• 『推し武道』を彩る劇伴音楽のこだわり!音楽・日向萌&寺田P 対談!
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2020.03.18

『推し武道』を彩る劇伴音楽のこだわり!音楽・日向萌&寺田P 対談!

(C)平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会


――フィルムスコアリングのシーンを選んだのは寺田さんなんですか。

寺田 山本監督とも相談しつつ、こちらで選ばせていただきました。元々絶対にやりたいシーンが自分の中であって。第1話アバンの桜道の出会い、あとは第3話ラストの電車のシーンですね。あとは監督から第6話の回想シーンにつけるのはどうかという提案があり、じゃあ回想シーンのどこが良いのかという相談をしました。空音がテニス部時代の過去を思い出すところが回想シーンでありますが、あそこにつけても暗いかなというのもあったので、じゃあChamの結成のところに長めにつけましょうという話になりました。
さっきお話が出た、第7話のえりぴよを追いかける岡山駅のシーンは僕も好きだったので、ここもやれて良かったですね。この先、まだ放送していない話数にもフィルムスコア曲があるので楽しみにしていてください。

▲第1話より

▲第6話より

▲第7話より


――これまでは、わりとしっとりしたところが多いんですね。

寺田 『推し武道』は最後泣かせみたいな感じになっているところが多いので、それもあると思います。フィルムスコア曲は基本パートの頭か終わりにつけていることが多いので。

――劇伴もやっぱり「エモ」が大事なんですか。

寺田 「エモ」だと思います。

最初に作ったのはメインテーマ

――最初につくったのはどの曲でしょうか?

寺田 メインテーマですね。

日向 寺田さんにいただいたアイデアメモにもある通り、「他人を応援する尊さ」というのをテーマとして書かせていただきました。あとは「心の奥深くにある優しい感情を、シンプルにストレートに」っていうことを、自分の中でメインテーマのキーにしています。具体的に言うと、ミニマルでシンプルなフレーズっていうのを曲の中でずっと流していて、そのモチーフを重ねていくことで、感情とか尊さが募っていくというのを、本当にシンプルに表現した曲にしています。
あとは、オタクのもつある種の「ピュアさ」。こちらも曲にも生かしたいと思い、透明感のある音像をすごく意識して作りました。

――透明感を曲の中に出すというのは、使う楽器などを工夫してるのですか。

日向 そうですね。フレーズもそうですし、個人的には楽器はすごく大きい要素だと思っていて。あとは、空気感というか、エアー感、ウェットな感じとか、直接的な音というよりは、少しそこをリバーブをかけたり、自分の中で想像する空気感というのをその楽器に対してあとでエフェクトをかけたりとか、具体的にすることで、全体のもつ空気感というのをそれぞれ優しいものにしたりとか。エンジニアさんとも話をして、すり合わせをしていって。最終的なゴールの音像に近づけていくという感じです。

――寺田さんとのやり取りは何度もされたんですか。

寺田 いや、僕はもう一発で「最高です」という感じでした。自分のイメージは最初のメモの段階で具体的に出させていただいていたのもあると思います。

――使う楽器や、エアー感などのイメージは合っていたと。

寺田 そうですね。弦がいいですっていうお話はしたと思います。

日向 そうです、メインテーマはストリングス系の音楽と。

寺田 メインテーマの初期タイトルが「応援したい気持ち、好きになってほしい気持ち」だったんですよ。サントラだと「推しが武道館いってくれたら死ぬ」というタイトルなんですが、その仮タイトルもすごくぴったりだなって。

――仮タイトルは、日向さんがつけられるんですか。

寺田 制作の順番的にはメインテーマを作った後に、監督から仮タイトルも含めたメニュー表がきたんですね。「えりぴよのテーマ」「舞菜のテーマ」とか、そういった必要な曲リストを作っていただいて。

日向 原作漫画だったらこの場面、ということまで、具体的に監督さんの中でのイメージが書かれていたので。私もイメージがしやすかったです。自分の中でかなり明確なイメージをもって曲を作ることができました。

寺田 フィルムスコアは映像の動きまで合わせるやり方ですけれど、監督のメニューもすごく細くて、シーンまで指定されているものが結構ありました。フィルムスコア一歩手前的な。

日向 そうですね。「エモさ」と言っても、わりと漠然としていますが、そこがすごく細分化されて発注していただいたので、イメージをしやすかったです。どういう「エモ」なのかっていう。

