• 『王立宇宙軍 オネアミスの翼』監督・山賀博之が語る伝説の真相【4Kリマスター版上映】
  • 『王立宇宙軍 オネアミスの翼』監督・山賀博之が語る伝説の真相【4Kリマスター版上映】
2022.10.27

『王立宇宙軍 オネアミスの翼』監督・山賀博之が語る伝説の真相【4Kリマスター版上映】

(C)BANDAI VISUAL/GAINAX

今から35年前の1987年に、若き制作集団「GAINAX」が作り上げた『王立宇宙軍 オネアミスの翼』――のちに『トップをねらえ!』、『ふしぎの海のナディア』、『新世紀エヴァンゲリオン』などを世に送り出す若き制作集団GAINAXとバンダイ(後のバンダイビジュアル、現・バンダイナムコフィルムワークス)がタッグを組んだ長編アニメーション映画だ。

“戦わない軍隊” 王立宇宙軍に所属するシロツグは仲間たちと目的もなく怠惰な毎日を送っていたが、少女・リイクニとの出会いをきっかけに世界初の宇宙飛行士に志願。心配する仲間たちと共に、ロケット打ち上げに邁進することになる。数々のメカやガジェット、衣装、通貨や言語などの文化・風俗に至るまで、 すべてゼロから作り上げられた緻密な “異世界” を舞台に、宇宙に賭ける若者たちのリアルな青春ストーリーが描かれていく。
監督を務めた山賀博之をはじめ、若き日の庵野秀明、貞本義行、樋口真嗣など、後に日本のアニメーション/映像業界を背負うことになるメンバーが集結して心血を注いで作り上げた映像は当時、多大なインパクトを与え、世界中のアニメファンから熱く支持された。
そんな伝説の作品が、山賀博之監督の監修のもと35mmマスターポジフィルムから4Kスキャン&4Kリマスター化を実施され、鮮やかに蘇る。
35年を経てもなお、観る者を圧倒する映像世界はいかに作られ、そこには何が描かれていたのか? リマスター作業を通じて改めて作品と向き合った、山賀博之監督に話をうかがった。

【35年を経て感じた手応え】

ーー今回、4Kリマスター化された『王立宇宙軍 オネアミスの翼』ですが、山賀さんご自身で今の目でご覧になってどんな印象を抱かれましたか。

山賀 とにかく “リアル” なんですよ。“リアル”、そのひと言に尽きます。4Kということで映像のレゾルーション(解像度)が上がることは想像がついていましたけれど、特に凄いのは「音」ですね。音のクリア度、粒立ちが素晴らしいです。無音のところは本当に無音になってくれるし。
当時のフィルム上映形式では、ダビングした音を一旦磁気テープに保存し、そこからさらに現像所でフィルムのサウンドトラックにしたわけですから、どうしても音質は下がります。封切り直後であっても音が籠もってノイズが乗ってくるし、あまりスピーカーの状態が良くない劇場で観ると、入れたはずの音が入っていないように感じることもありました。音量が小さいからではなくて、周波数によって消えてしまう音があったりするんですよ。

――当時の技術的な制限ですね。

山賀 だから、当時は完成品を観て「もっと(音に)表情があったはずなのに……」と感じていました。声優さんの声だけではなくて、効果音などにももっと表情があり“演技”をしていたはずなのに、それが抜けて平板になっているという印象が、実は封切り当時からありました。でも、それは仕方ないことで、当時はまだプロとしてのキャリアも経験値もなかったですから、劇場でどのくらい“緩く”なるかを想定しながらの作業はできませんでしたし。スタジオで「これでOK」と思って、完成品を見るとちょっとアテが外れているところもあった……というのが当時の正直な印象です。

それが今回、ようやくスタジオでOKを出したバージョンにかなり近い音で観られるというのは、とても大きいですね。そういう意味でも “リアル” です。作品世界がより現実的に感じられるという意味での “リアル” もさることながら、当時作業をした意図――ここにこの絵があり、こういう音が鳴り、こう話が展開するということを「良し」とした自分の仕事が、あらためてリアルに見えた気がしました。

よく「自分の作った作品は自分の子供みたいなものだ」と言う方もいますけが、僕の場合はそういう作家的なタイプではなく、「自分の仕事が終わりました、ご苦労様でした」と自分自身で区切りを付けたら、それ以降はあまり完成品に対して関心を抱かずにきました。今回の4Kリマスターで35年目にして初めて、自分が関わった作品で自分がどう働いたのか、あらためて自分で確認したというところはありますね。

ーー35年目にして手応えを実感した、と。

山賀 なぜそうなったかというと、やはりリアルに音が鳴っていたから。そしてもちろん映像も、筆のタッチまで見えるくらいの解像度になっていたからです。つまり「あの時、こうしたな」と思い出せるだけの材料が、4Kリマスターにあったということが大きいと思います。

ーー4Kで音の解像度もあがるというのは、確かに「言われて見れば」というポイントですね。そして、映像の解像度があがったことも大きい。リマスター版を拝見して改めて、当時こんなに凄いものを見せられていたのかと驚きましたし、それは「あの頃は凄かった」というノスタルジーではなく、「今観てもやはり凄い」という感覚でした。

山賀 まあ、その「凄い」という意味で言うと、何というか……つまり上手くいったんですよ。非常に才能のある人たちが集まり、その人たちが変に「使われる」意識ではなく、自分たちの力を自分たちの仕事として自ずと証明していく。そういう作品として作れたというのが大きかったと思います。だから、スタッフたちの能力の高さがしっかり表現されているのだと思います。

ーーたとえば、庵野秀明さんが原画を描かれた、ロケット発射の場面がありますね。

山賀 そうですね。

ーー無数の氷の破片が手描きアニメーションで緻密に表現されている伝説的なカットですが、あらためて4Kの解像度で見ると、これをすべてひとつひとつ手描きで……と驚愕します。

山賀 あのシーンも、実は上手に誤魔化してはいるんですよ。同じことをもし現在のCGで描いたらすべての破片が動くわけですが、もちろんあのシーンではそんなことはしていない。動かすところ、スライドで処理しているところ、引き写しのところ、上手く使い分けています。ただ、そこで重要なのはセンスですよね。CGの物理演算で再現したほうがリアルはリアルだけれど、それだけでは何らかの “表現” にはなっていない。そういう方向でリアルにしていけばしていくほど、そこには自然現象があるだけで。

あのロケット打ち上げのシーンはそうではなくて、破片というもの利用して表情、情緒を表現している。庵野のあの破片はその意味で凄いんです。情報量をコントロールすることで「これは人間が作っている表現です」という主張が生まれている。

ーー手描きアニメ特有の省略やデフォルメの技法を、単なる省力化ではなく表現として活かしているわけですね。優れた手描きアニメ作品から感じる独特の味わいは、そういうところからも生まれているのかもしれないです。

山賀 今だったらあの氷片も、CGでもっとリアルに描けるかもしれない。でも、そこにどんな情緒が込められるかとなると、途端に手描き以上に大変な部分が実は出てきます。ピクサーなども現在の表現にたどりつくまでには、相当な苦労をしていますからね。つまり、上手かろうがそうでなかろうが、「人間がこう描いている」という意図や想いが手描きのアニメには込められているということなんです。
▲庵野秀明が作画を担当した、クライマックスのロケット打ち上げシーン。細密に動く氷片の描写はリアルであるだけでなく、打ち上げにかけたキャラクターたちの感情も表現しているかのようだ。

(C)BANDAI VISUAL/GAINAX

アニメージュプラス編集部

RECOMMENDEDおすすめの記事

RELATED関連する記事

RANKING

人気記事