――元々こういう映画のジャンルがお好きなんですか。上坂 小さい頃から実家でBS・CS放送が観られる環境だったので、ずっと日本映画専門チャンネルと東映チャンネルを観ていたんです。最初に好きになったのは黒澤明監督の作品で、そのあと東映の任侠映画が好きになって。高倉健さんの『網走番外地』シリーズや鶴田浩二さんを観て「カッコイイ!」と思っていました。今は日本の戦争映画にハマっていて、岡本喜八監督の作品とかが好きですね。
――今回放送される3作での天知さんの魅力を、それぞれ一言で表現すると?上坂 『憲兵と幽霊』は「これぞニヒル!」(笑)。『恋愛ズバリ講座』は……「滑舌が凄い!」ですかね。で、『怒号する巨弾』は……うーん……「やっぱり宇津井さんに勝たない」(一同笑)。勝てなくはないけど「勝たない」っていう感じですね。「もうそろそろかな?」みたいな感じで自分から負けの態勢に入っていく感じになるのがいいんです。
――収録では天知さんのことを「負けるヒロイン」とおっしゃっていましたけれど、上坂さんはダークなサブキャラに惹かれる傾向があるんでしょうか。上坂 私はマンガなんかを読んでいても、そういうキャラを好きになる傾向が強いんですね。天知さんが新東宝で演じた役の半数以上が命を絶ったり逮捕されたり……無事なまま終わる映画がほぼないので、後年の『非情のライセンス』や『江戸川乱歩の美女シリーズ』なんかを観て「おおっ、毎回生き残っている!」なんて思ったりして(笑)。それくらい新東宝の天知茂さんの全身からにじみ出る悪のオーラ、滅びゆく悪の姿が魅力的だなと考えています。もっとも、あとで伝記を読んでみると実際はとても素敵な方で、下積みの時代も長く、お酒も飲まなかったと知ったので、今はその素顔と役柄、両方を好きになっています。
――では作品内の悪役の天知さんと善玉の天知さん、これはどちらが好きですか?上坂 やっぱりどちらも、ですね。悪を演じている時はニヒルさを楽しめるし、正義の役をやっている時は「この人、本当に信用していいんだろうか?」と怪しみながら観て楽しめるという(笑)。
――今回3作をセレクトしての放送になりますが、他に天知さんの作品でお勧めのものはありますか。
上坂 そうですね……やっぱり作品として有名な『東海道四谷怪談』でしょうか。これがまた、本当に悪い役なんですけれど(笑)。あとは同じ中川信夫監督の『女吸血鬼』。てっきりタイトルロールを三原葉子さんが演じていると思ったら、吸血鬼はドラキュラ風味の天知さんだったという(笑)。これがまたカッコよくて。こんなにドラキュラが似合う日本の俳優さんは他にいるんだろうかって思うくらい、好きな作品ですね。
怪奇もの以外では『黄線地帯 イエローライン』をお勧めしたいです。この作品で石井輝男監督のファンになりましたし、天知さんがほぼ主人公扱いのカラー作品なので。あと同じ石井監督の『黒線地帯』もスピーディーで面白いですし、『恐怖のカービン銃』という天知さんの新人時代の作品は「ご飯食べろよ!」と言いたくなるほどほっそりとした天知さんが最初から犯人役で登場しますので、こちらも是非! それから新東宝じゃないですけれど、勝新太郎さん主演の『座頭市物語』が好きですね。
『上坂すみれの新東宝シアター ー天知茂、痺れるほどキザで、ニヒルでー』より (C)日本映画専門チャンネル