• ドラマ『推し武道』音楽:日向萌に聞く! 推しは桃太郎!?
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2022.11.04

ドラマ『推し武道』音楽:日向萌に聞く! 推しは桃太郎!?

(C)平尾アウリ・徳間書店/「推しが武道館いってくれたら死ぬ」製作委員会・ABC



◆すべて新規の劇伴、注目は『桃太郎』◆

——劇伴についてもおうかがいしたいと思います。こちらは完全に新規ということですが、こちらはどのように進めていかれたのでしょうか。

日向 作曲的には完全新規とは言いつつも、それぞれのキャラのテーマ楽器はアニメから引き続き残しています。えりぴよはサックス、舞菜はチェレスタですね。そういった構想は引き続き活かすような形で作っていきました。

——アニメとドラマを両方やられているところのいい面ですね。

日向 せっかくならそこはどうにか活かしたいなっていうのが個人的にも強くあったので。そこは寺田さんにも相談しつつ、使わせていただきました。

——いくつか曲についてお聞きしたいと思いますが、まずメインテーマ。一番の柱になってくる曲だと思います。

日向 メインテーマに関しては、いろいろな作り方があると思います。例えば普通だとAパートとBパートで表情を変えたり、セクションごとにいろいろな違う表情を見せる展開を考えたりもするんですけれど、今回の『推し武道』のメインテーマにではサビまで曲道せずに、同じ感情がどんどん重なっていくイメージなんです。落ちることなく右肩上がりに、ずっと積み上がっていくイメージで書いています。
サビがメインになるんですが、ラストにもちょっとこだわっています。そこまでずっと積み上がってきて、サビで盛り上がって、そこで終わりじゃなくて。音楽ディレクターの池田さんからアドバイスをいただいたんですけれど、最後のサビが終わった後に少し夢見心地な余韻みたいなものがあってもいいんじゃないかというところで、最後のパートを付け足して、全体の構成が出来上がりました。

——寺田さん的にはメインテーマはいかがでしたか。

寺田 すごく好きです。「推しを想う心」というのはアニメのときから共通している音楽のコンセプトですが、胸の高鳴りとか、そういったニュアンスをアニメのときよりも地に足ついた感じで表現していただいたと思っています。バンドサウンドの影響も大きいと思うのですが、実写のメインテーマとしてすごくしっくりきました。あとはメインテーマのバリエーションを5種類作っていただいて、音楽集のタイトルで『推しが武道館いってくれたら〜』から始まるものはメインテーマの派生です。特にTrack10『推しが武道館いってくれたら頑張れる』が好きですね。

日向 この曲はシンプルにメインテーマをピアノとストリングスバージョンとしてアレンジしたものなので、思いもその分、本当にシンプルに伝わりやすい曲なのかなと思います。

寺田 あと『推しが武道館いってくれたら頑張れる』を含めて、今回のメインテーマの一部はハンガリーのオーケストラに演奏していただいたのですが、その厚みにも映画っぽさを感じられてすごく好きです。

日向 リモート収録ではあったのですが、何曲かハンガリーのブダペストでストリングスを録らせていただきました。やはりホールのような広いところで録っているので、その分の空気感がそこに含まれて、自然のリバーブ感というか、空間の効果がより出ていると思います。

——えりぴよのテーマとして作られたというTrack6「オタクの登場」はいかがでしょうか。ちょっと攻撃的な雰囲気もある曲ですね。

日向 (笑)。アニメの楽曲を作るときに、初めてえりぴよに対してイメージした私の感情や印象を残したかったので、ファンクロックの曲調や、テーマ楽器のサックスを活かしつつ、ドラマ版サウンドに落とし込んでいった感じですね。

寺田 最初、頭のギターの音がちょっと厄介オタクっぽく聞こえないかという懸念があったんです。ただ、デモをチェックに出したときに、大谷健太郎監督から「僕はこのくらいでも面白いと思います」というフィードバックをいただいたんですね。加えて同じ時期に撮影に立ち会いながら、映像の雰囲気と松村沙友理さんのお芝居を見て、この感じであれば懸念していたような印象にはならないかなと思い直しました。なのでそのままの方向で進めましたが、結果すごく良かったですね。

——入場曲だったら、絶対ヒールか面白い人が登場しますね。

寺田 映像や芝居との組み合わせで、良いバランスになったのではないかと思います。

——Track12『オタクの日常』はいかがでしょうか。

寺田 アニメのときの曲に近い雰囲気もありますね。

日向 そうですね。脱力感みたいなものを大事にしながら。でもそれだけだと『推し武道』じゃないよなっていうところで、少し熱量も加えたかったので、コーラスワークを入れてみました。

寺田 あとは同じオタクジャンルの楽曲のTrack5『オタクの熱弁』、これもすごく好きです。「まーたオタクが変なこと言ってる」っていう感じの印象で、すごく『推し武道』っぽい曲だなと。

日向 こういう熱量のあるパーカッションが『推し武道』にはすごく合うとアニメを通しても感じた部分だったので、そこは残しつつ、ウクレレのメロディや、ギターの生の感じがさらに活かされたラインだと思って作りました。

寺田 すごく気持ち良い曲で、作業用BGMとしてもいいと思います。あとはTrack13『オタクの一喜一憂』も面白い構成ですね。

日向 これはそれぞれフックになるような曲を作ろうと思って、別々に作った3曲をストレートに繋いでいった感じですね。それぞれの曲にケレン味があるというか、いい意味で立ってくるといいなっていう感じで書きました。

