• 本広克行監督が語る『ビューティフルドリーマー』の実験と野望
  • 本広克行監督が語る『ビューティフルドリーマー』の実験と野望
2020.11.05

本広克行監督が語る『ビューティフルドリーマー』の実験と野望

(C)2020映画「ビューティフルドリーマー」製作委員会



――僕なんかは企画をうかがった時、本広監督の『サマータイムマシン・ブルース』(05年)を思い出したんですが。

本広 言われてみると似ていますね。『サマータイムマシン・ブルース』も押井さんの影響を受けていますし、オープニングはそっくりだと思います。押井さんの『天使のたまご』(85年)って、わけがわからないけれど心に残っていて、あんなことをやってみたいな、と前から思っていたものですから、『ビューティフルドリーマー』は最初そのテンションで進めていたんですが、途中でさすがに怖くなって物語性を持たせるようにしたんですけれど(笑)。

――今回、演出にエチュード(即興劇)を持ち込んだのは、どうしてなんですか。

本広 台本の内容をきっちり撮るという作業を30年もやっていると……飽きるんですよね(笑)。経験値が上がってしまうと「こうすれば(映画は)完成する」というのがわかってしまうので、似たような作品を再生産することになってしまう。これを何とか変えていかなくては、と思ったんです。
あと、東陽一監督の『サード』という映画があるんですが……。

――こちらも78年のATG作品ですね。

本広 寺山修司さんが担当した脚本を入手したんですけれど、読むと場面の大枠と人物のインアウトだけが書いてあって、セリフはほとんど書いてないんですよ。でも作品を観ると、とてもそんな感じには見えなくて、おそらく東監督が現場で緻密にエチュードを作っていったと思うんですね。あの完成度にどこまで近づくかが最近の僕のテーマでして……おそらく大作でそれを試すのは無理なので、このくらいの作品なら許されるかな、と(笑)。

――エチュードといいながら、クレジットには脚本担当の方もおられますよね。

本広 エチュードをやっていて、どうしてもしんどいところだけシーンごとに発注させていただいた形になります。役者を集めてワークショップをやったり、本物のカメラマンや録音技師さんを呼んでレクチャーをしてもらったりしながら作っていくことで、普段なら出てこない言葉や演技が役者から出てくるわけです。それを取り入れると、面白い映画になるんじゃないかと。

――他にも、そういうチャレンジはあったんでしょうか。

本広 戦車が出てくる場面なんかは、まず「今回の予算枠では現場まで持ってこれない」というところから始まって、「じゃあ、戦車のあるところに行ってカメラを回そう」という発想で撮影しました。あれは『戦国自衛隊』(79年)、『ぼくらの七日間戦争』(88年)に登場した由緒正しい戦車なんですよ。



――それって本編の話とまったく同じじゃないですか! つまり、映画の制作自体もエチュード感覚なんですね。

本広 そうです。僕らの「映画をどうやって作ろう?」という苦悩や思い付きを、そのまま本編に取り入れているわけです。

――出演者が「本人」を演じている、というのも面白い発想です。

本広 自分自身なわけですから、エチュードもやりやすいみたいですね。役者に関して言えば、こちらもムロツヨシみたいな感じで「こいつ、絶対ブレイクするな」っていうのが大体わかるんですよ。だったら、ここで「売れる直前の人たちを集めて作品を作ったらどうなるか」という実験をしてみようと。

主演の小川紗良自身も、映画監督として活動している

(C)2020映画「ビューティフルドリーマー」製作委員会

アニメージュプラス編集部

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