• 『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が大切に描く3つの「時間」
  • 『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が大切に描く3つの「時間」
2022.11.24

『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が大切に描く3つの「時間」

(C)暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会


まず、上映時間。
この作品の上映時間は140分と、アニメーション映画としてはかなり長尺だ。例えば現在上映中の新海誠監督『すずめの戸締まり』の上映時間は121分、同じ新海監督の前作『天気の子』は116分。宮崎駿監督『風立ちぬ』は126分だ。
通常、90分から120分前後で制作されるアニメーション映画の中で、本作の長さは異例と言っていい。今回の「金曜ロードショー」でも40分の拡大枠での放送となる。

だが、ひとたび映画が始まると、その長さはまったくといっていいほど感じない。気が付けば、あっという間――しかし、140分という時間に込められた圧倒的な感情の渦が、大きな感動を生み出している。
静かに淡々と進んでいく物語の中で、すべての画面、音楽、キャストの演技、環境音が研ぎ澄まされていく。飽きさせることも饒舌すぎることもなく、的確だが決して冷たくもなく、ヴァイオレットを筆頭に登場する人々の心が情感たっぷりに伝わってくる。

では、それほどの長尺の時間がなぜ必要だったのか? それは、本作のキーとなる2つ目の時間――〈間(ま)〉だ。
本作の監督・石立太一はインタビューでこう答えている。

「(長い)尺に関してやりたいことというと、シーンやセリフに言及されがちですが、今回はそれだけじゃなくて、“間(ま)”を贅沢に取らせてもらったので、それで尺が伸びている部分も大きいと思います。しゃべっていないシーンがかなり長いところもあって、いろいろやりたいようにやらせていただいた感じでした」(アニメージュ2020年11月号)

じっと何かを見つめるヴァイオレット、ひたむきに何かを待ち続けるヴァイオレット……言葉も動きもほとんどない、静寂に包まれたシーンが、この映画には多い。
京都アニメーション作品といえばアニメーションの活き活きとした動きの魅力が語られることが多い。この映画でももちろん、時に繊細、時にダイナミックな “動き” が見どころとなっている。
だが実は、アニメーションで動かないことを表現するのは、動きを表現するのと同様に難しいことでもある。
実写ならば、風景の中にじっと動かずたたずむ人にカメラを向ければ、役者の佇まいやその場の空気感がおのずと映し撮られ、そこに何らかの情感を込めることもできる。
だがアニメーションでは、そうしたキャラクターの佇まい、空気感、経過する時間、すべてを計算し描き込まなければ単なる「止まった絵」になってしまう。「動かない」絵に時間を与え、感情を表現するためには、映像に対する卓越したセンスが不可欠だ。

今回の放送では、ぜひ〈間〉に注目して本作を観てほしいーーいや、あえて注目するまでもないのかもしれない。じっと動かないヴァイオレットの表情、ほんのわずかに震える瞳の光、美しくなびく髪、静けさを伝える音響、そして、そこから漂う繊細な情感が、否応なく観る者を惹きつけるはずだ。

さらに本作の物語そのものにとっても、〈時間〉は大きな意味を持っている。
実は今作は、複数の時代にまたがる物語を描いている。
ヴァイオレットが生きた時代、過ごした時間の物語。
それとは異なる時代の、とある少女のエピソード。
具体的な内容に触れることになってしまうので詳細な記述は避けるが、その二つが絡み合った時にわき上がってくる “何か” が、おそらく『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の感動を生み出している。

〈時間〉を使い、〈時間〉を表現することで伝わる、〈時間〉を超える想いと感動。
今回の「金曜ロードショー」でぜひ、それを感じてほしい。

(C)暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会

アニメージュプラス編集部

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