のオリジナル短編アニメーション『パン種とタマゴ姫』(上映時間:約12分)の制作展示のときのもので、宮崎監督のすごく夢のある話の中にそういう昔から日本にある石臼みたいなものがちゃんと入っていて、それをまたわかりやすく楽しく描いているのが好きだと話してくれた。
▲2階ギャラリーでは2010年の企画展示「ジブリの森のえいが展」よりオリジナル短編アニメーション作品を紹介。宮崎駿監督による『パン種とタマゴ姫』の「臼の仕組み」もここに展示されている。 (C)Museo d’Arte Ghibli (C)Studio Ghibli安西館長も特に好きな展示として、オープン2年目にやった『天空の城ラピュタ』の展示で監督の希望で次々に作ったパネルのために描かれた原図を挙げ、当時は意識してなかったが、パズー達が逃げていくシーンの所をずっと解説するために描いたこの原図を今回改めて見て、宮崎監督が映画の中で紹介しきれなかった事を展示で描かれたんだなと思ったと明かした。
▲『天空の城ラピュタ』の展示より。 (C)Museo d’Arte Ghibli (C)Studio Ghibli井上さんは宮崎監督と一緒に映画制作していた当時を振り返り、「僕自身が驚いたのは、私が担当したシーンで高い塔がいっぱい建ってて、それを上から映していって下までカメラが行くっていうシーンがあるんです。宮崎さんは最初、簡単に描いたスケッチを持って来られて、絵画では遠近法と言いまして遠くのものは1点に収束していくように描くんです、でもその絵を見るとそれがバラバラなんですよ。『宮崎さん、消失点がバラバラになってますけど、このままでいいんですか?』って言ったら、ガッハッハッて笑って『井上さん、アニメなんていい加減なんですよ、好きにして下さい』って言われたんですよ(笑)。えええ〜! そういうもんなんかと思ってですね、自分流に1点に消失点作ってスカッとした絵にしたら、あれ? 何かおかしいなぁと。手で枠を作って上からこう画面を下ろしてくるとですね、宮崎さんが描いたスケッチはカメラが本当に降りてるように見えるんです。僕の絵はただ1枚の画を映してるようにしか見えない。『宮崎さん、こうしたら迫力無くなったんですけど、どうしたんでしょう』って言ったら、また笑いながら『わかりましたか、映画っていい加減なんですよ』って(笑)。聞いたらそれはカメラが降りてきてるんだと。だから消失点もカメラと一緒に降りてくる。しかもカメラが降りきったところで下へ振っていくので、今度は消失点が下へ行きながら下がってきてまたカメラが上がってるんだって言われて、えええ〜! 何てすごい事してるんだと思って。アニメとは恐ろしいもんだと思ったんです」と宮崎監督が描く空間との兼ね合い度の凄さ、動く視点と1点を見つめる視点の違いについて話してくれた。
▲宮崎駿監督と井上直久さんが一緒にやった映画『耳をすませば』のポスター。(C)1995 柊あおい/集英社・Studio Ghibli・NHもう一つ、井上さんがいたく感動されたのが紙で作られた「トトロぴょんぴょん」のゾートロープ。これは館の入口進んで右手奥の常設展示室にある立体ゾートロープ「トトロぴょんぴょん」を作るために見本として紙で制作されたもので、「僕、感動したのは、子ども達があの完成品見たらこれは魔法の世界で自分たちにはとても出来ない夢の世界なんだと思うと思うんですけど、あの紙のを見たらこれなら僕たちだって出来るんじゃないかって思うんじゃないかと思うんです」と絶賛した。
▲紙で作られた「トトロぴょんぴょん」のゾートロープ。 (C)Museo d’Arte Ghibli (C)Studio Ghibliさらに井上さんより「この美術館に僕も20年の間、結構通ってきてるんですけど、さっきも迷いかけたんですよね(笑)。それがすごく面白いと思います。それは宮崎さんの、アーティストとしての品格の高さ、つまりちゃんとしたものを作らないと自分が許せないっていうことなんですね。だから宮崎さんはホントに面白くって心が温まるもんでないと、それは許せない。そういうものを作らない自分は許せないというのがあって、何が何でもされる。そのためには締切も延ばすしスタッフも泣かせる。ただし品格というのはそれだけで通したらただの暴君でね、その後ろには人に対するすごい愛情と労りと優しい心があって、いつもそれがせめぎ合ってるんです。それが映画を作り終わると『もう映画作らない』という理由なんですよ。すごく頑張って作ったけどそのために多くの人が一生懸命泣いて、汗を流してやってくれた、もうこんな辛いことはしたくないっていうのが毎回出てくるんですよね。そういう宮崎さんの求めるもの高さと、自分の大好きないろんな人たちを大事にしたいという気持ちがね、今度の展示は特に感じました。とてもいい展示だと思います」と宮崎監督への思いと共に本企画展示について語られた。
展示期間中、映像展示室「土星座」にて原作・脚本・監督:宮崎駿(ナレーションも)、オリジナル短編アニメーション「空想の空とぶ機械達」(上映時間:約6分)を特別上映予定。
「空想の空とぶ機械達」 (C)2002スタジオジブリ
■三鷹の森ジブリ美術館新企画展示「手描き、ひらめき、おもいつき」展〜ジブリの森のスケッチブックから〜
【開催期間】2019年11月16日(土)〜2021年5月(予定)
【開催場所】三鷹の森ジブリ美術館(東京都三鷹市下連雀 1-1-83)
★三鷹の森ジブリ美術館の入場は日時しての予約制
ジブリ美術館のチケットは全国のローソンで毎月10日午前10時から、翌月入場分のチケットを販売。※web、モバイル、点灯Loppiにて予約、ローソン店頭で引き換えになります。
【問い合わせ先】ごあんないダイヤル TEL 0570-055777(休館日を除く9時〜18時)
三鷹の森ジブリ美術館公式サイト