――個人的に本作でこだわった部分は他にありますか。田村 シンプルにちゃんとしたアニメーションを目指したい、というのはありましたね。凄いものを見せる、みたいなことではなくて、日常的な何てこともない部分をちゃんとアニメーションで見せたかったんです。
実は「何てこともない」というのが一番難しくて……ちょっと変だったり、逆にすごく上手くて目立つ絵は目立つのですぐ気付けるんですけれど、「普通」の場面がそうなってしまうと失敗なわけです。もし「普通」の描写が特に気にならずに観てもらえたなら、こちらのこだわりは成功したんだと思います。
――なるほど。そこに、安彦さんが描くキャラらしい動きや仕草を入れていくわけですか。田村 そこがまた難しいところなんですよ。自分も安彦さんの作品を観て育っているので、それをやり過ぎるとまた気になってしまいますからね。
漫画だったら成立するけどアニメだと破綻することもあるので、安彦さんのキャラらしさを保ちながら、あまり安彦さんの癖を見せず普通の芝居として認識してもらえるのはどの辺りなのか……という判断や見せ方の匙加減は楽しい反面、とても苦労しました。
――今作のストーリーに関しては、どのような感想を持たれましたか?田村 「ククルス・ドアンの島」を映画にする、と聞いた時はすごく驚きました。驚きましたけれど、安彦さんが監督されるのであれば面白く描けるのではないかな、と思いました。安彦さんの個性も落とし込めるし、ガンダムワールドの良いところを描くにもちょうどいいと思えました。安彦さんもおっしゃっていましたが、最初の『機動戦士ガンダム』はアムロがいろんな人と触れ合うことで成長していくことが主題だった、と。だから、本作もそういった主題に立ち返っているんだろうなと思いました。
――確かに。エースパイロットとしてホワイトベースで慢心していたアムロが、ドアンや子供たちと生活することで自分の未熟を知り、そこから成長して再びガンダムに乗り込むという、小さな成長譚でもありますね。田村 そうですね。それが描けないと『機動戦士ガンダム』をこの形でリメイクする意味がないし、それこそが安彦さんのガンダムなんだろうな……と、そんな気がしました。ドアンというキャラクターも「戦争」という局面を描くのにある意味わかりやすい題材だと思うし、そういう安彦さんの思いがひとつに集約されている気がしますね。
――数多くの安彦キャラを描いたと思いますが、描いていて楽しかったキャラクターは誰ですか。田村 プレッシャーが大きすぎて楽しむのはなかなか難しかったですが(笑)。マ・クベは好きなキャラなので思い入れがありますね。安彦さんもマ・クベが好きみたいで、本当はもう少し出番が多かったんですよ。でも、さすがに話が脱線しすぎるということで切ってしまったんですよね。女性キャラではミライさんが描いていて楽しかったですね。
――では最後に、作品を完成させた感想と個人的な見どころを教えていただけますか。田村 すごく大変でしたが、安彦さんと楽しく作業をすることができて光栄でした。見どころとしては、YAMATOWORKSさんの作ったCGによるモビルスーツのバトル、あとエフェクト作画監督の桝田浩史さんがこだわりを持って「安彦爆発」を描いていますので、そうした部分と併せてストーリーを楽しんでいただければと思います。
>>>繊細、可憐、そして精悍! 『ククルス・ドアンの島』キャラクターの名場面を見る(写真10点)(C)創通・サンライズ