――作曲に続く、レコーディング、ミックスというのは実際にはどのような作業になるんですか。

日向 まずレコーディングは3日間かけて収録しました。

寺田 スタジオに入って色々な楽器を順番に録っていました。

日向 デモの段階では打ち込みで、自分の中でコンピューターで完結させるんですけれど、そこから楽器を決めて、レコーディング期間中にプレイヤーの方と一緒に楽器を録っていくんです。打ち込みベースだと、やや平べったい印象だったものが、プレイヤーさんの息を吹き込むことで、より立体的になったり。あとは新しいニュアンスとか、そういうグルーヴ感とか、また新しくそこで生まれるものもあって。1曲1曲がすごく実のあるものになっていくというか、そういう期間ですね。

――全部パソコンじゃないんですね。生の楽器も演奏するんですね。

日向 全部打ち込みで完結させるものもあります。曲のジャンルにもよると思うんですが、今回はエモいものが多かったり、生の楽器に頼る部分もたくさんありました。あとはえりぴよのテーマ楽器というのあって、それがサックスなんですけれど、監督さんからのメニューにも書いてありました。

――ポイントにできそうな楽器を生で録るんですね。

日向 はい。あとはストリングスだったり。

――楽器はいくつくらい録ったんですか。

日向 ドラム、木管、ストリングス、サックス、トランペット、ギター、ハーモニカですね。

――ドラムも録るんですね。

日向 そうですね。メインテーマでもすごく印象的に使わせてもらっていることもあって、今回劇伴全体を通して録らせていただきました。

――一番打ち込みにしそうな気がしていたんですが。

日向 やっぱり生になった瞬間に、空気感という面でも曲全体を包み込んでくれるので。これは生にして今回よかったなと思うポイントのひとつです。

寺田 今回のドラム、すごく格好いいと思います。

――格好いいですよね。打ち込みでは出せない部分があるのでしょうか。

日向 やっぱりプレイヤーの方のニュアンスというのも、新たに入れ込めるので。自分になかったものとか、レコーディングして初めて生まれるものもそこにあるので、すごくよかったです。

寺田 現場では日向さんがディレクションもしていました。

日向 プレイヤーの方と方向性を一緒に決めていくというところで、伝えられることを伝えさせていただきました。その中で細かいニュアンスというのは、基本的にはプレイヤーの方にお任せして、最終的なゴールを目指していくという形ですね。実はディレクションすごく苦手なんですよ、私。

寺田 「もうちょっとこういう感じも聴いてみたいです」みたいな感じで、何度も録り直しているときもありましたね。

日向 「エモさ」の中の種類だったりとか。プレイヤーの方もプロなので、すごく汲み取ってくださるんですよ。私が具体的に言葉にできない感情っていうのも、拙い擬音語やら何やらで何とかこう、言葉にして伝えると、しっかりそれを音楽で返してくださる。そこは音楽のいいところだなっていうか。言葉にできない部分を音楽として、共通言語で返してくれる。難しいけどやりがいがあります。

――ミックスはいかがですか。

日向 録った楽器と、元々打ち込んでいたトラックを曲の中でバランスを整える作業になります。今回40曲あるんですが、1曲1曲エンジニアさんがバランスを丁寧に整えてくださって。それを私がいただいて、またフィードバックを1曲ずつ返して、というやり取りを何回かさせていただきました。結構少しのバランスが、全体の印象につながったりもするので、ここは個人的にはかなり、できるだけ時間をかけてこだわってやりたいポイントではあります。

――具体的には、音の強弱やテンポを変える作業なのですか。

日向 テンポは基本的にはデモの段階でフィックスさせていて。ここでやるのはボリュームの調整だったり、サビの部分はこの楽器をもっと出したいとか、あとはさっきちょっとお話に出たエアー感、曲全体の空気感だったりとか。そういう細かい処理だったりとか。エンジニアさんともすごくやり取りをさせていただいて、エンジニアさんも汲み取ってくださって、最後一緒にすり合わせをしていくという感じです。

――さらに本編のダビングと作業が続くわけですね。

寺田 ダビングは本編側のミックスみたいな作業で、音楽や台詞、効果音を混ぜながら音を固めていく作業ですが、日向さんにはその前のアフレコにも来ていただいていました。フィルムスコアでは、セリフとのかぶりも気にしないといけないんです。楽器がバンと入ったところと喋り出しがぶつかってしまうと、よくないので。毎回アフレコが終わった後の素材も共有して、それをもとに作業していただいて。その先のダビングにはほぼ毎回来ていただきました。

日向 私が何か言うことは特になかったんですけれど、自分の曲がどういう風に使われるのかとか、現場でたくさん見させていただきました。

文/阿部雄一郎

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