• 『パトレイバー2』にまつわる2冊の必読書と巨匠たちの幻のコラボ
  • 『パトレイバー2』にまつわる2冊の必読書と巨匠たちの幻のコラボ
2022.05.08

『パトレイバー2』にまつわる2冊の必読書と巨匠たちの幻のコラボ

(C)1993 HEADGEAR/BANDAI VISUAL/TOHOKUSHINSHA/Production I.G


★二人の巨匠がコラボした「幻の大作」★

『パトレイバー2』という作品はもうひとつ、後世に語り継がれるべき1冊の本/作品を生み出している。
先にあげた『Methods』の中で、大きくフィーチャーされているクリエイターがいる。
それは『パトレイバー2』でレイアウトを担当した今 敏。
後に『パーフェクト・ブルー』『千年女優』『東京ゴッドファーザーズ』などのアニメーション映画を監督することになる巨匠だ。
『パトレイバー2』公開の翌年となる1994年(奇しくも『Methods』発売と同年)、当時、まだ漫画家としての活動が主だった今 敏の『パトレイバー2』での仕事を高く評価した押井守は、自身が原作を手掛ける漫画連載の作画を今 敏に依頼することになる。
その作品が『セラフィム 2億6661万3336の翼』である。
アニメージュ1994年5月号より連載が開始された本作は、同誌で長期連載されていた宮崎駿『風の谷のナウシカ』の完結・連載終了を受け継ぐ、新たな大型漫画連載として押井にされたもので、企画時に押井は担当編集に「自分が生涯に作りたいものの中で、いちばん大きな球を放った」と述べている。
いずれは映像化も見据えた大きな企画で、その作画担当として押井が推薦したのが今だった。

感染者の身体の一部を変容させ、強烈な幻覚を見せながら死に至らしめるという謎の伝染病〈天使病〉が蔓延、多くの国家が破綻し世界は崩壊の危機に瀕している。
難民の武装蜂起や浄化と称する虐殺により混沌とする世界の中で、少女・セラを中心とした人々は天使病の謎を解くべくタクラマカン砂漠を目指す……。
多彩なイマジネーションと緻密な設定、そしてそれを形にする今の圧倒的な絵の世界——だが、本作の連載は残念ながらわずか16回で、未完のまま中断することとなる。
押井の原案をもとに綿密な打ち合わせが行われ、さらに今のアイデアも積極的に盛り込まれながら進んで行った連載だが、ある時点から押井・今の両者の方針に齟齬が生じるようになったことが連載中断の原因とも言われるが、詳細はいまだ不明だ。

その後、長らく単行本化も実現していなかった本作だが、2010年に今の急逝を受けて追悼出版として単行本が刊行され、現在も電子書籍等で読むことができる。
単行本にまとめられた第16話までの内容は、全貌が明らかになっていない以上は憶測に過ぎないが、おそらくは膨大な物語の序章と思われる部分のみだ。
だが、すべてのページ、すべてのコマから感じられるイマジネーションの輝きは、今もなお色あせることはないーーそしてそれゆえに、未完に終わったことがもどかしい。
まさに〈幻の大作〉と呼ぶに相応しい作品なのだ。

『パトレイバー2』で展開される押井守の世界、そしてその映像を形にする上で多大な貢献をした今 敏の世界。
二人の巨匠の作品に惹かれる人は『セラフィム』を手に取り、そこに眠っている可能性——もしかしたら観ることができたかもしれない物語の世界に、思いを馳せてみてはいかがだろうか。
▲『セラフィム 2億6661万3336の翼』(増補復刻版)復刊ドットコムよりKindle版配信中
▲『セラフィム』本編より/(C)押井守・今 敏

>>>【関連画像】緻密なレイアウトに基づいて作られた『パトレイバー2』場面カットほか(写真9点)

(C)1993 HEADGEAR/BANDAI VISUAL/TOHOKUSHINSHA/Production I.G

アニメージュプラス編集部

RECOMMENDEDおすすめの記事

RELATED関連する記事

RANKING

人気記事