• 『王立宇宙軍 オネアミスの翼』監督・山賀博之が語る伝説の真相【4Kリマスター版上映】
  • 『王立宇宙軍 オネアミスの翼』監督・山賀博之が語る伝説の真相【4Kリマスター版上映】
2022.10.27

『王立宇宙軍 オネアミスの翼』監督・山賀博之が語る伝説の真相【4Kリマスター版上映】

(C)BANDAI VISUAL/GAINAX


【ロケット打ち上げがモチーフになった理由は?】

ーー参加したスタッフひとりひとりの意図、想いが作品に溢れているのが『王立宇宙軍』という作品だと思いますが、当時のスタッフがそこまで作品に “込める” ことができたのはなぜだったのでしょう? ストーリーや題材に惹かれたというのもあるのでしょうか。

山賀 いえ、それほど惹かれてはいなかったと思いますよ(笑)。まずは……これは自分のことなので控えめに表現にすると、僕が何も決めないからですね。

ーー決めない?

山賀 普通はいろいろ決める監督が多いと思いますが、僕は決めないんです。僕が抱いている監督のイメージは、オーケストラの指揮者なんです。指揮者って音を出さないじゃないですか。楽器を持っている人たちが音を立てますよね。そして楽器を持っている人たちのリーダーはコンサートマスターですよね。ということは、コンサートマスターがいて楽器の編成があれば音は出るんです。じゃあ、指揮者は何をしているのか? それが僕は監督(の仕事)だと思っています。

ーーそれぞれにやりたいことをやってもらうというか、力を引き出すというか。

山賀 もっとも大事なのは彼らに “いちばんいい音” を出してもらうことなんです。“いちばんいい音” を採取できれば言うことはない。でも実際の所、仕事が動き始めると責任は取りたくないから、スタッフは必ず監督に「どうしたらいいの?」と聞いてくる。僕は「いや、特にどうとでも……したいことなどないですから」と(笑)。

まあそこは、演出家というのは微妙に嘘をつきながら、抑えたり引っ張ったりして強弱はつけるわけです。指揮者のやれることって結局、強弱じゃないですか。クレッシェンド、デクレッシェンドを的確につけられるかどうか。自分は、そのテクニックは持っていると思っていますが、逆に言うと、そこは人があまり注目しないところで。多くの観客はそれぞれのパフォーマンスに対して注目するし、音を立てている人たちは自分の立てている音にしか興味がないはず。それを上手くハーモニーに持っていくのが、僕はやはり指揮者=監督だと思います。それが自分の仕事ですね。

ーーつまり、この作品には集まったスタッフの、当時の “いちばんいい音” が記録されている?

山賀 僕はそう思っているし、それこそが自分の仕事として自負しているところです。「あの人からこんなものを引き出した」「この人からはこんなものをいただいた」という意味で、自分は仕事をしたと思っているのですが……ただ、あまりそんなことを言うと嫌われる(笑)。

ーーいえいえ(笑)。

山賀 やっていた側は「オレがやったんだ」と思っているわけで。「やらせた」なんて言うと怒られちゃう。

ーーでも、そういう風にそれぞれの人がベストなものを作り上げる場を、山賀さんが作り上げたのは間違いないのでは。

山賀 もちろん、それが仕事だと思っていますが。そのための脚本だし、そのための世界観の設定だし。たとえば「破片が美しい庵野がいる以上、破片の話だろう」と考えて。破片が美しい話って何だろうと探っていき、サターンロケット打ち上げの記録フィルムの破片(氷片)、あれを庵野に描かせたら凄いだろうな、と逆算で捉えていったわけですよ。

ーーロケットの打ち上げという本作のメインモチーフは、そこから出てきたということですか?

山賀 そこからですね。それと同時に、プロデューサーの岡田斗司夫さんが「SFでやってくれ」と言うので、「SFか。SF小説とかあまり読んだことないけど」と(笑)。何がSFで何がSFでないのかはよくわからないけれど、とりあえず宇宙は出そうというのもありましたね。で、宇宙で破片、宇宙で破片……と考えて、まあロケット打ち上げかな、と。

ーーSFという意味では、作品内にまるごとひとつ「異世界」が描かれるのも本作の特徴です。細かいガジェットのデザインから文化・風俗、歴史的な部分まで、現実世界と似ていながら異なる架空の世界を構築している。その膨大な作業に向けられた情熱にも驚きます。

山賀 でも、そこもみなさん「情熱」とおっしゃるんですが、意外と情熱じゃないんですよ。理屈でもあるんです。まず「SFを作れ」というオーダーがあり、それに対する応答が「異世界」だったんです。あの当時は「異世界」という言葉を使うとすぐに「剣と魔法の世界」でしたが……。

ーー今でもそのイメージは支配的ですね。

山賀 でも今は、「世界線」なんていう便利な言葉が出てきましたからね(笑)。あの当時は「世界線」なんて言葉は使えない。マルチバース的な考え方は一般的ではなかったですから、そういう意味では「異世界」と言っても通じなかったです。

だから、この作品の微妙な異世界を人に説明するのは難しかった。「未来の話なの?」とか「『スター・ウォーズ』みたいに他の銀河の話?」とか。面倒臭いから「地球によく似たどこかの惑星の話です」って言ってました(笑)。そうなってくると、銀河系のどこかにある地球型の別の惑星を真面目に作るということ自体が「SF」なわけです。それは、やろうとすると確かに大変。でも、ある意味では物量勝負なので、とにかく作っていけばいい、という意識でやっていただけなんです。

ーーそこで描かれるイメージが、われわれの現実を思わせるところもあり、でもやはり違うものであり……。

山賀 そう、ちょっと違うんですよね。そこはちょっと違うからこそ、逆に現実を見た時におもしろくなるじゃないですか。例えば、こういう(と、手元を指さして)ペットボトルに入ったお茶というのは、現代の僕らからしたら何ということもない。テーブルの上にこれが乗っていたことすら記憶に残らないと思うんです。

でも、これってよく考えたら……たとえば僕の親の世代から見たら、お茶がこんなものに入って売っているということ自体、驚きですよね。「その茶色いのは何? 何でお茶がそんなところに入っているの? そんなものを買う人がいるの?」と、うちの親なら言うと思う(笑)。つまり、こんな何気ないペットボトルすら「おもしろいもの=ワンダー」になるわけです。世界中が「おもしろいもの」に溢れているわけですよね。

プロデューサーの岡田さんに「SFでやってくれ」と言われ、「SFって何ですか?」と聞いたら「センス・オブ・ワンダーだ」と返ってきた。うーん、センス・オブ・ワンダーって何だろうと考えて。その時の答えが、つまりそういうことだったんです。この世のすべては “ワンダー” でできている。それをどうすれば表現できるだろう、ということで生まれたのがあの世界です。
▲軍用兵器・武器から建物、住居、衣装、日用品まで、画面に映り込むものすべてがわれわれの現実と似ているようで異なる。そこにあるのは、ファンタジーとリアリティが共存する唯一無二の世界観。

(C)BANDAI VISUAL/GAINAX

アニメージュプラス編集部

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