• 『アイ歌』吉浦康裕が熱狂した『機動警察パトレイバー』劇場版3作の魅力
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2022.04.30

『アイ歌』吉浦康裕が熱狂した『機動警察パトレイバー』劇場版3作の魅力

『機動警察パトレイバー2 the Movie』(C)1993 HEADGEAR/BANDAI VISUAL/TOHOKUSHINSHA/Production I.G


5月8日に放送される『機動警察パトレイバー2 the Movie』(1993年)は前作から3年後、特車2課の後藤小隊長・南雲しのぶ隊長を中心に物語が展開する。
横浜ベイブリッジで謎の爆発が起きる事件が発生。様々な憶測が飛び交う中、後藤と南雲の前に陸幕調査室別室に所属する「荒川」という男が現れ、爆発は自衛隊機に偽装した米軍機によるミサイル射撃であり、柘植行人という人物がこの事件の鍵を握ることを示唆する。この事件から派生した様々な出来事をきっかけに警察と自衛隊の関係は悪化、遂に東京に戒厳令が布かれることとなる――。
現在の東京を戦時下へと誘うシミュレーションが緻密に積み上げるクールなポリティカルサスペンス、そしてバラバラになっていた特車2課メンバーが再集結し最後の決戦に臨む熱い展開も大きな見どころだ。
▲『機動警察パトレイバー2 the Movie』▲『機動警察パトレイバー2 the Movie』

『2 the Movie』は、最初に観た時正直理解できていなかったんですが、東京という都市の空気感を閉じ込めていると言うんでしょうか、ショットの一つひとつが強くて「凄いものを観ている」という感覚はありました。レイアウトや美術、川井憲次さんの音楽も含めて、当時「リアルアニメの最高峰」と言われてたのも納得でした。
荒川が後藤と南雲さんを首都高のドライブに誘って、車内で会話する場面があるんですけれど、フロントガラス越しに望遠で荒川の顔を抜いて、その後部座席に乗っている後藤と南雲さんがボケて映るカットを観た時、僕は実写を超えたリアリティを感じたんです。その瞬間、アニメの真髄がわかったような気がしたというか……多分高いレイアウト力と撮影技術、アナログ撮影ならではのフィルム効果みたいなものに圧倒されたんです。

あと、特車二課の面々が全然出てこないことにも面食らいましたが、お馴染みのメンバーのやり取りを見るとホッとしますね。やはり影響を受けているのか、どんなにシリアスなシーンでもちょっと笑えるシーンを入れるのは、自分もついやっちゃうんです。
『2 the Movie』のレイバー戦も海底トンネルを使って侵入するシチュエーションを含めて、漫画的なケレン味とは違う臨場感のある描き方をしているのに興奮しました。
後藤さんと南雲さんの大人のドラマも、印象的でしたね。大林隆介さんと榊原良子さんの演技も本当に凄くて、お二人とはどこかで是非お仕事をご一緒できれば……と考えています。
▲『機動警察パトレイバー2 the Movie』

『Methods 押井守「パトレイバー2」演出ノート』という本があるんですが、そこで解説された「レイアウトを第一に構築していく」という演出の方法論は、自主制作の頃から『アイの歌声を聴かせて』まで、自分の根底にありますね。『the Movie』が素直に娯楽として楽しませてくれた作品だとすれば、『2 the Movie』は自分に作り手の目線を気づかせてくれた作品だと思います。

5月15日放送の『WXIII機動警察パトレイバー』(2002年)は漫画版のエピソード『廃棄物13号』を下敷きに、謎の巨大生物を巡る陰謀を追う二人の刑事のドラマが展開する。特車2課のメンバーがほとんど登場しない、スピンオフ要素の強い作品である。
東京湾に輸送機が墜落する事故発生以後、湾岸で作業するレイバーが何者かに襲撃される事件が多発する。城南署の刑事・久住と秦は調査を進めていく中で、バビロン工区の水上コンテナ備蓄基地で「廃棄物13号」=WXIII(ウェイステッドサーティーン)と呼ばれる謎の巨大生物と遭遇する――。
▲『WXIII 機動警察パトレイバー』

『WXIII』は第一報が出てからしばらく音沙汰がなくて、気が付いたら公開されていたという印象なんですが、これは本当に丁寧に作られた作品なんだな、と。廃棄物13号の動き、イングラムのアクション、ちょっとしたシーンのレイアウトや特効の入れ方など、すごく隙がないんですよね。
ただ。内容があまりに『パトレイバー』から離れていて面食らいましたね(笑)。漫画版の『廃棄物13号』のエピソードは好きだったんですが、さらに輪をかけた刑事モノになっていますからね。

あと話の構造上、特車二課の面々が事件の核心に一切絡んでこないのもこの作品の異色なところであり、同時に『パトレイバー』の本質をついている作品だなと。『パトレイバー』ってロボットアニメと警察ジャンルをリアルに組み合わせた結果、野明たちは立場上警察もので一番ドラマを盛り上げる刑事事件の捜査部分に踏み込めないのが現実的で。それに気づいた時、実に『パトレイバー』らしい、コアなファン層に訴える思い切りのある作品だなと好印象を抱きました。
この作品のアクションシーンも大好きなんですよ。スタジアムでの怪獣とイングラムの対決は、尺も意外に長くて贅沢な作りになっていますよね。
▲『WXIII 機動警察パトレイバー』

3作の影響は、自分が作った『REBOOT』のあらゆるところに込められています。例えば、電磁警棒を持つ手首を回転させながら返すシーンは『The Movie』の描写がヒントになっていますし、車中から指示を出す女隊長の各レイアウトは、気づけば全部『the Movie』『2 the Movie』に出てくるアングルばかりでした(苦笑)。さすがにママはまずいので変更できるところはしましたけれど、それくらい自分の中に『パトレイバー』が染み込んでいるんです。

劇場版に限らず、OVA・TVシリーズなどあらゆる『パトレイバー』の要素を全部詰め込んで作ったので、今回の連続放送で『パトレイバー』の魅力にハマった方たちには、ぜひ『REBOOT』も観ていただきたいですね!

吉浦康裕(よしうら・やすひろ)
1980年生まれ、北海道出身。スタジオ六花代表。九州芸術工科大学(現:九州大学芸術工学部)在学中に『キクマナ』(2000)、『水のコトバ』(2002)を個人で制作。卒業後アニメーション作家活動を開始、『ペイル・コクーン』(2005)で商業デビュー。代表作は『イヴの時間』(2008~09)、『サカサマのパテマ』(2013)、『アルモニ』(2014)、『機動警察パトレイバーREBOOT』(2016)、『アイの歌声を聴かせて』(2021/第45回日本アカデミー賞 優秀アニメーション賞)など。

>>>『機動警察パトレイバー』劇場版3作、『機動警察パトレイバーREBOOT』の名場面を見る(写真32点)

(C)1993 HEADGEAR/BANDAI VISUAL/TOHOKUSHINSHA/Production I.G
(C)2002 HEADGEAR/BANDAI VISUAL/TOHOKUSHINSHA

アニメージュプラス編集部

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