寺田 ミュージカルっぽい感じで、全然違う曲になっていって。

日向 それぞれジャンルも全然違う曲なので、聴き応えがあるのではないかと思います。

寺田 最後は賛美歌のような感じで終わります。

日向 召される感じで。

寺田 こういう遊びができるのが『推し武道』の強いところですよね。

——Track14『ふたりだけ』、Track15『一番近くで』、Track17『何かしようよ』はChamJamペアをイメージした曲だと聞きました。

寺田 『一番近くで』がれお&空音、『ふたりだけ』が眞妃&ゆめ莉、『何かしようよ』が優佳&文のコンセプトで書いていただいたのですが、『何かしようよ』はアニメでもなかったような雰囲気の曲ですね。

日向 これはマーチングドラムを土台にした曲です。やっぱり優佳&文という、原作でもパワフルで周りをパーッと明るくする魅力がたっぷりのふたりなので、音楽でもそれが感じられたらいいなと思って、どの曲でも使っていないマーチングドラムを使いました。マーチングドラムはチアとかのイメージもあるんじゃないかって池田さんが言っていて。そういう意味でもエネルギーを与える女の子という印象にも繋がるんじゃないかなって思います。

寺田 同じChamJamの曲で言うと、Track7『私たちが楽屋にいったら』も良いですね。ChamJamの日常という感じで。

日向 今回の楽曲タイトルはポニーキャニオンさんにつけていただいたのですが、このタイトルすごく好きです。

寺田 このタイトル、実は平尾先生が先日の取材の帰り際に言っていたアイデアなんです。アニメのときに「私たちが武道館にいったら」という劇中歌を作ったのですが、その曲が「努力の結果、ChamJamがひとつ上のステージにあがる」みたいな志の高い曲で。今回はそれとは真逆で、「楽屋にいて本当に何もしていない感じ」という対比のタイトルになりました。そんなのほほんとした感じもChamJamのひとつの魅力だと思います。

日向 そうですね。資料映像をいただいた中にChamJamの楽屋裏シーンの映像もあって、それを見ながらもっとこうかなっていうテンポ感は試行錯誤していきました。

——Track4は『大都会岡山』ですね。

寺田 曲の雰囲気と全然違うタイトルにしてみました。

——大丈夫ですか、岡山の人に怒られませんか。

寺田 岡山の方が自分で大都会と呼んでいるのも聞いたので、大丈夫なのではないでしょうか…(笑)。

日向 この曲は最初の音楽打ち合わせで、「日常曲のどこかでウクレレが入るような夏らしい曲がほしい」ということを監督の皆さんや選曲の泉清二さんが話していたのをヒントに制作しました。この曲をきっかけにウクレレを使う箇所も増えましたね。メインテーマにも使っていますし、わりとあらゆる曲で使わせてもらいましたね。

——そして最後も岡山の曲で、Track8『桃太郎 〜Bossa Nova ver.〜』についても聞かせてください。

日向 これはドラマの中だと喫茶店のシーンとか商店街のシーンで、実は薄くかかっています。何となく聞いてると普通のボサノバに聞こえると思うんですが、実はよく聞くと『桃太郎』のアレンジになってるところがミソかなと思うので、聞いてもらえたら嬉しいです。

寺田 おしゃれなボサノバなのに実は『桃太郎』、というギャップが面白いですね。

——最後のところ音が下がっていますよね。

日向 ギターをオクターブにしたからそこのギターのローの印象が少し強まったのかもしれません。ベースも途中から入ってくるので下の支える感じがだんだん増えていくのかなと思います。作っていて楽しかった曲です。

——最後に、せっかくなのでアニメも含めた楽曲制作の裏話も聞かせてください。

日向 原作の表紙、表がアイドルのイラストで、裏表紙がオタクのイラストになってると思うんですが、全巻の表表紙と裏表紙を交互に見ながら、オタクの曲を作る時は裏表紙を見て、アイドルの曲を作るときは表表紙を見ながらアニメのときは作っていたんです。今回もその作り方がしっくりきましたね。
えりぴよと基と玲奈が描かれた5巻の裏表紙が好きなんです。えりぴよの格好がすごく好き。くまささんが見たいときは4巻の裏表紙。くまささんがちょっと格好いい感じで描かれているんです。カラーなので色もわかるしインスピレーションが湧きやすいんです。愛用しています。
▲原作第4巻の裏表紙。くまささんが格好いいセリフを言ったところ。 (C)AURI HIRAO 2018
▲原作第5巻の裏表紙。えりぴよと基と玲奈が描かれている。 (C)AURI HIRAO 2018

——では最後に読者の方、視聴者の方へメッセージをお願いします。

日向 細部までこだわって制作したので、ぜひ音楽にも注目しながら見ていただけたら、楽しんでいただけたらいいなと思います。繰り返しですがTrack8の『桃太郎 〜Bossa Nova ver.〜』はミュージシャンの力をお借りして、格好いい粋なアレンジになっているので、そこにも注目していただきたいです(笑)。


日向萌 プロフィール】
ミラクル・バス所属。国立音楽大学作曲学科卒業。CM・ドラマ・アニメなど映像音楽を中心に作曲・編曲を手掛ける。<担当作>TVアニメ『推しが武道館いってくれたら死ぬ』、劇場アニメ『怪盗クイーンはサーカスがお好き』、実写映画『都会のトム&ソーヤ』、実写ドラマ『孤食ロボット』ほか


寺田悠輔音楽プロデューサー プロフィール】
ポニーキャニオン所属。<担当作>TVアニメ『推しが武道館いってくれたら死ぬ』(プロデューサー/音楽プロデューサー)、TVアニメ『東京リベンジャーズ』(音楽プロデューサー)、実写映画『君は放課後インソムニア』(プロデューサー/音楽プロデューサー)ほか

(C)平尾アウリ・徳間書店/「推しが武道館いってくれたら死ぬ」製作委員会・ABC

文/アニメージュプラス編集部

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